政府は13日、福島原発のサイトに溜まり続ける処理水135万トンの海洋放出を決めた。事故発生から10年、これを菅総理の英断を評価する向きが多い。筆者もその一人だが、日本中が等しく風評を担うべきと本欄に3度投稿した通り、処理方法について要望がある。それを述べたい。
決定を詳報したNHKネット版によれば、設備工事や規制対応を経た2年後を目途に、トリチウム濃度を現状の100分の1の1,500ベクレル(国の基準は1ℓ当り6万ベクレル、WHO飲料水基準は同1万ベクレル)まで海水で希釈して放出するという。放出には40年間掛かるそうだ。
ALPSで除去できないトリチウムの安全性については、大気中の水蒸気や雨水、海水、そして水道水や人間の体内にも微量が存在するとし、体内に取り込まれてDNAを傷つけるものの、紫外線やストレスなどと同様にDNAの機能で日常的に修復されるとの専門家の論を載せている。
またマウス実験での発癌頻度も自然界並みであり、またトリチウムが出す放射線エネルギーは微弱で、空気中では約5ミリしか進まないとした上で、国内の原発でも基準の6万ベクレル以下で海に放出しており、海外でも各国が独自に基準を定めて放出しているとする。
国際原子力機関(IAEA)からも科学的根拠に基づくとの評価がなされており、さらに放出に当たってもIAEAを含めた第三者機関の協力も得て、国内外に対して高い透明性を保つとして、記事は安全性を多面的に報じている。
とはいえ、福島の漁業関係者を中心に風評被害を懸念する声は相変わらず強い。この10年間の彼らの労苦を考えれば、これに理解を示さぬ者はいまい。
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そこで風評被害にどう対処するかのことになる。政府案は原発サイトの直接海に放出するようだが、筆者は船を使って日本中の内水に放出せよと書いた。「福島の海以外での放出」も主著する日本維新の会の足立康史議員は、政府案から同案も消えていないとの心証の答弁を引き出した。
立憲の玄葉議員も、同じ福島選出の安住同党国対委員長とは立場を違え、足立議員の主張に同調する質疑をした。玄葉議員の質問に、当局は放射性物質の運搬には法律上の規制があるとの、矛盾を孕む答弁をした。こういう珍答弁がさらなる風評を生む。足立議員は「議員立法しよう!」とヤジった。
筆者もヤジりたい。なぜなら、処理水が安全だから海洋放出するというのに、法規制で運搬が出来ないなどという事態は、法規制こそがおかしいと幼稚園児でも判る。そこで立法化で運搬が可能になったとして、処理水の量からして陸上輸送は現実的でなく、タンカーを使う海上輸送になろう。
が、この方面にも造詣の深い青山繁晴議員は、意外にもタンカーを使うことには、港の建設コストや所要期間などを理由に反対の様だ。ただ青山議員が例示している同僚議員の案は、公海での放出や南鳥島に運んで保管するような話で、そもそも公海への持ち出しはロンドン条約に違反する。
筆者の案は「内水」への放出だ。内水とは半島の先端と先端や半島と島を結んだ線の内側の海を指す。若狭湾(高浜)など湾と名の付く海の大半や瀬戸内海(伊方)、能登半島と佐渡島の内側(柏崎刈羽)や九州西部と五島列島の内側(玄界・川内)、北海道西岸(泊)なども内水だ(カッコ内は原発)。
地に見る様に福島沖や東海村のある茨城沖は内水ではない。が、原発の所在地から直に海洋放出することは国際社会によって容認され、世界中で行われている。つまり、ズバリこれを示した国際的な取り決めがある訳ではなく、海洋法の記述を国際社会がその様に解釈しているということ。
国際社会の認知が必要なのはこのためで、だから嫌がらせに中国や韓国が騒いでいる。が、自国のトリチウム排出レベルの方が福島処理水より高いのでは理不尽極まる。このところレームダック化の著しい文大統領が国際海洋裁判所に訴えたところで、恥の上塗りに終わろう。
この韓国や武田邦彦氏はトリチウムの濃度のみならず総量を問題視しているようだ。が、自らを棚に上げる韓国は論外として、CO2による気温上昇では膨大な海の水温が大気を冷やすと述べ、また海洋プラも大海の浄化作用があると歯牙にも掛けない武田先生らしからぬ言説と拝聴した。
具体的な放出手順を述べれば、まず喫水20.5mの30万トン級タンカーでも座礁しない深さのある福島沖の領海にタンカーを停泊させ、そこまで陸から伸ばしたホースや配管によって処理水を注水する。小型船でピストン輸送する北朝鮮の瀬取り方式もあり得よう。これなら港の再整備は要らない。
15万ベクレルの処理水135万トンを、タンカーへの注水時に海水で6万ベクレルに希釈すると約338万トンとなり、30万トンタンカーで11~12隻分(1隻なら11~12回分)になる。このタンカーが、処理水放出時にさらに1,500ベクレルまで海水で稀釈しながら日本中の内水に放出して回るという次第。
この結果、日本の海産物すべてに風評が及ぶかも知れぬ。その場合の課題は、一つは日本人の魚離れであり、他は年間2,700億円といわれる海産物の海外輸出への影響だろう。
前者こそ日本人全員が風評を担うことの核心であり、科学的な安全性を信じれば解決できる。後者も2,700億円を1億人で割れば一人1年で2,700円だ。つまり、毎月スマホに掛けている大枚の内の225円ほどを、近海物の鯵や鯖の購入に回すだけで賄える金額だ。皆が団結すればいともたやすい。
原子力規制委元委員長の田中俊一氏が決定まで6年も要したと嘆じていることをNHKは報じた。現在、飯館村に復興アドバイザーとして暮らす氏の言葉だけに重い。氏がこれを決断できる立場にいたら疾うに放出は終わっていたと思う一方、その立場の環境相が具体論のない小泉氏なのは日本の不幸とも思う。
実は筆者は地元の神奈川の黒岩県知事に、この処理方法と東京湾と相模湾へ処理水受入れを小池都知事と千葉・静岡の両県知事に持ち掛けよ、と県庁のサイトに投書した。先の緊急事態宣言の件で一杯食わされた仕返しを、とまでは書かなかったが。
神奈川県は菅総理や小泉大臣の地元でもある。小泉氏の故郷横須賀は、東は東京湾、西は相模湾に抱かれている。今この東西両湾での受け入れに彼が声を上げるなら、ネットに溢れる彼への雑言も大いに緩和されるのではなかろうか。今、あらゆることで日本国民の団結心が試されている。