ヨーロッパに見るコロナワクチン効果の検証

ヨーロッパにおいて、ワクチン接種の進んでいる国々と遅れている国々の新規感染者の推移を概観した結果、ワクチン接種の進捗率と新規感染者の減少率の関係は国によって大きく異なる様相を示していた。世に喧伝されるような救世主的な成果ばかりではなく、むしろイギリスの成果は際立って稀なケースであることもわかった。

そこでサンプル対象を拡大し、感染の収束が明確に見て取れる国々と、逆に収束が弱い国々の二つのグループのサンプル国を改めて抽出、感染推移とワクチン接種の実態を調べた。データは毎度お世話になっている「札幌医大 フロンティア研 ゲノム医科学」特設ページから引用させていただいた。

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まず、感染の収束が明確に見て取れる国々の感染推移。横軸は今年の1月1日から。イギリスが青で、年初にピークアウトし劇的に新規感染者数は減少している。一方、3月末から4月初めにイギリスと同様の劇的な感染者の減少が見られる国々も6か国あった(セルビア、クロアチア、ブルガリア、モルドバ、ノースマケドニア、ボスニアヘルツェゴビナ、コソボ)。図中の黒の破線はイギリスと他の6か国のおおよその新規感染者減少率。偶然にしろ、両者はほぼ同じ感染者の減少率を示している。偶然か必然かこれらの国は旧ユーゴスラビア並びにその周辺国。ではこれらの国のワクチン接種状況はいかなるものなのだろうか?

下図はワクチンの部分接種、すなわち2回接種した人だけでなく1回でも接種をうけた国民の全人口に対する割合の推移。イギリスの進捗状況が著しく進んでいて56%ほど、2位3位のセルビアとクロアチアで30%前後であった。一方驚くべきことに他の5か国は11%以下、ボスニアヘルツェゴビナとコソボは日本以下の5%未満であった。

イギリスで観察されたピークアウト時のワクチン接種率は約5%で、図に赤丸で示した。仮に5%がウイルスワクチンの効果が顕在化する時点と仮定し、ワクチン接種率5%を黒線で示してある。これから各国の5%達成時期を推定することができる。

先に示した感染者推移の図にもどる。図の矢印は各国の5%達成時期である。セルビアとクロアチアでは、5%の接種率では何の効果もなくむしろ新規感染者はその後増加し、3月末から4月初めにかけてピークアウトし、減少をはじめた。また他の3か国も3月末から4月初めにかけてピークアウトしたものの、5%の接種率はモルドバでは5月下旬、コソボ、ボスニアヘルツェゴビナでは未だ5%に達していない状況である。ワクチン接種率が全国民の5%に達していない状況下で、イギリス並みの新規感染者の減少をワクチンの効果で説明することが不可能なことはあきらかであろう。少なくともワクチンと同等の感染抑止要因が厳として存在していることを示している。またはワクチン接種をしなくても感染が抑止されていた可能性が高いと考える方が科学的。

これら6か国は地理的に同一地域に位置し、セルビアとクロアチアのピークアウトとその後の感染者減がピークアウトを含め減少率も似たようなものということは、この2か国の減少も、ワクチンの効果によるものとは言い切ることはできない可能性さえある。

次に収束が弱い国々(フィンランド、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ロシア、ベラルーシ)と日本。これらのワクチン接種状況はこちら。ベラルーシが日本と最下位を争うレベルでロシアが約10%だが、他の5か国は順調にワクチン接種が進捗しており、30-40%ほど。両社の格差は著しい。なお、前のグループの検討と同じくイギリスでの効果顕在化レベルの5%ラインを引いてある。

予期されたとおり5%接種で新規感染者の減少の見られる国はなかった。30-40%の接種レベルに達する国でも、接種時に較べ感染者減は見られるもののイギリスほど顕著な減少は見られていない。原因として接種スピードもあるとは思うが、一方でデンマークのように全く感染者減果の現れていない国もある。図の破線がイギリスや旧ユーゴスラビア周辺国の感染者推移で、その違いは歴然としているといえるだろう。イギリスのように接種開始後早々の感染者の減少は観測されておらず、ワクチンの効果はマチマチといえる。このことは、感染者拡大や収束の要因がワクチン以外にも存在することを窺わさせている。

なお、これらの国々の足元の新規感染者レベルは、いずれも緊急事態宣言が延長された日本(下部の青線)より高く、唯一フィンランドが同一レベル。

以上の二つのグループの現実を、ピークアウト時に対する現在の新規感染者の比率とワクチン部分接種率の現在値として一つの図にまとめた(筆者作成)。ワクチンの効果が完璧であれば、ワクチン接種率の増加と共に縦軸の比率は減少せねばならない。すなわち各国の値は左上から右下への対角線上に並ぶはず。ワクチンの有効性は95%と公表されているが、実際にそれ以上それ以上の効果が認められたのはイギリスだけ。今後の接種の進捗により減少率は拡大し、またサンプル数を増やせば多くの国は対角線上に並ぶのかもしれないが、そうならない国も少なく存在する現実を示すのが今回の目的だった。ワクチン無しでイギリス並みの減少を観察した国々さえある。

結論として、ワクチン接種の進んでいるヨーロッパ各国の実例では、現時点において少なくとも以下の実態が明らかになったと言えるだろう。

  1. 見かけ上、公表通りのワクチン効果が認められたのはイギリスだけ
  2. ワクチンの効果(=感染者の減少)は、効果の顕在化する時期や減少率において国によって大きく異なる
  3. 低ワクチン接種率で感染者の激減を見た国や、感染者減の確認されていない国など、ワクチンの効果に疑いを持たせる国、不要と見られる国も存在する