私の経営する東京のシェアハウスに住む若い女性2人はパレスチナ難民キャンプへの支援活動に行くのを待つ日々です。コロナでその渡航は延びに延びているのですが、来週にその渡航が決定したと連絡がありました。しかし、報道の通り、パレスチナとイスラエルの間で激しい争いが始まっています。私はその2人が本当に渡航できるのか不安で本人たちには今どういう状態にあるのかもう一度、よく確認した方がよいと再三連絡しています。
パレスチナには二つのエリアがあります。一つがヨルダン川西地区と呼ばれるもので私はカナダに長いのでウエストバンクという呼称がよりしっくりきます。もう一つが今回問題になっているガザ地区です。ガザ地区は地中海に面し南北50キロ、東西5キロ程度の細長い土地で総面積は東京23区の6割ぐらいでそこに現在イスラム系の人が約200万人居住しています。
経済状態は非常に悪く、また地中海に面していない他の三面はイスラエルが厳しく管理し、海側も監視下に置かれています。ガザへのエントリーポイントも総数では6カ所しかなく、そのうち大半は現在閉鎖中という状態にあります。
パレスチナの歴史を述べると大変なボリュームになるので割愛しますが、このガザ地区はイスラエルとの1993年のオスロ合意でパレスチナの自治区となり、2005年にはイスラエル軍とイスラエルの入植者が退去し現在の状態に至ります。ただ、それ以降も頻繁に自治区とイスラエルの間で交戦が行われています。
今回の事件もその一環ではありますが、いつもより緊張感をもって考える必要があります。それは暴発するイスラエルとより強硬化するパレスチナを誰が仲裁するのか、であります。
イスラエルがトランプ政権の時に相当緊密な関係となったのはご承知のとおりです。また政権末期にはイスラエルが中東諸国と次々と国交樹立したのも記憶に新しいところです。仮にトランプ政権が継続していれば中東の雄、サウジアラビアですらイスラエルと国交を結ぶ可能性もなかったわけではなく、それぐらい外交的にイスラエルは攻め込んでいました。もちろん、その背景にはネタニヤフ首相の存在があり、氏のカリスマ性すら持ち合わせる剛腕を見せつけたわけです。
ところがトランプ政権が敗北したとたん、アメリカからの熱量は一気に冷めるのです。もちろん、バイデン氏は反イスラエルではないでしょう。事実、ブリンケン国務長官の義父はナチス強制収容所に入れられながらも生き延びた方です。ただ、個人的に支援したいとしてもアメリカの外交姿勢がすっかり変わってしまい、ネタニヤフ首相からすれば「頼れない」という判断をせざるを得なかったとみています。
その行動の一つが対イランでバイデン氏がイランとの融和政策をとることにイスラエルは強く反発、諜報組織であるモサドが暗躍しイランの原子力核施設を破壊しました。
ユダヤ人はその歴史からして誰かに頼れないという危機感を常に持っています。つまり行動意識が非常に高く、それを制御するのも難しいという特徴があります。「騙されない」という意識を持ち続けている以上、自分たちが勝利するまで手を抜かないというのが原則論であります。
今回のガザへの攻撃も駐米イスラエル大使が「平静を呼びかけるイスラエルの指導者と、ロケット弾やミサイルを発射する扇動者やテロ組織を声明で同列に並べることはありえない」(日経)と一歩も引く気配を見せません。
ではパレスチナの方はどうかと言えばこちらもオスロ合意当時のPLOからテロ組織とも称されるイスラム原理主義のハマスが政権を握るようになりイスラエルとの間では些細なトラブルから大規模な衝突になるということが繰り返されています。
それでも今までは一定の抑止力がありました。国際社会の力や監視の目であります。ところが現在はコロナ禍でどの国も自国の管理で精いっぱいなのです。この中でいち早く正常化に向けてワクチンを接種し、攻撃態勢を整えたネタニヤフ首相は多分、トランプ政権後のイスラエルの立ち位置を事前に予測し、ワクチン接種がイスラエルを軍事的な強化となるぐらいの考え方だったのだろうと思います。
ネタニヤフ首相は「まだまだこれから」という強い姿勢で今回の交戦は2000年10月以来の規模とされます。最悪、地上戦ともいわれています。これを誰が抑止できるか、ですが、アメリカの動きは口先介入で効果はいま一つです。バイデン氏に行動力がなく、腰が重い様子が見受けられます。一方、リアクションが早かったのがトルコのエルドアン大統領で既にプーチン大統領と電話でイスラエルへの強力な抑止への協力を求めています。
中東の事変は日本にとってもっとも縁遠いことの一つとされます。しかし、今回の戦闘では既に多くの子供も戦闘に巻き込まれ亡くなっています。イスラエルには厳しい視線が向けられそうですが、国際世論がそこまで盛り上がらないのはもちろん、世界に散らばるユダヤ系組織が抑えるべきところを抑えているから、であります。
エジプトが仲裁に入るのか、トルコが動くのか、はたまた抑制が効かなくなるのか、国際社会は今日も揺れています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月14日の記事より転載させていただきました。