IPCCの報告書は日本の地球温暖化量を過大評価か

堅田 元喜

Marc Bruxelle/iStock

地球温暖化は、気温計を使って長期に渡る地上気温の上昇(データの変動を直線で近似したときの傾き)として観測することができる。2013年に公開された国連の気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書第一作業部会報告書(IPCC AR5 WG1)は、4つの陸上での格子気温観測データセット(図1)を比較して1901年から2012年の気温上昇率を0.95~1.07℃/100年間と見積もっている。この図を見る限り、データセットの間に大きな違いは見られず、この見積りはもっともらしく感じるかもしれない。

図1 米国海洋大気庁GHCNv3・イギリス気象庁CRUTEM4・米国非営利団体Berkeley・アメリカ航空宇宙局GISSの格子気温データセットによる地球平均気温偏差の長期変動(IPCC第5次評価報告書を著者が和訳)。1961~1990年の平均気温を基準とした年平均値。

だが実のところ、これらのデータセットはまだ完全には解決していない誤差を含んでいる。その一つが、都市化による昇温(ヒートアイランド効果)である。

歴史の長い観測点の多くは都市にあるので、都市化が進展すると、周囲に比べて大きな気温上昇率を示す可能性がある。気象庁は、日本の気温上昇を評価するためにできるだけ都市化の影響が小さい15地点を選定しているが、それでも県庁所在地も含んでいたりして、完全には除去できないとしている。

このような中、2020年7月に近藤純正東北大学名誉教授がこの都市化の影響や周辺環境の変化、観測誤差などを適切に補正した地球温暖化量のデータセットKON2020を開発した。そして気象庁観測値で使用されている15地点のうち、寿都・宮古・室戸岬以外には都市化の影響が含まれていることが明らかになった。

これを使うと、世界の格子気温データセットが日本での都市化昇温などによる誤差をどの程度含んでいるかを評価できる(図2)。気象庁による観測値と比べると、KON2020による気温偏差は2008年時点で0.32℃も低い。その他の格子気象データセットも気象庁観測値に近く、地球温暖化による気温上昇を過大評価している。特に、イギリス気象局CRUTEM3は他のデータセットよりも気温上昇量が大きく、都市化による誤差を含んでいる可能性は高いという。

図2 KON2020気象庁観測値、イギリス気象庁CRUTEM3・米国海洋大気庁GHCNをベースにしたデータセット・アメリカ航空宇宙局GISSの格子気温データセット(水平格子幅:約550 km×約400 km。Fujibe and Ishihara, 2010から著者が読み取り)による日本平均気温偏差の長期変動。1901~1920年の平均気温を基準とした11年移動平均値。

IPCC AR5は、過去数十年間の地球全体の気温上昇に対する都市化の影響はほとんどないとしているが、地域や国レベルでは無視できず、国内外の地球温暖化の研究者からは疑問や慎重論も出ている。数100 km幅の格子内では陸地よりも海の面積の方が多い日本ですら都市化の影響が見られるとすれば、他の国にも同様な問題が起きている可能性は高い。

過去の格子気温データセットは気候シミュレーションにも使用されるので、将来予測の精度に直結する極めて重要な情報である。

地球温暖化対策を検討するにあたり、いま重要なことは、シミュレーション予測の前提となっている世界の格子気温データセットを精査することではないだろうか。