現実となったワクチンによるコロナ収束

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載33)

1か月前に「ワクチンによる新型コロナ感染の収束」を書いた時は、ワクチンの効果が各国のマクロな新規陽性者の推移にやっと兆候として現れた程度でしたが、現在、ワクチンによるコロナ収束が現実のものとして明確に現れてきました。

Irina Shatilova/iStock

図1が本連載で扱っている12カ国のワクチン接種率の推移です。特に、この1ヶ月のヨーロッパの国々の伸び率が顕著です。

本連載では、「3月8日」という日付に注目してきました。多くの国がこの日を境に陽性者が上昇フェーズに入りました。恐らく、新しい変異株がその感染力の強さで、同時的に蔓延しだしたのだと考えられます。

また、この時期を境に各国のワクチン接種率も増加しました。ヨーロッパ各国もこの時期を境に、接種率が2桁台になっていきます。

この陽性者の増大と、ワクチン接種率の上昇が重なったため、「ワクチン接種が感染爆発を起こすのではないか」、「高速接種、大量接種は危ないのではないか」、「BCGで平穏であったアジア人の免疫バランスを崩すのではないか」、「死者がインド並みに急増するのではないか」、「ワクチン接種でコロナが重症化するかもしれない」等々、ワクチンに対する様々な意見が百出しました。

が、次々と各国がピークアウトする現実と、日本国内で一千万人を超す接種状況下で、ワクチンによる感染爆発も、著しい副反応も報告されていないことから、逆に、ワクチンによる集団免疫の獲得こそ、現状を打破する最短かつ確実な手段だという認識が共有されるようになりました。

モンテカルロシミュレーションで解析してみましょう。図2は、各国の新規陽性者数を3月8日の日本の陽性者数に規格化した陽性者数の対数表示です。絶対値の比較はできませんが(各国の規格化の係数は図の左下に示してあります)、この図から3月8日からの各国の変化割合の推移を比べることができます。

グレーゾーンが3月8日から現在まで、各国の陽性者の線は計算値で、各国のデータを再現しています。現在から先は、現状を外挿した予測線です。

12カ国のそれぞれの予測線とデータとの比較の詳細は次の記事に譲ります。本記事では、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、スペイン、アメリカ、フランスの6カ国に注目し、そして日本の今後について述べます。

図2に、これら6カ国だけを拡大したものを示します。これらの国々は、3月8日時点で全て上昇フェーズです。その時点での接種率はアメリカを除き1桁台です(図の右下の黒の数字)。

各国のピーク位置を▼で(計算で発症日ベースのピークアウト日)、その時の接種率を図の右下の紫の数字で示しています。図1で分かるように、アメリカだけは接種率の大きさ、推移が他とは違いますが、ヨーロッパ5カ国は接種率の推移がほぼ同じです。5カ国とも接種率が約10%を超えるとピークアウトし、それ以後、同期したように下降フェーズに入ります。このピークアウトは、明らかにワクチン接種率と相関しています。

地続きのヨーロッパの諸国ですから、同じような振舞は当然でないかと感想を持たれるかもしれませんが、そうではありません。図3は、図2を昨年の10月からのものに拡張したものです。3月以前の各国のピークの位置、個数、大きさはばらばらで、全く関連がありません。

この図で示されている事は、あまりにも明確で感動的ですらあります。得られる結論は、ワクチンの効果は、接種率が約10%を超えると、ピークアウトとして現れるということです。

この1年間、「モンテカルロシミュレーションで検証」という副題で、コロナ対策として行われる自粛要請、緊急事態宣言等の施策の効果を定量的に検証しようと解析を続けてきましたが、明確な相関、因果を掴めないまま現在に至りました。

ピークアウトの機序は、相転移のような形で突然の変化となって現れますが、まだ本質的なメカニズムが掴めません。

日本では、これまで検証がなされないまま、多くのコロナ対策で、ある特殊な業種だけが多大な損害を被ってきました。甚だ不公平な状況です。現在、ワクチンという明確な武器を持ったわけですから、ワクチン接種に付随する微小なリスクを皆でシェアすることによって集団免疫を獲得し、この不公平な状況を早急に解消することが求められています。

今後の日本を予測してみます。太字の結論は、陽性者カーブが上昇フェーズの場合です。日本は下降フェーズでのワクチン効果です。下降フェーズにおけるワクチン接種の効果は、下降が加速されると考えられますが、定量的に分離できるものではありません。イギリスやイスラエルが先行事例になりますので、これを参考に予測します。

図5の上部が実効再生産数Rt、下部が新規陽性者の昨年3月からの変化です。青がデータ、赤が計算の予測線です。図6は、新規陽性者と死亡者の変化を対数表示したものです。赤が新規陽性者のデータ、青が死亡者のデータ、黒が計算の予測値です。

日本は、連休後にピークアウトし、現在下降フェーズです。計算上では、5月10日にピークアウト(発症日ベース)させています。これからのワクチンの効果も考慮し、先行事例を参考にして、下降の傾きを仮定しています。また、6月半ばから下降の勢いを弱くして先行事例と同様の傾きにしています。

最後に、この予測線の5月19日とのベンチマーク、6月20日、7月20日の予測値を次の表に示します。