「皇室」関係者へのワクチン接種順序

以下の時事通信社の記事を読んで考えさせられた。

政府は4月14日、皇室への新型コロナウイルスのワクチン接種について、優先することはせず、政府が決めたスケジュールに従って実施するとの方針を明らかにした。宮内庁の池田憲治次長は同日の衆院内閣委員会で、『ワクチン接種の順序について政府の方針に従い、それぞれのご意向に沿って実施できるように準備していきたい』と述べた。接種したことを公表するかに関しては、『現在検討中だ』と明言を避けた

日本の天皇閣下ご家族の写真 宮内庁公式サイトから

日本政府は皇室関係者をワクチン接種の優先リストに入れず、国民と同様、ワクチン接種の順番に従って行うというものだ。当方は皇室関係者はワクチン接種の優先リストに入れるべきだと考えている。皇室関係者が自ら「われわれも国民と同様の順序にしたがってワクチンを受けたい」といわれたのかもしれない。それにしても、日本国家の象徴の立場の天皇皇后ご夫妻には早急にワクチン接種を実施すべきだ。これは皇室の特権云々の問題ではなく、天皇を国家の象徴的柱とする日本としては、政府、国民の義務と考えるからだ。

どの国でも皇室や王室は閉鎖社会だ。ウイルス感染が一度発生すれば、皇室、王室関係者が全て危険にさらされる。クラスターが生じる危険度は他のコミュニティより高い。特に、中国武漢発の新型コロナウイルスは目下、さまざまな変異種が猛威を振るっている。どのような変異種が将来出てくるかも予想できない。天皇家を感染病の危険から守るのは最重要課題ではないか。

国民は平等であるから、全ては公平な対応が求められるが、天皇家へのワクチン接種優先はその平等や公平の原則に反するものではなく、日本という国体を尊重する意味が当然含まれてくる。

戦後、天皇制の廃止を主張する国民が少数いるにしても、日本の大多数は天皇家の発展を願っている。その意味で、ウイルスの危険から最善の予防対策を取るべきであり、ワクチン接種は現時点では最良の選択だ。もちろん、どのワクチンを接種するかは別の問題だが。

ワクチン接種は死を伴う危険性がある感染症を予防する目的だ。生死を掛けた問題だ。だから、ワクチン接種の優先順位問題は時には人間的ドラマを繰り広げる。接種希望者は出来れるだけ早急に受けたいと考えるのは当然だ。基礎疾患のない人が偽って病気持ちと言ってワクチンを受けようとするケースも報告されている。妊婦が優先して接種されるため、「私の妻は妊婦だ」と言って、妊婦の家族にあてられたワクチン接種を受けようとする人がいる。政治家がその特権を利用してワクチンを秘かに入手し、家族全員を接取させたという話も報じられている。

中国発コロナウイルスの感染が広がって以来、マスク着用、ソーシャルディスタンス、手洗い、うがいは必須事項。スポーツ・文化イベントの開催は制限される。一方、営業活動も制限され、レストランで家族と一緒に食事することも出来ない。コロナ規制で多くの人は自由が大きく制限されてきたことを感じている。ワクチン接種でそのような窮屈な生活から解放されたい、といってワクチン接種に反対してきた人もコロナワクチンの接種を希望するといった状況が出てきている。

ワクチンの供給が国民全てをカバーでき、接種場所のネットワークが整っている国にとってはワクチン接種の優先問題は大きなテーマとはならないが、欧米諸国でもそのような条件を満たしている国はほとんどない。だから誰を優先して接種するかが大きな問題となるわけだ。

欧州では感染危険度が高く、医学的ハイリスクの高齢者を守るという判断で高齢者、重度の基礎疾患者を最優先すると同時に、感染者を扱う病院、医療関係者が続く。それらが完了した後は、上の年齢から下に向かって接種を進める。オーストリアでは目下65歳以上の国民を対象にしている。来週からは警察官が続く、コロナ規制反対デモに対応する警察官への感染防止が狙いだ。

問題は、英国発のウイルス変異種のような感染力が強いウイルスが出てきて、若者への感染が増えてきたことだ。集中治療室で治療を受ける20代、30代の若い患者がでてきた。そのため、若い年齢の国民へのワクチン接種を求める声が聞かれ出した。

ワクチン接種の優先問題を考える時、国にとってどの職種、機関が優先すべきかという、民主主義国にとって厄介な判断が求められる。民主主義国では国民が主権者だから、全ての国民は平等の立場だが、ワクチン接種問題となると、もっと具体的、現実的な選択が強いられる。参考までに、欧州でウイルス感染が拡大した直後、メディアではSystemrelevantという言葉がよく使われる。国、機関、国民の日常生活維持の為への重要度から職種を判断する。

国民の生命を守ること、国の運営機能を可能な限り維持させること、この両面の課題が出てくる。そのバランスを維持しながらワクチン接種を進めていくことになるが、優先順位リストから外れたり、疎外されたりする職種も出てくるだろう。日本でワクチンを国内製造するという案が練られているという。国の危機管理の上でもワクチンの国内製造は最善の道だ。早急に具体化していくべきだろう。

最初の問題に戻る、皇室関係者へのワクチン接種を優先するか否かだ。皇室を守るということは日本の国体を維持するという点から重要だ。国民は皇室関係者を守ることで自分が住む国を守ることになるわけだ。皇室関係者の数は制限されているから、ワクチンの供給問題には大きな支障とならないだろう。その意味で、皇室へのワクチン接種優先は象徴的な決定に留まるはずだ。国民が払う犠牲は限りなくゼロに近い一方、国民が受ける代価は大きい。

皇室関係者の婚姻問題などが報じられている今日、皇室への捉え方はさまざまだろう。皇室へのワクチン接種の優先問題は「日本の国がどのような国体を維持しているか」を考える上で絶好の機会となるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。