パウエル氏率いるFed、”変心”再びで市場に衝撃

6月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通り金融政策の据え置きを決定しました。しかし、①ドットプロットで利上げ開始時期を2024年から2023年への前倒しを示唆、②資産買入縮小の討議開始――などが明らかとなり、市場に衝撃を与えたのは、ご周知の通り。16日に米株安・米債安(米金利上昇)・ドル高で反応し、ダウは50日移動平均線を割り込み、約3週間ぶりの安値をつけ、米10年債利回りは約2週間ぶりに1.6%台が迫り、ドル・インデックスも約1ヵ月半ぶりの水準へ上昇したものです。

パウエル議長 FRB HPより

では、経済・金融TV局CNBCが米連邦公開市場委員会(FOMC)開催直前に市場関係者を対象に実施するFedサーベイの結果と、どれほど乖離していたのでしょうか?結果は以下の通り。

〇資産買入の縮小を発表する時期(平均値、必ずしもFOMC開催月にあたらず)
今回:2021年10月、前回4月時点:2021年10月

〇資産買入の縮小開始時期(平均値、必ずしもFOMC開催月にあたらず)
今回:2022年1月、前回:2022年1月

〇資産買入を縮小すべきか否か
今回:縮小すべき=86%、前回:縮小すべき=68%

〇経済回復の資産買入が必要か
今回:必要なし=89%、前回:必要なし=65%

〇資産買入、第1段階の縮小規模予想(平均値)
今回:218億ドル

〇ゼロ金利政策を解除する時期(平均値、必ずしもFOMC開催月にあたらず)
今回:2022年11月、前回4月時点:2022年12月

〇2021年の消費者物価指数(CPI)見通し
CPI 今回:3.88%、前回:2.76%

〇CPIの上振れは一時的か
今回:一時的=60%、持続的=29%

〇S&P500見通し
2021年末 今回:4,285、前回:4,250
2022年末 今回:4,468 前回:4,500

〇米10年債利回り見通し
2021年末 今回:1.85%、前回:2.0%
2022年末 今回:2.3%、前回:2.4%

――ご覧の通り、Fedサーベイの調査対象であるエコノミスト、ファンドマネージャー、トレーダーを始めとした市場関係者の間では、資産買入縮小時期は前回通り(発表:2021年11月、縮小時期:2022年1月)でした。Fedの利上げ開始が前倒しされつつ、2022年との予想は前回4月と変わらず。とはいえ、市場関係者がインフレの上振れにつき、パウエルFRB議長を始めFOMC参加者が繰り返し強調するように「一時的」との回答が60%に及ぶ点に注目して頂きたい。

蓋を開けてみれば、今回の会見でパウエル氏は「人手不足や供給に関わるその他の制約は、インフレが我々の予想を上回り、長く残存する可能性を高める」と発言し、これまでの姿勢から転換し始めました。さらに、ドットプロットが2023年末までに利上げを2回行う方向を示唆していましたよね。利上げ開始時期を2023年後半と予想するJPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ米国担当首席エコノミストは、「市場予想よりかなりタカ派寄りだった」とコメントするほど。別の市場関係者は、インフレへの姿勢やドットプロットの劇的な変化を受け「話が違う。Fedは説明責任を果たすべきだ。さもないとFedの信用に関わる」と鼻息も荒く猛批判していましたっけ。

チャート:ドットプロット、前回は7人が2023年の利上げを予想していたところ、今回は13人に増えそのうち11人は2回を予想(作成:My Big Apple NY)

そもそも、テーパリングの議論開始の点でも、FOMC参加者の間でチーフエコノミストとしての役割を果たすクラリダ副議長が5月12日に米4月CPIの上振れにつき「ノイズがみられるため、精査が必要」と発言しながら、その約2週間後の5月26日に「今後数回の会合で協議可能」とガラリと変わったように、今のFOMCは風見鶏の傾向があると言っても過言ではありません。2018年末までに4回の利上げを行い、当初は2019年の利上げ継続を示唆していたにも関わらず、その後の金融市場の変調を受け予防的利下げへの転換した局面でも、その傾向が垣間見れます。個人的には、仮にインフレ加速が和らぎ、Fedの予想より労働市場が改善しない場合、今後のテーパリング開始の議論あるいは時期を後ろ倒ししてくることも、十分ありうべしと考えています。

なお、2013年のテーパリング開始議論を振り返ると、バーナンキFRB議長(当時)が5月に資産買入縮小に言及した5月以前、1月29~30日開催のFOMCで「年末までに」開始を主張していたのは、当時FRB理事だったパウエル氏その人でした。そのパウエル氏は、2022年2月にFRB議長としての任期切れを迎えます。もしかすると彼自身、再指名は困難とみてインフレ加速によるFRB議長としての晩節を汚すことを回避すべく、忖度なしに自身の考えに忠実になったのかもしれません。

後任には、女性でありクリントン政権で経済顧問、オバマ政権で国際問題担当財務次官を務め、バイデン大統領と関係が深く、さらにインド太平洋調整官のカート・キャンベル氏の妻であるブレイナードFRB理事が噂されています。通常、FRB議長にはCEA委員長やFRB副議長ルートを経由して指名されるのですが、果たしてどうなることでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。