黒坂岳央(くろさか たけを)です。
「リモートワークによって、業務効率が高まった」。あちこちから聞こえてくるこのフレーズだが、最近になって必ずしもリモワが業務効率化を約束しない事態が明らかになってきた。
公益財団法人日本生産性本部の調査では「リモワで効率が上がったか?」という質問に対して、はいと答えたのは3割に留まり、7割が非効率と答えている。
リモワは、すべてのホワイトカラー業務で効率化するわけではないし、すべての人が業務効率を高めるわけでもない。リモワで業務効率化を実現できるのは、リモワ環境下で求められるビジネススキルを持ったビジネスマンに限った話なのである。
リモワで求められるビジネススキルとは?
筆者はもう、何年もリモワをしている立場だ。時には海を超えて、海外企業から仕事をもらってこなすこともある。
自身の経験を経て、リモワで求められるビジネススキルには、ざっくり次のようなものがあげられるだろう。
・短文テキストで意図を伝える力
・問題や課題を言語化する力
・相手の立場を想定する力
・セルフスターター
必要なビジネススキルが無ければ、リモワはかえって非効率になるケースも存在する。これらのビジネススキルは、従来オフィスで働く場合においても必要とされてきた。だが、対面コミュニケーションには表面化しなかっただけだ。そして、リモワではこうしたビジネススキルの欠落が致命的になってしまうケースは少なくない。
リモワでかえって非効率になる人
たとえば、短い時間で素早くやってもらいたいことを伝えるのが苦手で、冗長としたコミュニケーションをするビジネスマンはどこの職場でもいるものだ。
これまで、対面で話し言葉によるコミュニケーションであれば、こうしたスキルの欠落は大きな問題にはならなかった。言いたいことがイマイチ不明瞭でも、「つまりやってもらいたいことは、こういうこと?」と相手からコミュニケーション補助を受けることができたからだ。
だが、ビジネスチャットによるコミュニケーションでは、この欠落が致命的になる。人によってはテキスト入力は話し言葉に比べて、入力に時間がかかる。また、相手の認識に誤解が生じても、ビジネスチャット上では相手からリアルタイムに修正を受けることが難しい。結果として従来のオフィス現場では、必要のなかったムダな時間や労力を要してしまうことになる。いや、これだけならまだマシだが、深刻なミスリードすらあり得る。
筆者が実体験したリモワの非効率事例としては、取引先のZOOM会議で画面に映し出したスライドに説明書きがびっしり書き込まれ、それを一言一句ひらすら相手が読み上げられるということがあった。資料は相手が読み上げるのを聞くより、こちらでササッと読む方が遥かに時短で効率的だ。理想としては、事前に資料を投げてもらったものを読んでおき、会議の場ではテキストでは伝わりにくい重要事項を口頭で補足説明したり、相手からの質問に応じるというスタイルだろう。
リモワ環境下で効率的に働くには、リモワというワークスタイルでうまく機能するビジネススキルが必要なのだ。
変化への対応力が求められている
リモワというワークスタイルには、オフィス現場で対面によるコミュニケーションには必要なかったビジネススキルが求められる。まずはこの事実を受け入れることが肝要だろう。
経営者は、自社のビジネスがリモワという働き方をすることが「本当に効率的か」を見極める手腕が問われる。現在は従業員の感染拡大防止を優先させる必要性から、効率度外視で取り組んでいる企業もあるだろう。問題はこの感染危機が去った後も継続するかどうかだ。効率性を可視化することで、改めて経営判断することになるだろう。
ちなみに、米・金融大手のゴールドマン・サックスのCEOはBBCのインタビューで「リモワは新たな日常などではなく逸脱。自社の企業文化には合わないワークスタイル」と答えており、リモワに否定的だ。同社のような先進的で時代の変化に強くサバイバルする企業においても、リモワを否定的に捉えたという興味深い事例である。
また、働く従業員は対面から、テキストによるコミュニケーションへの転換力が求められている。テキストベースのコミュニケーションが前提のリモワにおいて、「やりづらい」「慣れていない」という理由で上司が頻繁にビデオ会議の場を設ける事例もあるが、そうなると巻き込まれる全員の効率を低下させることになる。
リモワに特化したワークスタイルは、従来のオフィス現場では表面化しなかったビジネススキルが求められる。変化に対応できる者、できない者にわかれるわけだが、数年内にその答え合わせをすることになるだろう。
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