宅配ビジネスは今の形で生き残れるのか?

ここバンクーバーを含むBC州ではコロナ規制が緩和され、レストランの店内飲食が25日より可能になりました。個人的な期待ですが、コロナ関連のレストランへの規制はこれで一旦最後になったとみています。理由は1回以上の接種率が70%近くの水準となっており、ワクチン効果がある限りはカナダも克服しつつあるように見えるからです。

一時、街中で溢れるほどいた宅配の自転車や電動自転車は今も多いのですが一時ほどではないように見えます。やむを得ず利用した、試しに利用したという人たちが再利用率が下がっているのだろうと思います。世の中、新製品や新店舗、新しいサービスが出ると行列ができますが、しばらくするとそれが沈静化するのは世の常です。

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社会学者ロジャーズ氏は新製品が普及していく過程は正規分布曲線を描くとし、初めの2.5%がイノベーター、次の13.5%がアーリーアダプター、次の34%がアーリーマジョリティー、次の34%がレイトマジョリティー、最後の16%がラガード(=laggard=のろま)と定義しています。(日経ビジネスより)

一方、それにリピート層としてどれだけの客が固定化するかは数値化を試みた研究もありますがその数値の妥当性の標準化は難しいと思います。また、新サービスがどんどん移り変わる中で、リピート率は更に下がっている公算は高いとみています。これを宅配ビジネスに当てはめるならそもそも宅配をしてまでレストランの食事をとりたいという層は上記のイノベーター、アーリーアダプターぐらいで次のマジョリティとなる68%になるための市民権取得までは行っていないのが現状ではないかとみています。

そもそも私が最大の疑問視をしたのは飲食業が苦しんだこの1年強の間、飲食店は何処も価格そのものを見直さなかった点に疑問を感じているのです。レストランビジネスは非常に大雑把ですが、原価率でみると材料3割、人件費3割、賃料や減価償却、販売費などが3割、残りの1割が利益が基本形です。コロナ禍の際、人件費は減ったし、店舗の維持費も若干下がったはず。メニューも絞り込んだとすればそれなりにテイクアウトの金額を下げることはできたはずです。一方、買う側からすればいつもなら店で上げ膳据え膳でサービスしてくれたのに何で同じ値段で使い捨て容器、盛り付けも後片付けもないのに同じ価格(宅配料を考えればもっと)払うのかと考えるのではないでしょうか?

つまり宅配が普及したように見えるけれど違うだろうと私は思うのです。

考え方を変えましょう。例えば高級ホテルに宿泊し、昼食をとるのにホテルのレストランに行くのとルームサービスを取るのとどちらを選ぶでしょうか?私は確かに何度もルームサービスで朝昼晩、食べたことがありますが、それは業務など理由があってやむを得ずそうしただけです。基本はレストランに行くでしょう。食事というのは気分や雰囲気を変える、つまり単に食欲を満たすだけではなく、様々な人が同じ目的で同じ場所で食していることで心理的安心感が生まれ、喜びを共にするという効果があるのです。

とすれば宅配ビジネスは終わるのか、と言えば私は市場開拓の余地は非常に大きいと思うのです。例えば高齢者向け住宅への宅配があります。これはワタミなど大手業者が定期的に運んでいますが、「給食」ではなく、たまには毛色の違ったものが食べたいと思うでしょう。もう一つはスーパーの総菜コーナーの商品を宅配できれば安くて気が利いたものが多いように思えます。例えばそれを団地とかマンションごとに特定時間に必ず配達があるといった感じにすれば効率が上がり、宅配コストも下げられるのではないでしょうか?

今の自転車などの宅配の最大の弱みは一人の客に一人の宅配という1対1の配達関係なのです。同じ人件費をかけるなら2倍、3倍、運んでもらう仕組みを作ったものが勝てるはずです。さらに言うなら企業のランチ宅配と会議食配達でしょう。昔の刑事ドラマで皆、蕎麦屋の出前を取っていたのにヒントがあり、同じところに5人前、10人前の配達があれば圧勝できるはずです。

一方、持ち帰りで花が咲いた業種も多いと思います。日本ではわかりませんが、当地では寿司が爆発的にヒットしました。私もあちらこちらの寿司テイクアウトを探し、時として車で2-30分ぐらい走らせても「食べたい」と思うところまで足を延ばします。うまい寿司をテイクアウトし、きりっと冷えた日本酒を家で飲んでいればこれは寿司屋に行かなくても代替できます。

こうなると宅配ではなく、自分でテイクアウトの店を探して廻る、という感じですね。それとそれを言っちゃおしまいよ、というかもしれませんが、宅配の方の清潔感がどうしても気になるのは私だけでしょうか?夏とか、汗だくで自転車で運んでくれるのは嬉しいけれど…という感じがします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月3日の記事より転載させていただきました。