頻発するサイバー攻撃、ランサムウェアは米国で右肩上がり

今年3月初めのマイクロソフトのメールシステムへに始まり、コロニアル・パイプラインや食肉大手JBSフーズなど、さらに6月8日には日経新聞やCNN、メルカリ、アマゾン、さらには金融庁など大規模なサイトで障害が発生し、揺れに揺れております。

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この傾向は、2020年にネット依存度が高まったコロナ禍で明確になっていました。当方が6月2日に出演しました「北野誠のトコトン投資やりまっせ。」でご説明しましたように、FBI傘下にあるサイバー部門、米国インターネット犯罪苦情センター(IC3)によれば、2020年のデータは以下の通りです。

サイバー被害件数は前年比69.4%増の79.2万件。7年連続で増加し、3年連続で過去最多となっただけでなく、伸び率は2002年以降で最大。
被害総額は前年比20%増の42億ドルと、こちらも3年連続で過去最高。

チャート:被害件数は7年連続で増加、被害総額と合わせ過去最高を更新(作成:My Big Apple NY)

・企業に関わるネット犯罪はランサムウェアで増加中、20年の被害総額は前年比3.2倍増の2,920万ドル

(作成:My Big Apple NY)

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バイデン政権はこうした状況を踏まえ、サイバー攻撃対策で“ドリームチーム”と呼ばれる布陣を立てました(上院の承認が必要なポジションもございますが)。

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強力な布陣を要するバイデン政権、東海岸の燃料供給の45%を占めるコロニアル・パイプラインのサイバー攻撃をめぐっては、5月6日にハッカー集団“ダークサイド”が同社を攻撃して約1週間以内に事態を収める働きをしたとまことしやかに報じられ、実際にそうだったのはご案内の通りです。

一連の動きを振り返ると、コロニアル側は7日時点で75ビットコイン、440万ドル相当を身代金としてダークサイドに渡したとされています。それにも関わらず、ダークサイドがウェブサイトを513日に閉鎖したと、サイバーセキュリティ会社ファイアアイとインテル471の情報を元にWSJ紙が14日に伝えていました。インテル471によれば、ダークサイドは米捜査当局などの圧力により、活動のためのインフラへのアクセスを失ったと示唆していたといいます。

5月18日には、調査会社エリプティックは、ダークサイドのデジタル・ウォレットを特定、そこから、530万ドル相当あったビットコインが引き出されていたと報告しました。

興味深いことにこれらが起こる以前、510日時点で米政府によるトリプルプレーが確認できます。何かと申しますと、①FBIによるダークサイドの犯行断定、②バイデン大統領の会見、③サイバーセキュリティ担当副補佐官、ニューバーガー氏の会見――の3つです。

特に、②と③は以下のような内容に言及していました。

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予定調和もとい、コーディネートしながら政策運営するバイデン政権らしいですよね。報道とこうした発言と憶測を元に点をつなぎ合わせれば、バイデン政権はダークサイドのインフラを遮断し、身代金をダークサイドの口座から奪回したような線が浮かび上がります・・・そして、遂に6月7日、リサ・モナコ司法副長官が身代金奪回について認めました63.7ビットコイン(急落後は約230万ド)を取り戻したといい、身代金支払い額の75ビットコインの85%に相当します。

余談ながら、この間のビットコインの動きに注目。コロニアル・パイプラインがサイバー攻撃を発表した5月7日頃まで、ビットコインは5.5万ドルを上下した推移を続けていたものの、ダークサイドの活動停止が伝わり始めた5月13日に5万ドルを割り込み急落を開始したのです。米政府の差し押さえ観測から、売りが売りを呼んだのか・・・。また、3月21日頃に台湾のPCメーカーであるエイサーもサイバー攻撃に遭い、暗号資産Moneroを通じ5000万ドルの身代金を要求されました。この時も、3月26日まで急落したのです。エイサーが支払ったかは不明ですが、Moneroからビットコインへシフトしたのか・・・色々妄想してしまいます。

チャート:ビットコインの変動とサイバー攻撃(作成:My Big Apple NY)

本題に戻りましょう。

バイデン政権が行動した理由は、①経済安全保障(インフラ操業停止の防止、データ窃取や機密情報漏洩の予防)、②ハッカー集団への警告、③ドルの価値低下阻止、④デジタル・ドル導入前にサイバー関連の取り締まり強化示唆―の3つが挙げられるのではないでしょうか。③については、人民元が2016年の1.1%から20年末に2.3%、わずか4年で加ドル(2.1%)を抜き、ユーロや円、ポンドに次いで5位に浮上しており、足元の人民元高容認もあってデジタル人民元の普及は脅威でしかありあmせん。

チャート:外貨準備のドル比率、2020年末に60%を割り込み過去25年間で最低(作成:My Big Apple NY)

また④をめぐり、パウエルFRB議長の発言をの変化をみると導入へ傾いているように見えます。20年10月時点では「米国にとって、一番に行うことよりも正しく行うことが重要」、「メリットやデメリット、政策面でのセキュリティリスクを評価」と発言していましたが、21年3月には「決済システムの効率化や、金融の包摂化に利点あり(銀行口座を有していない家計、並びに金融商品の提供に役立つとの意味)」へシフトしました。デジタル・ドルの研究成果などを公表する予定を明らかにした5月のビデオ会見では、明確に「焦点は、安全で効率的な決済システムの確保」、「適正な規制と枠組みに注意を払わなければならない」と発言しております。

何より、決済システムの効率化や金融の包摂化については、イエレン財務長官も2月に明言しておりました。こうしてみると、バイデン政権はデジタル・ドルを導入した暁での安全性を強化する上で、コロニアル・パイプライン問題に対応したようにみえますが、少なくともデジタル・ドル導入への真剣度は今夏のFRBによる報告書で明らかになるのでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。