投資マネーの狂乱

先日、ある友人と会った際、「ハイテク株を売ろうと考えている」と言います。彼はごく普通の勤め人ですがこちらではごく普通に貯金の代わりに株を買っています。どれぐらい持っているのか、金額は聞きませんでしたが、基本的には自分で個人税制のメリットを受けながら運用し、そのリスクと責任は自分にかかってきます。

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彼がハイテク株を売ろうかな、と思ったのはGAFAMの株価の反応が鈍いことにあります。特に報道で気が付いた方も多いと思いますが、好決算をしても株価は下がっているのです。1-3月の決算はだいぶ出そろいましたが、アメリカでは9割近くの企業決算が想定を上回った出来過ぎな決算結果でしたが株価は決算前と比べわずかながら下落するという珍現象が起きています。

ただ、この展開はだいぶ前から予想されていたもので既に株価に好決算は織り込んでいるので「噂で買い、事実で売る」を地で行っていると言えます。

私が今、判断材料として重視しているのはアメリカの経済正常化が夏ごろから始まった際、企業景況にどう影響するか、であります。多分ですが、一部の業界は反動で悪化する一方、それまで制限のあった業界が少し息を吹き返すのかと思っています。旅行、ホテル、カジノ、クルーズ船運営などが考えられますが、それでも既に回復を見込んで株価はよい水準まで来ていますので今からどうしても買い上がりたいものはありません。

つまり、多くの個人投資家はこの1年間の狂乱株価の夢から覚め始めています。ではマネーはどこに向かうのでしょう?

心理学で一度でも心地よい刺激を受けると次からはもっと強い刺激を受けないと感じないという研究があります。投資マネーも同じで株価が2倍3倍になり、やったー!と喜んでいましたが今では10倍、20倍にならないと快感を得られないのであります。完全な病気です。

このマネーが向かった先の一つがドージコインと呼ばれる仮想通貨で今年に入って100倍値上がりしたと報じられています。この特定コインが上がる理由が明白ではなく、数カ月前のゲームストップ株と同じ構図であります。ただ、ゲームストップ株についても昨年までは10㌦台だったものが話題になった時には400㌦を越え、現在でも150㌦前後と十分な高値を維持しています。この仮想通貨の価格や株価を理論的に説明することは不可能です。少なくともいえるのはドージコインにしろ、ゲームストップ株にしろ主流銘柄ではなく、個人投資家の意図で動かしやすい「安いおもちゃ」だということです。

例えばビットコインは既に市場性を十分に確立しつつありEFTができ、プロがプロの目線で売買に参画しているため、値動きが以前ほどにならなくなりました。今後、新値をつけてぐいぐい上がるというよりじわっと動くという感じになると思います。

同様にテスラ株もボロ株の代名詞だったものが一部の信者で強く買い支えられ、その後、大きく跳ね上がったのはご承知のとおりです。ただ、私がかなり以前からテスラ株は終わったと申し上げているのは同社が普通に車を生産できるようになり、同社株にプロが参入する銘柄になったために株価が踊れなくなったのです。そこを一般の方はあまり意識したことがないのだろうと思います。

例えばアップル社の株は15年前に持っていれば100倍になりました。しかし、同社は既に成長株から成熟株にカテゴライズされていますので今後、何倍にもなることはもうないのです。

狂乱マネーは次の黄金を求めてさまようはずです。見たことも聞いたこともない銘柄やSPAC、あるいはNFT(ノン ファンジブル トークン)といった投資案件にマネーが殺到し世間の注目を集めるかもしれません。ただ、ここまで書けば一定年齢以上の方は「ははーん」とお気づきになると思いますが、「狂乱の末期」なのです。これは間違いないでしょう。

よってここからの投資の基本は資金を寝かせても大丈夫な銘柄にスイッチするのが安全だと思います。何年でも寝かせられる代表はREITなどの高配当銘柄です。これなら3-10%程度の配当が期待できるので銀行預金だと思ってほったらかしにしても大丈夫でしょう。

もちろん、株価が今後、踊ると思われる業種や銘柄はまだたくさんあります。但し、上がっても3割か5割で利確するといった割り切り感が必要だと思います。つまり深追いをしないことではないかと思います。それぐらい、北米の市場は転機に差し掛かっているとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月10日の記事より転載させていただきました。