菅直人氏と細野豪志氏:原発事故10年目の2冊

2人の当事者が綴った「10年目の振り返り」

先月で発災から10年目の節目を迎えた東日本大震災、そして福島原発事故。当時の政治が下した判断は果たして適切だったのか、あるいはどのような教訓を生み出したか。折しも節目の3月11日を前に、当事者であった二人の政治家が振り返りの書籍を出されたこともあり、注意深く拝読しました。

あくまでも個人的な感想として、それぞれの読後感を書き残しておきます。

一冊は菅直人・内閣総理大臣(当時)による『原発事故10年目の真実』(幻冬舎)。もう一冊は細野豪志・原発事故収束担当大臣(のちに野田内閣では環境大臣も兼務)の『東電福島原発事故 自己調査報告』。どちらも当時の政治における最高責任者であり、中枢の情報を知り得る立場でもあっただけに、興味深い記述が盛り込まれているのは言うまでもありません。

christinayan_by_Takahiro_Yanai/iStock

共に原子力行政に対する警鐘という点では一致していますが、当時を振り返ると同時に、この10年間、両者が何と向き合ってきたかを知る上でも興味深い対比でした。

同時に、福島原発のその後のみならず、図らずも「なぜ、民主党の支持が低迷を続けるのか」「なぜ細野さんは希望の党(当時)を離れ、自民党入りを標ぼうするのか」なども見えたような気がします。

菅さんの焦点は「脱原発」一点、そこに「総括」は読み取れず

菅直人総理といえば当時の最高責任者でもあるわけですが、東京工業大学理学部、しかも応用物理学科卒という専門性ゆえでもあるのか、最新刊はほぼ一貫して「脱原発」の一点に集約されていました。

ただ、そこには現地を離れざるを得なかった人たちへの慮りは見られず、また現在も発電所と向き合い続けている作業従事者へのねぎらいなどは、私には見つけられませんでした。

単に私が期待を抱き過ぎただけかも知れません、そう思い、発災から1年後の2012年10月に出された前作『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』も買い求めましたが、書籍全体のトーンとしては、最新刊と変わらず、焦点は「人」ではなく事故という「事象」でした。すこしばかり残念な思いが残ると同時に、民進党を経て希望の党と袂を分かち、国民民主党や社会民主党を融合する形で現在にいたる立憲民主党が、思うように支持を伸ばせていないのはなぜか。その理由も垣間見えた思いがしました。

これは菅さんばかりではありません、全集を遺すほどの膨大な著作を持つ咢堂・尾崎行雄にも共通して言えることですが、おおよそすべての政治家書籍に通じるのは「自分に具合の悪いことは書かない」、もしくは言及すること自体がどうしても憚られるものです。

もう一人の「菅さん」菅義偉総理の就任直後に新書で復刊された『政治家の覚悟』でも、オリジナルではふんだんに頁が割かれていた公文書管理のくだりが丸ごと割愛されていました。心情としては分からないではない、けれども一読者として意地悪な見方をすると、読後に抱いたのは「さては菅さん、逃げたな」そうしたもやもや感というか歯切れの悪さなのです。総括に至っていない。

これは何も菅さんに限った話ではありません。鳩山由紀夫さんはどうだったか、あるいは野田佳彦さんはどうだったか。もちろん当時の民主党だけではありません。現在の与党政権にも同じことは言えます。

SNSや動画がネット上にあふれる現在、なにも書籍が総てとは言うわけではありません。それでも自著で持論を問うということは、政治家としても著者としても格別の意味を持つと思うのです。それを抜きにして「べき論」だけを語られても腑に落ちないのです。たとえ、どんなに見事な「投了図」を描いたとしても。

細野さんは「事故、そして当事者たちと」今も向き合っている

対する細野さんの『自己調査報告』は、「歴史法廷で罪を自白する覚悟を持って書いた」という帯が決して誇張ではない、10年間の苦悩と自省、そして提言に溢れていました。何よりも興味ぶかかったのは当事者たちとの対話、そして第3章の各パート、その結びをかざる「あなたが福島のためにできること」など。現場がいまも抱える諸課題に対するメッセージ性にも富んでいました。単に細野さんの想いだけが綴られているわけではない、対談に登場する方々が何に翻弄され、そして「いま」とどう向き合い、未来を描こうとしているのかという、「福島の覚悟」をちゃんと掬い上げてくれていたのも大きいです。

現在にわかに注目を集めている処理水の海洋放出についても言及されており、現政権への引き継ぎ書としても注目すべき記述が満載でした。特に、現在の小泉進次郎・環境大臣は必読です。プラスチックごみに入れ込むのいいけど、こういう意見にはしっかりと耳をかたむけて欲しい、そう思います。

福島出身の当事者としても一連の問題を見つづけてきた社会学者・開沼博さんを編者として伴走者に迎えることができたのも、同書が投げかけるメッセージの客観性に深みを与えているといえるでしょう。10年にわたる二人三脚から導き出された5つの教訓は、支持政党の立場を抜きにして、広くすべての読者、のみならず国民が共有したいものです。

  1. 危機の中で拙速に定めた「基準」が後々、大きな縛りとなり、それ自体が新たな被害を生み出すことを意識すべき
  2. 長期大規模避難はまちの回復可能性をつぶし、人命を奪う
  3. 葛藤を避けることを意図した「問題の棚上げ」が、事態を泥沼化させる
  4. 政治が毅然としたメッセージを出すことから逃げない
  5. 現場のリーダーの役割は未来を見せること

(以上、同書336-340頁)

振り返ってみると、340頁のボリュームはあっという間でした。帯の隅に控えめ気味に書かれた「原発事故収束担当大臣として現場と対峙した者が、事実と未来図に迫る、全国民必読の検証報告」には私も同感です。そして発生から10年の節目を風化させないためにも、是非この2冊とも読み比べていただきたい。心からそう願います。