中国「イチゴ音楽祭」開催の狙いは

ビートルズ誕生の地、英国中部リバプールで4月30日、約3000人の若者たちが参加してダンスパーティが開催された。一方、中国では5月1日の連休初日に上海や武漢で大規模な野外音楽祭が開かれた。参加者数は1万人を超え、多くはマスクを着用せずに音楽を楽しんだという。

5月1日、上海市で開催された「イチゴ音楽祭」(スクリーンショット)大紀元5月3日から

前者は英国政府が大規模なイベント開催と新型コロナウイルス感染の関係を調査する目的で行われた。参加者はパーティ開催24時間以内の新型コロナウイルス検査の陰性証明を持参した人に限られ、その条件をクリアした若者たちはマスクを着用せずにダンスを楽しむことができた。そしてイベント後5日目にはPCR検査を受けることになっている。厳格なルールの下で開催されたわけだ。

一方、中国では5連休の労働節(メーデー)に中国各地で慣例のストロベリー・ミュージック・フェステバル(イチゴ音楽祭)が開催された。新型コロナウイルスの発生地武漢市でも1万人を超える若者たちがマスクを着用せずに音楽を楽しんでいる写真が海外中国メディア「大紀元」3日付けに掲載されていた。写真を見る限り、マスクを着用している者は数人で大多数はマスクなしだ。ソーシャルディスタンスはまったく配慮されていない。

香港紙・蘋果日報は、新型コロナ感染の拡大につながる危険があるとして、音楽祭の主催側を批判しているが、中国共産党政権が「イチゴ音楽祭」の開催を中止したり、若者たちに「参加しないように」と警告を発したという情報は流れてこない。ということは、「イチゴ音楽祭」は中国共産党政権公認のイベントだったことになる。そうでなければ、開催前に治安部隊が動員され、集まった若者たちは拘束されていただろう。

新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るっている欧州諸国の中で、英国は迅速なワクチン接種を進め、その効果が見られてきたとして、これまで実施してきたコロナ規制を一つ一つ緩和してきている。ジョンソン首相は今月3日、「来月末にかけて新型コロナウイルス感染対策としてのソーシャルディスタンスを撤廃できる見通しだ」と述べている。欧州で最初に新型コロナの猛威を受けたイタリアでもロックダウンが解除の方向に進んできた。ただし、欧州では大規模な観衆、参加者が集合する音楽会やスポーツ・イベントの開催に対しては依然慎重だ。サッカー試合でもオーストリアの場合、最大3000人の参加に制限して開催するが、密集が予想されるコンサートの開催は来月以降になる予定だ。

英リバプールの場合、あくまでも実験的な試みだ。大規模な人々が一カ所に集まった場合、新型コロナ感染はどうかという実験で、パイオニア的な試みだ。一方、中国では新型コロナ発生地で1万人を超える観客が集まる音楽祭が開催され、それも参加者はマスク着用義務なしだ。ある意味で挑発的なイベントである。

中国共産党政権は昨年9月、「わが国は新型コロナに勝利した」といち早く「勝利宣言」をした。「イチゴ音楽祭」開催は中国共産党政権の新型コロナ封印の勝利を内外にアピールする絶好の機会というわけだ。勝利したのだからマスク着用は必要ではない。興味深い点は、中国国営通信社配信の写真を見る限り、共産党関連の会議に参加する党員たちの中にはマスクを着用しているから、マスク着用義務の完全な廃止ではないということだ。ある意味で武漢の「イチゴ音楽祭」開催も、リバプールのダンスパーティと同様、実験的要素が含まれているわけだ。

リバプールのパーティの写真と武漢の「イチゴ音楽祭」の写真を見比べながら、「コロナ規制から解放され、昔のように友達たちが集まってディスコを楽しみ、コンサートに行きたい」と考える欧州の若者たちが増えるだろう。彼らは1年半以上、ソーシャルディスタンスをはじめマスク着用、夜間外出制限といった規制下で暮らしてきたのだ。パーティを開き、コンサートを楽しみたいと願うのは当然だろう。ワクチン接種が拡大し、集団免疫が出来ればいいが、まだ時間が必要だ。英国発、南アフリカ発、ブラジル発、そしてインド発のウイルス変異株が広がっている。早急なコロナ規制解除は時期尚早というのが多くのウイルス学者の見解だ。

欧州では長い夏季休暇シーズンを迎える。家族と旅行したいと願う欧州の人々はワクチン接種会場に殺到している。ウイルス学者たちの警戒を呼び掛ける声は次第に聞き取れなくなってきた。その時、武漢の「イチゴ音楽祭」のニュースが広がれば、コロナ規制を強いることは益々難しくなる。コロナ規制はそのコントロールを失う危険性が高まってくるわけだ。同時に、コンサートやディスコの再開に慎重な政府に対し不満が更に高まることが予想される。欧州各地で、コロナ規制反対の抗議デモが開かれ、時には警察隊と衝突している。

中国共産党政権はコロナ禍の欧州の状況を慎重に分析しているだろう。中国は新型コロナのパンデミック後、マスク・ワクチン外交を展開してきた。そして、ここにきて大規模な音楽祭の開催を認め、コロナ疲れの欧州の国民に対し、「お前たちの政府は何をしているのか」と嘲笑するプロパガンダ作戦に乗り出してきているのではないか。

ロシアのプーチン大統領は世界最初のコロナワクチン、スプートニクⅤを大々的にアピールし、国家の威信を高め、ロシア人の愛国心を煽った。同じように、中国共産党政権は新型コロナ発生地、武漢で「イチゴ音楽祭」を開催し、「中国は世界で最初に新型コロナに勝利した国」という名声を得るためにプロパガンダを展開しているわけだ。プーチン氏も習近平国家主席も独裁国家と共産党一党独裁国家の違いはあるが、同根だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年5月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。