Pop&Rockのリマインダー/ビートルズ『With the Beatles』

[01 Please Please Me]

ビートルマニア誕生

1960年に【国家奉仕 National Service】と呼ばれる徴兵制が終了した英国は、ビートルズを象徴として新時代を迎えることになります。ビートルズの登場は、英国のティーンが第二次大戦からの【最終的な解放 final liberation】を実現するブレイクスルーになったとも言われています。

1963年、ファーストアルバム『Please Please Me』の【マージービート Merseybeat】で英国の大人気者となったビートルズは、続けてリリースしたシングルレコードとアルバムが次々と大ヒットし、英国での人気を完全に確立しました。街には【ビートルマニア Beatlemania】と呼ばれる、現代の世界ではでは考えられない超熱狂的ファンを生み出し、コンサート会場で叫び失神して運ばれるティーンの女の子たちの生態は社会現象となりました。

現代のビートルズ・ファンはビートルマニア期のビートルズを軽視しがちですが、私はこの頃のビートルズこそ、誰もが口ずさむ真の意味でのポピュラー・ミュージックを量産した史上最強のポピュラー・グループであったと考えます。

全英No.1

シングルレコード『Please Please Me』は2つの英国チャートでNo.1を取りましたが、世界的に【全英シングルチャート UK Singles Chart】して知られるチャートではNo.2止まりで惜しくもNo.1を逃しました。しかしながら、このチャートでNo.1を獲得するのに時間はかかりませんでした。『From Me To You』(A面)と『Thank You Girl』(B面)の構成で1963年4月11日に発売されたシングルレコードはビートルズ初の全英シングルチャートNo.1に輝きました。

■From Me To You [The Beatles 公式]

ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティン提案の”da da da da da dum dum da” のイントロで知られるこの曲は、低音担当のジョンと高音担当のポールのアンサンブルが光るレノン=マッカートニー作品です。オーヴァーダビングのハーモニカ、曲の印象を作っているリンゴとジョージのフォア・ザ・チーム的貢献、この時期おきまりの歌唱フレーズ”Wooo”もあり、ビートルズのスタイルをしっかりと印象付ける作品となっています。ブリッジのサブドミナントの展開とジョージのギターのフレーズ、それと曲を冗長に伸ばすことなく2分以内に収めた短さもナイスです。

■Thank You Girl [The Beatles 公式]

ファースト・アルバムでジョージが歌った”Chains”の発展形のようなレノン=マッカートニー作品です。ジョンのリード・ヴォーカルにポールがうまく絡んでマージービート全開です。そしてこの時期のビートルズのサウンドを象徴するジョンのハーモニカが響きます。おそらく当初の意図はアーシーなブルース・フィーリングを表現したかったものと考えますが、むしろお行儀よく聞こえます(笑)

全英新記録

『From Me To You』に続けて発売された『She Loves You』(A面)と『I’ll Get You』(B面)の構成で1963年8月23日に発売されたシングルレコードは全英シングルチャートNo.1に輝くと同時に、当時の売り上げ記録を更新し、1960年代に英国で最も売れたシングルレコードとなりました。

■She Loves You [The Beatles 公式]

リンゴのフィルインで始まるこの曲こそ、ビートルズの類まれなる才能を開花させ、ビートルマニアを爆発させて、ビートルズを不動の人気者とした究極のポップ・ソングです。もし私も生まれ変われたら、この時のビートルマニアの興奮をリアルタイムで経験したいと思っています!

このポールが作った「彼女は君のことを愛している」と歌うお節介な恋の応援ソング(笑)は、当時の英国国民にとって、かなり奇抜に聞こえたものと推察します。アメリカン・イングリッシュの「イェーイェーイェー」の連呼は大人には不評でしたが、逆に英国ティーンにとっては「最終的な解放」の旗手としてのビートルズを受け入れる強い動機になったものと考えられます。

ユニゾンとアンサンブルを繰り返すジョンとポールのドラマティックなツイン・ヴォーカルを最高に盛り上げているのは、絶妙のポイントでキャッチ―なフレーズを繰り出すジョージのギターとメリハリの利いたアクセントをつけるリンゴのドラミングです。メジャー6thのコードで曲が終わるジョージのアイデアも画期的でした。そしてポールとジョージがキメる最高の”Wooo”こそこの曲の最大の見せ場です。

[The Beatles 公式]

■I’ll Get You [The Beatles 公式]

ジョンとポールのツイン・ヴォーカルにサビからジョージが入ってくる、コーラスグループとしてのビートルズを聴かせてくれるポップなレノン=マッカートニー作品です。メンバーのヴォーカル特性に関する私の認識は、ワイルドなジョン、うまいポール、コンテンポラリーなジョージ、粗暴なリンゴ(笑)であり、この違いが様々なパターンで発現するところが、ビートルズのパフォーマンスの楽しさであると思います。

さて、”She Loves You”で「ナショナル・グループ」となったビートルズは、人気テレビ番組の『Sunday Night at the London Palladium』出演、ロンドン・パレイディアム劇場公演、スウェーデン公演、英国王室のロイヤル・ヴァラエティ・パフォーマンス出演と英国での成功を揺るぎないものにしました。そして発売されたのがセカンドアルバムです。

2nd アルバム『With the Beatles』

1963年11月22日発売のこのアルバムには、大ヒット曲の”From Me To You”と”She loves you”が収録されていません。自らもレコードマニアであったビートルズは、ファンになるべく「二度買い」させない良心的なビジネスを展開しました。[The Beatles 公式音源]

