どう見る、パウエルショックの株式市場

パウエルFRB議長が会見すると株価は下がりやすいというジンクスがあります。就任以来、記者会見後、ひどい下げに見舞われたのは氏の表現力に問題があり、市場の期待と対立関係のステートメントが多いからです。イエレン氏が議長の時は市場に寄り添ったものが多く、会見後、株価が下がることはあまりありませんでした。

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先ほど終わったTDバンクのチーフエコノミストらが社内とクライアント向けに発信したウェビナーではFRBの今回の位置づけは昨年3月から続いた上昇トーンから「違う章」に入ったと明言しました。労働についてはミスマッチが起きており、飲食など必要な業種に必要な人数の人材が戻ってこないとし、今後の展開については見極めることが大事と述べていました。

6月15,16日の2日間開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では23年中にゼロ金利政策を解除する可能性が指摘されました。これは特に想定外だったとは思わないのですが、いわゆるドットプロットから23年中に0.25%の利上げが2度あるのではないか、との思惑が市場に大きなショックを与えました。

ドットプロットとは正副議長と地区連銀総裁など18名が参加する先行きの金利予想図です。これを見ると21年中は全員、今のゼロ水準、22年末は18名中7名が利上げ予想でうち5名が0.25%の上昇を、2名が0.5%の上昇を予想しています。23年末になると13名が利上げを予想し、2名は6回も上がるとみています。これにより23年は2度ぐらい上がるだろうと専門家が読み取ったわけです。これが市場では予想外だったわけです。

一方、FRBのインフレは一時的との見方は崩していません。

さて、この金利の上昇、実際のところ、どうなのでしょうか?今回のインフレの要因が何なのか、これを知ることがこの予想をするキーとなります。

インフレの要因は大きく分けて3つ。1つは需要の急増、2つ目は材料の不足、3つめは生産能力の不足です。後の2つは供給側の問題ということになります。では今回のインフレはどれにあたるか、と言えば3つ目の生産能力となります。確かに需要が増えている面も否定しませんが、コロナ前と現在の1年半のタイムギャップ分の需要増大の波が来ているためでどこかでこのボーナス需要は必ず止まります。

一方、部材が足りないものは確かにありますが、半導体などはそもそも自動車業界がコロナ需要を見誤ったことに主因があります。半導体はあったのに確保しなかったのでゲーム業界が取ってしまったという構図です。一方、半導体生産はコロナで工場投資が遅延したことも大きくなり、世の中の成長に伴う半導体需要にキャッチアップしなくなったということかと思います。優劣をつけると批判があるかもしれませんが、ゲームの経済効果と自動車の経済効果を考えれば自動車に半導体を回すべきなのでしょう。つまりリバランスをすればどうにかやりくりができないわけでもないと考えています。

とすれば最後は生産能力、特に労働力の問題、これが最大の失敗部分なのです。まず、アメリカでコロナに伴う経済支援策としてバイデン政権がやらなくてもよい個人向け小切手の配布をしました。これで一部の労働者は労働市場への復帰を遅らせることに成功します。コロナ前に比べて760万人分の職が減少したままだとFRBは懸念を示しますが、政権がバラマキをしなければこの回復はもう少し早かったはずです。

各産業は人手が足りないため、顧客の対応が十分ではなく、対応に時間がかかったり質が下がったりします。これが既に起きていることで、7-8月は旅行やレジャーがパンクするほどになるでしょう。結果としてスタッフ不足もあり価格を上昇させても追いつかないということになります。

これは長期的に見れば単に平常時に戻るためのそれこそ一時的な山で個人的には今年いっぱいでこの山は「こなれてくる」と予想しています。住宅が飛ぶように売れるわけでもないし、車を急いで買い替える必要もないのです。心理的反動、それだけです。

日本でもそうだと思います。レストランが再開して酒が飲めるようになれば飲み会がしばらく続きますが、そのうち、平常に戻ります。

そこから類推すると2年半後である23年末の事など誰もわからないのです。予想不能であります。ただし、いえることは想定外が起きなければ経済は安定飛行に戻るということです。アメリカの長期の政策金利を見るとリーマンショック後初めて利上げに転じたのが15年11月。その後、とんとんと上がり、18年11月に2.5%となります。ところが19年5月に0.25%下げ始め、9月に1.75%まで合計0.75%下げるのです。つまり、コロナ前で見ると心地よい金利水準は2%前後であります。また金利が上げ局面になってからピークに達するまで3年もかかっているのです。

もう一つは先進国において金利は上がりにくくなっているのは自明であって日欧はゼロ金利からなかなか上に行けません。とすればアメリカだけが例外というのはおかしな話で今回の利上げサイクルに於いて頑張っても1%-1.5%まで行くかどうか、そんなものだと思っています。とすれば上述のドットプロットで将来的には2.5%まで上がるとみているFRBの委員は昔の経済サイクルが今後も続くと想定していますが、そうならないとみる方が正しいと考えています。

では最後に株式市場はどうなるか、ですが、このショックからはほどなく立ち直るとみています。よく考えればパウエル氏の記者会見でまた爆弾を落とされたものだということに気がつくのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月18日の記事より転載させていただきました。