我執まみれとも思える小池都知事の「嘘」は人間失格レベル?

高橋 克己

太宰治と聞くと筆者は「嘘」を連想する。「嘘」と題する作品があるからでも、「斜陽」や「HUMAN LOST」に嘘のことが出てくるからでもなく、彼の作品の主人公がいつも嘘ばかりついているように感じるからだ。高校の頃、筆者も大いに嵌ったこの作家の代表作に「人間失格」がある。

小池ゆりこオフィシャルサイトより

その高校当時のこと、筆者は母に嘘をつき、初めて目の前で泣かれたことがある。何のことだったか忘れてしまったが、母について気に入らないことがあって、父も姉もそういっていると嘘をいうなり、母は怒るどころか「そんなはずない」とつぶやいてさめざめ泣いた。

初めてのことに筆者は酷く狼狽し、謝ることも出来なかった。自分の思いのままに事を運ばせようと嘘をつき、失意の底に落とせば母すらこうなるかと驚愕した。以来、我執から発する嘘はつくまいと思った。もちろん聖人君子ではないから、方便の嘘はまったく別の話だが。

小池都知事が緊急事態宣言を延長する件で、首都圏3県の知事を嘘で騙したことを黒岩知事がテレビ番組で明かしたとの記事に、まさかと筆者は驚き、半世紀以上も前に母についたこの嘘を思い出した。

黒岩知事が語ったことの要旨は、小池都知事から森田知事も小池案に賛同しているとの説明を受けた黒岩知事が、森田知事に電話で確認すると、森田知事は小池都知事から黒岩知事が賛成していると聞いたので賛成したといい、大野知事への確認結果も同様だったという。

何とも酷い嘘だが、その後の4知事でのテレビ会議で黒岩知事がこのことを抗議すると、小池氏は「先走ってしまってごめんなさい」といったそうだ。「先走って」ではなく「嘘をついて」だろうに。

筆者は、小池都知事が考える延長内容の適否を云々するのではない。1都3県の人の往来を考えれば、4知事が足並みを揃えることの必要性は、多くの国民も理解するだろう。とすれば、4知事が中身や期間を話し合えば良く、嘘をつかなければならぬ理由などないということ。

だのになぜ小池都知事は、このようなすぐ露見するに違いない嘘をついたか。もしかすると彼女が生来の噓つき、つまり嘘を嘘と思わない人格の持ち主だからか、などとつい筆者は思ってしまう。まさかそうではなかろうが、でないと成り行きの説明も付きにくい。

思い返せば、といってもつぶさに憶えている訳ではないが、たとえば都知事選での公約。満員電車ゼロ(二階建て電車)や、電柱ゼロ(電線の地下埋設)が大いに進捗しているとの話は聞かない。が、彼女にはそれを恥じるような素ぶりもなく、公約などなかったかの様だ。

豊洲の延期も無残だった。共産党が踏み込んだ「安心」という人の内心に入り込み、築地からの移転を長期にわたって遅らせて、しなくて済んだ巨額の出費を余儀なくした。「築地は守る」と跡地売却を白紙にして提案した食のテーマパークはどうなった? これもなかったように頬被りだ。

先頃の「森喜朗追放」でも、当初の発言など忘れたかのように態度を変えてゆき、4者会議への欠席宣言で森氏にトドメを刺したのは小池都知事だった。

清末の西太后や朝鮮の閔妃を彷彿するが、筆者には小池都知事と習近平とがダブって見える。差し詰め黒岩知事はフィリピンのドゥテルテ大統領、森田知事は韓国の文在寅大統領、大野知事は北朝鮮の金正恩といったところか。みな小池都知事に良いようにあしらわれている

手法こそ違えど習近平も周辺諸国を勝手気ままに操り、常設仲裁裁判所の裁定すら紙くず同然となきものにする。つまり自国、もとい中国共産党と自らの保身しか考えない、我執まみれだからこそできる所業といえる。自分のことしか頭にないその我執が小池都知事にも滲む。

太宰は、弱い自分を悟られまいと「道化」を演じ続けた主人公、すなわち嘘の自分を周りに見せ続けた大庭葉蔵に「人間失格」の烙印を押した。今回、小池都知事が3県知事についた余りに露骨な嘘を見るにつけ、太宰のこの代表作と同じ語を彼女に冠さねばならぬか、と思う次第。