ワクチン接種でなぜ感染が増えるのか

ワクチンの大規模接種が始まり、世の中はワクチンの話題で持ち切りだが、やはり気になるのはそのリスクだろう。ネット上にも多くの反ワクチン情報が出回っているが、まず「ワクチン接種で感染が増えた」という話は正しいか。

お手軽なデータとしてOur World in Dataでワクチン接種回数の多い国(小国を除く)の死亡率をみると、図1のようになっている。

図1 ワクチン接種回数の多い国のコロナ死亡率(人口100万人あたり)

接種後に死亡率が激減したイギリス・イスラエルに対して、ハンガリーでは死亡率がピーク時には3倍になったが、EU全体でみると、昨年12月初めの7.92人から現在は2.1人と、74%も減っている。これは明らかなワクチンの効果といえよう。

ヨーロッパがアジアと同じ免疫水準に近づいてきた

ではアジアはどうだろうか。こちらはワクチン接種率はさまざまだが、図2ではインドが突出している。接種開始後に激増したフィリピンやバングラデシュやモンゴルはピークアウトしたが、マレーシアやインドネシアはまだ増えている。

図2 アジア各国のコロナ死者(人口100万人あたり)

ヨーロッパでもアジアでも、ワクチン接種開始後に死者が増える傾向がみられるが、2ヶ月ぐらいでピークアウトする国が多い。日本も死者は増加しているが、感染者数はピークアウトしたようにみえる。

注意してほしいのは、座標軸の違いである。図1では最高30人、図2は10人で、共通にEUの流行曲線を描いている。EUの死亡率はワクチン接種の始まる前の12月初めには、アジアの数十倍だった。今は相対的に下がっているが、依然としてアジア平均の数倍である。

つまりアジアに比べて桁違いに高かったヨーロッパの死亡率が、ワクチン接種でアジアに近づく平均への回帰が起こっているのだ。

アジアには昔から結核や肺炎が多いため、呼吸器系疾患に対する免疫(訓練免疫や交差免疫)が強かったが、衛生環境の整ったヨーロッパではそういう免疫が弱かった。それがワクチン接種でアジアに近づいてきたと考えることができる。

これは免疫機能が人類に普遍的なものだとすると当然ありうることで、今までのように地域によって2桁の違いがある状態がいつまでも続く保証はない。逆にいうと、もともと天然のワクチンを打っているアジア人にとっては、ワクチンのメリットはそれほど大きくない。もともと接種後のヨーロッパ人ぐらいの免疫機能はあったからだ。

1回目のワクチン接種で安心してはいけない

もう一ついえることは、ヨーロッパでもアジアでも、第1回目の接種で感染が増えて2回目の接種でピークアウトする傾向がみられることだ。ワクチンの成功例とされるイギリスやイスラエルでも、接種の始まった昨年12月から今年2月まで、死者が数倍になっている。今アジアで起こっている動きは、それを3ヶ月ぐらい並行移動したものだ。

この現象は多くの国でみられ、ワクチンの種類や変異株に依存しない。ワクチン接種でコロナに感染したという症例の報告はないので、これはワクチン接種で感染するADE(抗体依存性感染増強)のような生物学的なメカニズムではない。

1回目の接種だけでは免疫ができず、かえって感染しやすくなるといわれる。このため1回目の接種を受けた人が「免疫ができた」と思って活動を再開して感染し、スーパースプレッダーになるのではないか。

その傍証は、インドやバングラデシュやフィリピンのような衛生環境のよくない国では、1回目の接種のあと死者が10倍ぐらいに激増したのに対して、感染を個人情報で追跡している韓国では感染が拡大していないことだ。

超高齢化した日本の死亡率がそれほど増えないのは、最初に接種を受けたのが医療関係者なので、このような二次感染の影響が小さいためだろう。「ファクターX」と呼ばれるヨーロッパとアジアの感染率の大きな差の原因は、免疫機能だけではなく、このような生活習慣の違いも大きいと思われる。

以上は統計データからみた推測で、医学的な根拠はないが、ここからいえるのは、1回目のワクチン接種で免疫ができたと思って活動を再開してはいけないということだ。2回目の接種で免疫ができるまで、安心してはいけない。この点を政府が周知徹底したほうがいいのではないか。