ahamo顧客サポート有料化に企業が続くべき理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

ドコモの提供する新料金プラン・ahamoが大きな話題になっている。

当初はオンラインでのみ手続きを受け付けていたが、同社はドコモショップにおけるサポートを有料で提供することを決めた。ahamoの大胆な料金プランの導入や、同サービスにおける有料対応の導入など、ドコモは大手企業にも関わらず、大変スピーディーな決断力を持っていて驚かされる。

winhorse/iStock

本稿で主張したいことは、携帯会社だけでなく銀行窓口やIT機器やサービスなど、あらゆる顧客サポート業務は有料化させた方が良いということだ。それにより、一部の利用者は不便を感じるだろう。だが、それでも有料化はそうしたデメリットを上回るメリットが期待できると考える。

筆者は過去に5年間、携帯電話のコールセンターで顧客サポートをやっていた経験があり、実体験からもその論拠を展開したい。

「有料化」は弱者の切り捨てなのか?

本稿のような主張をすると、必ずといっていいほど「サポートにお金が支払えない、情報弱者を切り捨てろというのか!」という反論がくる。だが、こうした議論ほど感情論ではなく、冷静な分析が求められる。そうすることで、サポート有料化は「弱者の切り捨て」と言えない事実が見えてくる。

現代は、自己解決するために極めて環境が整った時代である。機器名やサービス名と、生じたトラブル名をネット検索すれば、立ちどころに解決法が出てくる。中にはメーカーやサービス提供元以外の「一般消費者」まで画像や動画を交えて、親切丁寧に解説を出すナレッジシェアリングがなされているほどだ。これにより、トラブルにおける9割以上は自己解決が可能だ。もはや、令和はネットのない時代ではないのだ。

「ネットが使えない高齢者はどうするのか?」といった反論もありそうだ。ネットが使えない人は「周囲の人間に聞く」というシンプルなソリューションもあるだろう。それができないなら、書店へいけばいい。本屋には図解入りで懇切丁寧に有効な利用方法を指南する書籍が、山のように置いてある。本を買うお金がないなら、図書館なら無料で手に入るだろう。解説文を読み、図解の手順通りに操作を進めれば、ほとんどの問題は解決できる。必要なのは高度な知性や優れた才能ではなく、「自分で調べる」という問題解決への意欲だ。

筆者はサポート有料化でも、弱者は切り捨てられないと感じるし、「むしろ、弱者ほど弱さを武器にする傾向が無いか?」といった別角度からの議論の必要性を感じるほどだ。上述の通り「分からない」という問題は、ネット検索や書籍で解決すれば良い。現代は十分すぎるほどその環境が整っている。誰かしら「人」からサポートを受けなければ、解消できない問題は多くないはずだ。「自分で調べるのは時間と手間がかかる。誰かに懇切丁寧に教わりたい。けど、サポートには1円も支払いたくない」という態度は「弱者」と言えるのだろうか?

メリット1.待ち時間の減少

さて、ここからはサポート業務有料化することで期待できる3つのメリットを展開したい。

まずは顧客サポートを無料から有料化することで、待ち時間のドラスティックな削減が期待できるだろう。

ただでさえ、携帯電話を始めとするハイエンドデジタルデバイスは、複雑化している。そのために機器やサービスについての説明に要する時間や手間は肥大化を続けてきた。顧客サポートのしわ寄せは、企業がコスト負担を余儀なくされている。これをサポート有料化することで、本当に困っている人がサポートスタッフへリーチしやすくなると考える。

エンドユーザー側としては「無料で質問ができるなら」と、簡単に自己解決できそうなものも、ショップやコールセンターを頼ってしまう可能性は否定できない。結果として、待ち時間が増大化している。これにより、本来ショップやコールセンターでの対応を必要とする顧客も巻き添えを食っている。

たとえば、スマホとワイヤレスイヤホンをBluetoothで接続する操作は、その気になれば自己解決は可能である。その一方、支払いが滞納している顧客が分割納付を相談する話などは、自己解決もAIによる対応も代替できない。後者の場合は直接担当者に相談し、支払い計画を相談する必要があるだろう。だが、現行では両者の問題が同列に扱われてしまっている。これは問題だ。そしてサポートの有料化で、自然に効率化が促進されるだろう。

メリット2.対応品質の向上

顧客サポートを担当するスタッフは、一日中エンドユーザーの対応をし続ける。中にはクレーム対応など感情労働を余儀なくされたり、1時間以上に及ぶ機器の操作案内など、かなりのエネルギーを求められる仕事だ。筆者がコールセンターで働いている時期は、人恋しさに毎日同じ内容を何時間も電話で問い合わせをしてくる「困った利用者」も存在した。

サポートを有料化すれば、お金を支払ってでもサポートを必要とする顧客に絞られる。結果として、対応するスタッフも消耗を回避できるはずだ。

メリット3.企業のコスト削減効果

3つ目の想定メリットとしては、企業のコスト削減効果があげられる。

筆者が過去に働いていたコールセンターでは、常時100名近くのオペレーターが1年365日稼働していたところもあった。仮に100人のスタッフが働いていて、一人あたり1,500円/時間の人的コストがかかるとする。1日10時間稼働すれば、たった一日で150万円のコストがかかる計算になる。それが一年間だと、5億4,750万円というとてつもない金額になる。そしてこの巨額のコストは、一切の利益を生み出すことはない。コールセンターは営業部のようなプロフィットセンターではなく、コストセンターだからだ。

そして莫大なコストは、一見すると企業が負担しているように見える。だが、最終的には商品サービスにコストが上乗せされているから、利用者全員で均等に支払っている。これはサポートを利用しない顧客まで、サポートを頻繁に利用する他人のためにコストを支払っている「健全とは言い難い構図」と評することができるのではないだろうか。

サポート業務を有料化すれば、必然的に問い合わせ件数は絞られる。結果として、必要なスタッフ数は減らせる。企業側も、コスト削減効果が期待できるだろう。浮いたコストを、事業投資などに回してもらえば、長期的に見て利用者全員でサービス向上を享受できる好循環を作り出すことができるだろう。

サポート業務有料化は時代の流れ

以上のことから、筆者はサポート業務は有料化に踏み切っていいと考えている。想定されるデメリットも理解している。だが、それを上回るメリットが期待できるからこそ、勇気を持って踏み切るべきなのだ。

今が人余りの時代なら、サポートビジネスが多少非効率でも、雇用創出としての意義があっただろう。だが、今は違う。これから我が国は労働力は確実に不足し続け、どの企業も人材の確保に奔走する時代が続いていく。そんな時代においては、日本の国力維持のためにも、限られたマンパワーリソースはできるだけ付加価値の高い仕事にアロケーションがなされるべきなのだ。

サポート業務の有料化は、筆者個人の意見というより、労働力不足の現代からの要請に近い色彩を帯びていると感じるのだ。

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