ウッドショックって何?

最近ちらほら耳にするウッドショック。いったい何のことか、99%の方にはまだ浸透していないと思います。端的に言えば北米や中国で住宅建築が急増しているため、木材の需要が急増、価格も急騰したものの日本の買い手がその価格上昇に乗り切れず、「買い負け」している状態を言うのです。

onlyyouqj/iStock

「買い負け」するとどうなるか、と言えば日本に建築用の木材が入ってこないので建物が作れません。通常、建築業者は顧客との請負契約を結んでいるので建築資材の価格上昇による顧客への価格転嫁はできません。つまり建築業者が吸収せざるを得ません。その上、木材不足で新規の受注できない、あるいは請負価格を引き上げないと契約できないという問題が発生しそうだということで一部では極めて深刻な問題になっているのです。

まず「買い負け」という言葉ですが、これは今回の木材に限らず、食材、特に水産資源でもしばしば起きた現象で、中国などの爆買いで日本の商社が日本向け需要量を確保できないのです。つまり国際市場で競り落とせないわけです。これが今回は中国だけではなくアメリカを中心に世界中で起きた住宅需要の急増に耐えられず、木材業者の出し惜しみや思惑もあり、木材が日本に回ってこないのであります。

今回の住宅需要急増の主因となったアメリカのケースを見てみましょう。コロナでリモートワークが普及、都市部に住む必要がなくなった人が郊外に住宅を求めたり、金利が低いので住宅需要に向かっています。アメリカの個人住宅は概ね2割の新築と8割の中古住宅が不動産取引の比率ですが、中古の取引は最新情報で在庫(売り物件数=リスティング数)が需要の2.1倍しかなく実質的な中古物件の売買スピードは驚異の18日程度と報告されています。(健全な在庫比率は需要の5-7倍です。)

アメリカは買い替え時によりよい住宅を目指すので中古から新築住宅を注文する人も多く、3月の着工件数は年換算170万件超と昨年までの120-140万件を3割上回るペースとなっています。不動産価格が高騰しているので資材価格に転嫁しやすく木材価格が急騰してもそれを買い付けているため、北米産木材のみならず欧州産木材がアメリカに回ってしまっているのです。

アメリカの住宅価格はこの木材値上がりによる最終価格への転嫁分が24000㌦(約250万円)から36000㌦(約380万円)とされ、住宅価格が6-9%アップしているようです。

日本の専門家のコメントや商品市況欄の木材価格の動静報道を見ても悲観一色です。私も木材貿易をしている方にコメントを求めたところ、1-2年は無理かも、といいます。私は日本で契約済みの工事請負契約があり、施工業者から「やばいです!」と悲鳴のメールが来ています。

で、お前はどう分析しているのか、なのですが、比較的楽観視しています。あと数カ月で収まるとみています。理由は今回の特需はコロナの反動需要であってコロナが収まれば市場は沈静化するからです。アメリカの場合、ワクチン接種が進み、免疫の壁が近づいています。既に緩和措置がいろいろ出ている中、6-7月にはアメリカ国民に平静が戻るとみており、そうなれば他にお金もエネルギーも時間も使うところが出てくるので住宅購入が第一義ではなくなるのです。

また、私が入手していると当地証券アナリストの分析には住宅価格が上昇しすぎて需要の頭を抑え始めるだろうとあります。つまり、上述の170万戸のペースは次第に沈静化するということです。更に木材価格がパニック的で心理的上昇、更に出し惜しみをしているため、これは市場の行方が見えればするっと落ちるはずです。もう一つは金利の上昇があるだろうとみています。住宅ローン利率設定は10年物国債がベースで、既に大分上がっていますからローンがそう簡単に組めなくなるはずです。つまり現在の木材価格はJカーブ効果の最後の果実だった可能性が高いです。

アメリカとカナダの住宅専門家による市況分析でも住宅需要はピークアウトしたとみており、今後、沈静化すると予想されています。(カナダでも一軒の売り物件に10-20ものオファーが入っている状態でしたがオファーの数が減っていると報じられています。)

対応ですが、私は日本での手持ちの2件の工事は価格転嫁を求められたら価格が沈静化するまで待ちます。もちろんこれは私の市場の読みに賭けているわけで外れたら困るのですが、私は外しません。市場価格はサイコロジカルに振られる上乗せ部分があり、それがピークに達する時はパニックの極限になります。ただ、同時に解決方法が次々出てくるのです。

昨年も建築用部材が中国から入らないと大騒ぎしました。あるいは海上輸送のコンテナ船がないとも言われました。でも大騒ぎをしたその直後から落ち着きを取り戻しているのです。それは様々な対策が施されるという意味でもあります。

そう考えると私はウッドショックは一部の専門家や業者が「木を見て森が見えていない状態」だと思っています。私のように影響を受ける人はそれをまともに被るのではなく、対案をもつことが大事かと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。