「検察審査会の正義」で議員辞職に追い込まれた菅原一秀氏、「秘書にハメられた」についても説明を

菅原一秀衆院議員(前経済産業大臣)が、地元で香典・枕花や現金を渡したとされる問題で、菅原氏は、6月1日に自民党を離党し、議員辞職願を提出した。東京地検特捜部は、近く、公職選挙法違反(選挙区内での寄付)の罪で菅原氏を略式起訴する見通しと報じられている。

菅原一秀・元経済産業大臣  NHKより

私は、菅原氏の指示で有権者への香典・枕花や現金供与を行っていた元公設秘書2人の代理人として、そして、当初の検察の菅原氏に対する不起訴処分(起訴猶予)に対する検察審査会への審査申立の代理人として、この事件に関わってきた。その契機となったのは、当時公設秘書だった2人から、2019年11月、「菅原氏から、『文春と組んで代議士をハメた秘書』のように言いふらされて、事務所をクビにされそうになっている」と相談を受けたことだった。

この事件が週刊文春で報じられた後、検察が捜査に着手し、不当な不起訴処分に終わった時点までの経緯については【菅原前経産相・不起訴処分を“丸裸”にする~河井夫妻事件捜査は大丈夫か】で詳細に述べている。

2020年6月、検察は、菅原氏の公選法違反事実を認めた上で「起訴猶予」としたが、次席検事が異例の会見を開いて説明した理由は全く納得できるものではなく、検察審査会に持ち込まれれば、覆ることは必至だと思えた。ところが、検察は、7か月以上も前に受領していた告発状を、不起訴処分の直前に告発人に送り返し、「告発事件」ではなく、検察が独自に認知立件した事件のように装って、事件が検察審査会に持ち込まれないようにする「検察審査会外し」を画策していたことがわかった。

私は、同年7月、告発人から委任を受け、審査申立代理人として、「有効な告発状を提出している以上、検察が不当に受理せず返戻していても『告発した者』として検察審査会への申立ては可能」との法解釈に基づいて、検察審査会への申立てを行ったところ、数日後、東京第4検察審査会から「令和2年(申立)8号事件として受理した」旨の通知が届いた。(この間の検察の不当な対応と審査申立の経緯については、ブログ記事【菅原前経産相不当不起訴の検察、告発状返戻で「検審外し」を画策か】)

そして、その9か月後の2021年3月12日、東京第4検察審査会が、菅原氏に対して「起訴相当」の議決を行ったことが発表された。

告発人の「申立事件」として検察審査会が受理しているのに、検察は、検察審査会から提出を求められた不起訴記録を提出しないという「審査妨害行為」を行ったが、菅原氏の元公設秘書2名が、菅原氏に指示されて公選法違反行為を実行していた状況についての「陳述書」や資料を提出するなどして審査に協力したこともあって、東京第4検察審査会として職権で審査を行うことを議決した上、「起訴相当」議決に至ったものだった。まさに、市民の代表として「検察の不正義」を正した画期的な議決であった(【菅原一秀議員「起訴相当」議決、「検察の正義」は崩壊、しかし、「検察審査会の正義」は、見事に示された!】)。

検察官が、犯罪事実を認めた上で「起訴猶予」とした事件が、検審で「起訴相当」と議決された場合、検察が再捜査の結果、再度「起訴猶予」にしたとしても、検審での再度の審査で「起訴議決」となり「強制起訴」されることはほぼ確実だ。検察にも、不起訴処分の際に犯罪事実を認めている菅原氏にも、「逃げ道」はなかった。

そういう意味で、検察が菅原氏を起訴し、議員失職となるのも当然の結末だった。今回、菅原氏が議員辞職したのは、現職議員のまま刑事処分を受けることを避けるためであろう。

このような経緯の中で、最大の問題は、当初、検察が、なぜ菅原氏を「起訴猶予」にしたのかという点だ。

今回の結末からも明らかなように、現職国会議員の「違法寄附」の公選法違反行為が認められる以上、罰金刑に処するのは当然であり、「起訴猶予」などという処分はあり得ない。

2019年10月に週刊文春の報道を受けて経産大臣を辞任した菅原氏は、その後、「体調不良」を理由に10月から開かれていた臨時国会を欠席し続ける一方で、「秘書にハメられた」と言って地元支持者回りをしていた。

そして、2020年1月20日の通常国会の初日には、国会内で、記者に公選法違反の疑惑について質問されて、

「告発を受けているので答えられない」

と述べて説明を拒否していた。

ところが、6月16日、菅原氏は、突然、自民党本部で記者会見を行い、

「近所や後援会関係者らの葬儀が年間約90件あり、自身は8~9割出席しているが、私が海外にいた場合、公務で葬儀に参列できない場合に秘書に出てもらい、香典を渡してもらったことがある。枕花の提供もあった。」

として公選法違反の事実を認め、

「反省している」

と述べた。

その翌週の6月25日、菅原氏の不起訴処分が、東京地検次席検事の記者会見で公表された。

このとき認定された違法寄附は約30万円、不起訴理由は、「後援会関係者らの葬儀には自身が8~9割出席した」という菅原氏の言い分を「丸呑み」したものだった。元秘書らは、常に「菅原一秀」という文字が印字された香典袋を持ち歩き、通夜・葬儀の情報を得たら菅原氏に金額を尋ねて香典を持参しており、菅原氏本人の出席は、そのごく一部に過ぎず、違法な寄附の総額は300万円程度に上ることは、秘書らの供述やLINEデータ等からも明らかだった。

菅原氏の突然の「記者会見」と検察の不起訴処分のタイミング、不起訴理由の説明などから考えると、検察側と菅原氏側と間で、何らかの話し合いが行われ、不起訴の方針が決まったようにしか思えない。

今回、菅原氏が起訴される見込みの公選法違反の法定刑は50万円以下の罰金である。簡裁の略式命令による罰金刑が確定すれば、公選法の規定で「公民権停止」となり、衆院議員を失職する。公民権は原則5年間停止され、その間は立候補もできない。

この公民権停止については、裁判所が、情状により、刑の言渡しと同時に、規定の不適用や期間短縮を宣告することができるとされている(公選法252条4項)。そして、それについて、検察官が、裁判所に「意見」を述べるのが通常だ。

公民権停止期間が、原則通り5年なのか、3年程度まで短縮されるかは、菅原氏が、今年秋までに行われる次回衆院選には立候補できないとしても次々回の衆院選に立候補できる否かに関わる。近く行われる菅原氏の略式請求で、公民権停止について検察がどのような意見を述べるのか、裁判所が略式命令でどう判断するのかが注目される。(裁判所は、検察の意見には拘束されない。)

元秘書らは、2021年3月末に菅原氏に公設秘書を解任されたが、それまで、秘書として菅原氏の指示に忠実にしたがい、職務を行ってきた。国会議員秘書の職にある者にとって、「週刊誌と組んで議員を大臣辞任に追い込んだ」などと言われることは、職業生命を奪われる程の「汚名」だ。菅原氏は、秘書にそのような汚名を着せて自らを正当化し、検察も、そのような菅原氏の言い分を「丸呑み」して不当な起訴猶予処分を行った。しかし「検察審査会の正義」によって、それが是正されようとしている。

菅原氏は、今回の事件について、これまで全く説明責任を果たして来なかった。

略式命令を受けた際には、「秘書に汚名を着せていた点」も含めて、公の場で説明責任を果たすべきだ。