このアルバムの収録曲は14曲で、”Roll Over Beethoven”と”Money (That’s What I Want)” の2曲を除けば全部ラヴ・ソングですが、曲の長さは2分程度のものが多く、その意味では、その手の甘い歌詞がもうたくさんな大人でもなんとか我慢できるものと思います(笑)

ビートルズが作曲した曲は8曲、6曲はカヴァーです。この比率は前作と変わりません。いずれにしても、当時のビートルズが勝負をかけて最善を尽くした内容と考えられます。

■It Won’t Be Long

ジョンのワイルドなリード・ヴォーカルとポール&ジョージの掛け合いは、まるで日本の餅つきのような絶妙のタイミングです(笑)。ジョージのキャッチ―なリフも耳に残ります。アルバムの1曲目に相応しいパンチのあるレノン=マッカートニー作品です。

■All I’ve Got to Do

ジョンがブルージーな自作をビートを畳み込んで踏むようなヴォーカルで聴かせてくれています。

■All My Loving

ポールが作ったこの曲も、”She Loves You”に続く、ビートルマニア初期のビートルズの大傑作と言えます。ポールの一人二役=ダブル・トラックのヴォーカル・ハーモニーは最高にメロディアスな美しい旋律で前向きな歌詞を真摯に歌い上げています。三連符のシンコペーションを正確に奏でるジョンのリズムギターにも注目です。そして何よりも、敬愛するチェット・アトキンス奏法でカントリー&ウエスタン調のギター・ソロを展開したジョージの間奏こそ大注目に値します。パート毎に叩き方を変えて曲を盛り上げるリンゴの演出も素晴らしいです。

[The Beatles 公式]

■Don’t Bother Me

ビートルズとして最初にレコーディングされたジョージの作品です。後にレノン=マッカートニーとは違った洗練されたAOR風の名曲を創造するようになるジョージが、20歳の時点で必死にもがいて作った作品であると考えられます。何しろタイトルが「邪魔しないでくれ」ですからね(笑)

■Little Child

ジョンのブルージーなハーモニカの絡みがなかなかイケてるレノン=マッカートニー作品です。ジョンもポールもこの作品についてはやっつけ仕事だったように後に語っていますが、言うほど悪くないと思います(笑)

■Till There Was You

心が洗われるようなポールの歌唱とジョージ&ジョンのクラシックギターのコラボです。リンゴはボンゴを叩いています。ビートルズの才能がR&Bとロックン・ロールだけではないことを雄弁に語る作品です。

■Please Mister Postman

マーヴェレッツのカヴァーです。R&Bのガールズ・グループは、レコード・マニアだったビートルズのお気に入りであり、自分たちがプレイすることで新しいものを創ろうとしていた意図がよくわかります。ジョンがワイルドに突っ込んでいき、ポールとジョージがバッキング・コーラスするパフォーマンスは素晴らしいの一言です。

■Roll Over Beethoven

チャック・ベリーの名曲をジョージがクールなシンコペーションをつけて歌い上げています。ギター・ソロも自身に満ち溢れて堂に入っているように聴こえます。きっとハンブルクやキャヴァーンで嫌になるくらい演奏したのでしょう(笑)

■Hold Me Tight

この曲も”Little Child”と同様にやっつけ仕事で作曲したようにポールは語っていますが、実際にはポール独特の曲調と歌唱法の魅力を十分に愉しめる作品です。80年代にマイケルと共演した”Say Say Say”は、この曲がモチーフになっている気がします。

■You Really Got a Hold on Me

スモーキン・ロビンソン&ミラクルズのカヴァーであり、ジョンとジョージのツイン・ヴォーカルを組む唯一の曲です。最高にブルージーな曲調には、ポールよりもジョージが適格であるという判断があったように思います。

■I Wanna Be Your Man

ローリングストーンズにも提供したレノン=マッカートニー作品をリンゴがパワフルなドラミングと共にダブル・トラックで歌っています。あえて言わせていただければ、ローリングストーンズのメチャ悪親父(笑)であるミック・ジャガーのロック・ヴァージョンはかなりイケてるのですが、リンゴを中心に抜群のチームワークを誇るビートルズのポップ・ヴァージョンもかなりイケてると思います。ジョージのギター・リフがたまらなく軽快でキャッチーです!

■Devil in Her Heart

これもレコード・マニアだったビートルズが発掘した米国のR&Bのガールズ・グループ、ドネイズのカヴァー曲です。ビートルズは埋もれた佳曲を見逃さないプロのリスナーでもあるのです。ジョージがダブル・トラックでリード・ヴォーカルを務めています。

■Not a Second Time

曲の不思議な展開を聴かせるジョンの佳曲です。スケールの遊び人のようなジョンの歌唱も大きな魅力です。曲の進行に伴うリンゴの発動と細かな演出、ジョージ・マーティンが奏でる低音のピアノもいい味出してます。

■Money (That’s What I Want)

「欲しいのは金だけ」という曲です(笑)。この曲こそ、今後の社会派ソングライターとしてのビートルズの偉大な階段のファーストステップであったかもしれません。

この後、ビートルズは全米大ヒットしたあの曲をシングルで発売、米国に侵攻します。
世にいう【ブリティッシュ・インヴェイジョン British Invasion】です。(続く)


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。