起業家がぶつかるインプットとアウトプットのジレンマ

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

自らのビジネスで収益をあげていく、企業経営者やフリーランスの立場であれば「ほぼ全員が該当する」といっても過言ではないジレンマが存在する。それは「限らえた時間をインプットとアウトプットのどちらに、どのくらい割り当てるか?」という問題だ。

IvelinRadkov/iStock

「仕事(アウトプット)」をすれば収益はあがるが、その間はインプットができない。だが「勉強(インプット)」をしなければ、市場の変化に対応できず、未来で収益性低下は避けられない。だが、インプットばかりしていても、目先の収益はあがらない。

このジレンマをどのように克服すればよいのだろうか?

最大の経営資源は「時間」

ビジネスをする上では、様々な経営資源がある。それは「資金」「時間」「情報」「人脈」と様々だ。人やビジネスの分野によって重視するポイントは異なるかもしれない。だが、本質的に最も価値が高い経営資源は間違いなく「時間」である。

仮に時間が無制限に使えるとするなら、他の経営資源はすべて手に入る。たとえばお金は時間さえあれば、時間を売って働くことで理論上はどれだけでも作り出すことができる。情報や人脈も同じことだ。時間を使えば情報収集や、人脈形成をすることができるだろう。つまり、時間を除くあらゆる経営資源を得るためには「時間」がその源泉になっているということを意味する。逆に言えば、時間がなければ何も始まらないということだ。

ちなみに「時間こそが最大の経営資源」という考え方は、労働集約的に働くワークスタイルでも、企業経営的に仕組みで稼ぐスタイルでも変わらない。後者において「従業員やツールを使えば自動化でき、時間や手間がかからない」と反論がありそうだが、その仕組みをゼロから構築したり、システムの改善や維持にはやはり時間が必要なのである。

「付加価値の低いタスクを外注すれば時間が買えるのでは?」という人もいるだろう。確かにそうだ。だが、時間を買うにも限界値がある。外注することで返って非効率になるタスクもあるだろうし、そもそも時計の針を戻すことは誰にもできない。10年間の時を過ごした人は、どれだけ大金を積もうとも流れていった10年前に戻ることは二度とできないのだ。

インプット・アウトプットのジレンマ

そしてビジネスをする上では、必ずインプットとアウトプットの側面を考慮する必要がある。一度、仕組みを構築したら、メンテフリーで永続的に収益を生み出し続ける「永久機関」は現実的にこの世には存在しない。どれだけ優れたビジネスモデルも、必ず競合の出現や、市場ニーズの変化などで栄枯盛衰を辿る運命にある。それ故に変化するマーケットに対応し続ける必要がある。つまり、「ビジネスの継続」とは「変化への対応の継続」と同義なのだ。

マーケット変化に対応するには、インプットが必要だ。たとえばビジネスをする上での商品・サービスを販売するマーケティングについていえば、有効な手法は時代とともに変わっていく。筆者は高級フルーツビジネスを経営している。全国の郵便局窓口に置いてあるギフトカタログへ掲載してもらったり、自社ショッピングサイトで検索による流入で販売していた。だが、途中からリスクを取って広告宣伝費をかけたマーケティングの必要性を痛感し、ネット広告経由での販売も手掛けるようになった。これは変化する消費者行動やニーズを受け入れるためである。

世の中の変化に対応するインプットとは、つまるところ勉強だ。まったく未知の分野を学ぶためには、勉強する時間を確保しなければいけない。問題はここからで、勉強をしている時間は即時での収益にならない。その一方で、時間をアウトプットに向ければ目先の収益はあがるが、今度はその間は勉強ができない。これが「インプットとアウトプットのジレンマ」である。たとえば、既存のビジネスマーケティングの改善に取り組む「アウトプット」をすれば目先の収益はあがる。だが、同じ手法を続けていても現状維持でしかない。長期的に見て、現状維持は衰退を意味するために、どこかで未来への種まきが必要となる。すなわち、インプットだ。真にビジネスマンとしての手腕が問われるのは、限られた時間を上手にインプットとアウトプットに振り分ける技術なのである。

ソリューションは「週に1日インプットデー」

事業者の身であるなら、週に1日はインプットに集中する日を持つのは良いかもしれない。筆者は最近、アウトプット続きでインプットの必要性を感じたことで、意識的に「週1日インプットデー」を設けてみた。この日は、一切仕事をしないでひたすらインプットだけである。シンプルな取り組みだが、今のところこれがプラスに機能していると感じる。

「インプット」といっても、別に大それたことをする必要はない。専門分野の知識をつけたり、今後のビジネスの取り組みや方向性をじっくり検討するなどである。人によって取り組み方は変わるだろうが、たとえば書籍や業界紙を読んだり、ビジネスセミナーを受講するなどがあげられるだろう。インプットする時間を設けることで、アウトプットの質は確実に洗練される。そしてアウトプットの質が高まれば、収益性も比例して成果となって現れるだろう。大事なのはそのバランスと、両輪を止めずに回し続けることだ。

目先の収益だけを追って、日々の仕事をこなすアウトプットだけでは、長期的に見てジリ貧になっていく。絶えず変化し続ける世の中にキャッチアップし続けるためには、意識的にインプットをする機会を設けることが重要なのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。