企業による農地取得を進めるためには

担い手不足が深刻化する農地の問題をめぐり、企業による農地取得を認めるべきとの議論が活発化しています。一方で、企業による農地取得については、地元の農業者の反対の声が強く、国会や政府内でも議論が平行線を辿っています。そこで、今回は農業者の方々との意見交換を通じて得られた「地元の農業者が抱える懸念」について整理し、その懸念に対して政府が執るべき対応策について提言します。

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1.現行のリース方式で十分ではないか

所有権の移転ではなく、リース方式によって企業が農地を貸借し、農業に参入することは現行の農地法でも認められています。このことから、「企業による農地の所有を認めなくても、現行のリース方式で十分ではないか」との農業者の声もあります。たしかに、国家戦略特区での規制緩和によって企業の農業参入が増えたと総括する兵庫県養父市の実績を見ても、新規参入した法人件数はリースと所有を合わせて13件、農地面積は61.41haであるのに対し、そのうち農地取得の特例を活用(リースではなく所有)した法人の件数は6件、農地面積は1.66haに留まります(図表1)。このことを踏まえても、企業の農業参入が増えた要因として「農地の所有を認めること」が決定打であったとは必ずしも言い切れない状況です。

一方で、筆者が行った農業者の方々との意見交換では「作物を屋外の畑や水田で栽培する露地栽培においては現行のリース方式で十分かもしれないが、高額な投資を要するビニルハウス等の施設園芸や植物工場を借地に立てることは現実的ではなく、農地の所有を認めても良いのではないか。また、露地栽培であっても、土壌改良に数年を要する有機栽培の場合や、発芽・定植から生産物を生むに至るまで数年を要する果樹や茶などの永年作物については、リース方式では難しいのではないか。」との意見がありました。たしかに、高額な設備投資を要する作物や、投資の回収に数年を要する作物を期限付きの借地上で栽培することは、企業にとってあまりにもリスクが大きすぎます。

実際に、養父市での事例においても、植物工場の建設に多額の設備投資をした法人からは「農地を借りて万が一にでも返却して欲しいと言われたらどうしようもなくなってしまう。自社所有した方が安心できるので購入することにした。」との声が上がっています。

以上のことから、まずは施設園芸や植物工場、有機栽培、永年作物に限定して、企業による農地取得を認めることを提言します。

図表1 新規参入した法人の営農状況(兵庫県養父市)

2.外国資本に農地が買い占められるのではないか

令和元(2019)年に農林水産省が公表した調査結果では、平成30(2018)年中における外国法人等による農地取得の事例は、ほとんど無い状況でした。しかし、一般企業にも農地の取得を認めることとなれば、外国法人や外国人が出資する日本の法人によって、農地が買い占められることも懸念されます。食料安全保障の観点から、企業による農地所有を認めるに当たっては外国資本に対する規制を明確にすることが不可欠であると考えます。

3.地域の共同作業に参加しないのではないか

水路や農道等の共有部分は、草刈り等を地域の農業者が協力して維持・管理しています。これらは、年に数回という定期的なものばかりではなく、農地の畦畔が崩れたらみんなで補修し、獣害が発生したら地域で協力して対応する等、まさに相互に助け合う奉仕活動のような側面があります。そして、その多くは、明文化された契約等に基づくものではなく、地域に根付く暗黙の了解のような形式であることがほとんどです。新規参入する企業についても、共有部分を利用して農業を営む限りは、こうした地域の共同作業に協力するべきものと考えます。

一般企業による農地取得を認めるに当たっては、農地を取得する段階において少なくともこうした地域の共同作業について企業側が理解し、その参加に同意することを要件とする必要があるのではないでしょうか。

4.求められる対応策

以上のような地元の農業者が抱える懸念を踏まえ、求められる対応策を以下の通り提言します(図表2)。

図表2 求められる対応策

農村には、地元の農業を守るためにこれまで培われてきた制度やルールがあり、企業側の思惑のみから安易に規制緩和を進めることは決して得策ではありません。しかし、一方で、このまま新たな農業の担い手が参入しない限りは、耕作放棄地は増え続け、農業が衰退の一途を辿ることも明白な事実です。

重要なことは、地元の農業者の声に真摯に耳を傾け、双方の論拠を加えた上で新たな立論を行う「築論」の精神で建設的な議論を進めていくことではないでしょうか。それは、まさに政治が果たすべき役割であり、私もその先頭に立てるよう引き続き研鑽を積んで参る決意です。