日米新時代の幕開けである。バイデン、菅というニューフェイスが、コロナ禍の真っ最中でありながらも、アメリカの首都ワシントンDCで首脳会談に臨んだ。会談に続く形で発表された共同宣言では、日米同盟は消え去ることがない同盟だという風に表現された。その表現ひとつから、目まぐるしく変わる国際社会の中でさえも、戦後最も長い二国間同盟のひとつである日米同盟の剛健さは顕在であることが証明された。
また、会談ではこれからの日米関係が直面する脅威認識の統一、ポストコロナ後の世界で日米の協力できる分野の調整が行われた。
現状変更を狙う中国への圧力
共同宣言の中身を見たときに、中国に対する懸念が大きな割合を占めている。日米は中国をルールに基づいた国際秩序に反した行動を取っていることに対して懸念を表明し、南シナ海における一方的な現状変更を許さない姿勢を示した。また、共同宣言には1969年以来となる「台湾」についての言及があり、現実味が増す台湾侵攻を狙う中国の行動に日米合同で釘を差した。筆者個人としては、日米と共通の価値観を共有する台湾へのコミットメントに対する明確な意思、又ウイグル、香港での酷い人権侵害を強い文言で非難して欲しいという思いがあった。一方、日米両国が基本的な対中政策の側面で共同歩調を取っていること、これまでの共同宣言より踏み込んだ内容であることに関しては評価できる。高まる中国の脅威に対して今後どのような発展を遂げていくか注視していきたい。
その他の重要課題における協力を確認
また、中国についての言及のみならず、主に三つの重要課題における日米間の協力も明言された。一つ目は科学技術についてである。パンデミックの世界規模での拡大に伴う、サプライチェーンの途絶により、日米両国の自らの中国に対する過度な依存に気づくことができ、そのことが経済安全保障の面での潜在的な脅威だということが認識できた。また、近年、軍と民間との連携を強め、民間で生み出された技術を軍事転用する中国に対抗する必要性も出てきた。それゆえ、共同宣言では日米両国が安全保障の観点から科学技術の開発において連携し、重要技術が自らの脅威となる国に流れることを防止することが強調された。
二つ目は、気候変動への対処である。共同宣言において、日米は2030年までに地球気温の上昇を1.5度で止め、2050年までに温室効果ガスの排出を差し引きゼロにするために断固とした対応を取ることに合意した。また、バイデン氏と菅氏は3つの柱で構成される日米気候パートナシップの開始することに決め、日米がこれからの気候変動の抑制に対して共同でリーダーシップを発揮していくことが確認された。
三つ目は、公共衛生面での協力である。日米のみならず、世界各国がウィルスの脅威に対して未だに脆弱であり、且つさらなる世界的な感染症に備える必要があることから、日米を軸としたいくつかの公共衛生面での施策が提言された。例えば、日米印豪の4か国で構成される通称クアッドと呼ばれる緩やかな同盟軍関係にある国々の間でのワクチン開発の支援、WHO(世界保健機構)の改革、コロナ起源説の深層究明のための支援がなどが挙げられた。また、このような公共衛生面での協力体制の構築がインド太平洋地域の立て直しに貢献するという文言があったことから、公共衛生の改善のみにとどまらない意義が日米間の公共衛生面の協力にあることが印象付けられた。
アメリカの内向き化が見えた記者会見
今回の共同宣言では、日米両国が直面する脅威に向き合う決意が見え、新時代の日米同盟にふさわしい議題が議論された。よって、日米関係の未来に期待を感じる内容であった。その一方で、筆者は会談後に行われた記者会見での質疑応答では一抹の不安を感じずにはいられなかった。
バイデン氏に対する質疑の中で、記者の方から日米関係とは直接関係のない、アメリアの国内課題である銃規制やインフラ法案に関する質問が飛び交った。さらに、やっとアメリカの国内課題以外の質問が出たと思えば、イラン核合意の交渉について質問がなされた。この一部始終から、いかにアメリカが国内の分断から派生する問題に悩まされているかが伺え、内向き志向を強めるアメリカを垣間見ることができた。また、記者たちが日米関係について触れなかったことは、日本のアメリカ国内における影の薄さ、影響力の低下を露呈させた。
さらなる日米同盟の深化を図れ
だが、不安を抱えながらも筆者は楽観的である。なぜなら、日米両国は様々な障壁に直面しながらも、その度に壁を乗り越えてきた歴史を共有しているからである。日米は1940年代の太平洋戦争、1980年代から90年前半にかけた問題化した貿易摩擦などで激しく対立し、時にはお互いの国民の命を奪い合った歴史がある。一方で、両国は戦後、軍事的な面、経済的な面で強固な関係を築き、相互に欠かすことのできない段階にまで関係は成熟した。安倍前首相が2015年に米議会でのスピーチで述べたように日米同盟は「希望の同盟」なのである。新時代の日米関係をけん引するバイデン・菅両首脳はこの同盟が放つ輝きをさらに磨き上げ、この歴史的な同盟のさらなる深化を図る使命を担っている。