佐藤可士和特集の謎 それは彼に失礼だ

常見 陽平

「意識高い系」という言葉を広げた一人と言われる私だけど。もう10年近く前に書いたこの本でも触れているように、私自身が意識高い系だった、00年代において。異業種交流会を開いたり、参加したり。ビジネス書を読み漁ったり。セルフブランディングに力を入れたり。

その頃、影響を受けていたのが佐藤可士和氏で。この本を読んで以来、彼の本は一通り読んできた。佐藤可士和展も行く気満々だったが、緊急事態宣言で強制終了になってしまい。残念。

今年は佐藤可士和イヤーという感じで。様々なメディアで彼を見かける。「カンブリア宮殿」の佐藤可士和特集も、もちろん毎回みた。面白いのだけど、一点だけ強烈に気になったことがあった。それは彼が、ブランディングなどを手掛けた企業がどれだけ変わったかを紹介する際に、いかにも彼が手掛けたから売上が上がった風に描いており。これ、同番組を見る層(全部ではないが)や、彼のファンには「その褒め方、雑だから」と言われるので、やめた方がいいと思う。

別に彼は単にロゴを変えるわけではなく。そもそもの企業や商品・サービスのあり方を問い直す。それは提供価値を洗練させることにほかならない。だから、単にイメージがよくなるだけではなく、ビジネスそのものが進化する可能性があることはよくわかる。

ただ、「彼が手掛けて売上○倍」というのは、逆に彼や手掛けた企業とその社員に失礼だ。彼の仕事だけでそうなったとは言えず。市場の要因などもあるし、各部門の担当者の地道な努力もあるわけだ。

この手の、「わかりやすく説明した成功例」というのは、迷惑な話で。経営再建にしろ、ヒット商品にしろ、働き方改革の制度にしろ、よくあるわけだが。成功の要因はそう単純ではないし、もちろん副作用もあるわけで。「成功事例」に学べ、という姿勢は間違っていないのだが、伝わり方や解釈の間違いにより、他社・他者が無駄な努力をしたり、意味のない劣等感に悩んだりするのはよくないわけで。

You Tubeなどでも人気番組が多数ある中、地上波番組はさすがになんだかんだいってもかかっている金やパワーが違うわけで。ただ、この手の雑な説明、本当、やめてほしい。視聴者もバカではないのだ。


編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2021年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。