コロナ死1.4万人の影であの感染症は2017年に死者が2万人も減っていた。

森田 洋之

新型コロナが世に登場しはや1年半。その間に日本で新型コロナウイルスによって命を奪われた人の数は約1万4千人にものぼる。こう聞けば「コロナは非常に恐ろしいウイルス」と感じるのが通常の神経の持ち主だろう。

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しかし、物事は多面的に捉えることが大事である。そもそも人間は必ず死ぬことが運命づけられている生物だ。事実、日本人は毎年様々な理由で約140万人が死亡している。もちろんその多くは高齢者である。高齢化社会の進展によって日本の死亡者数は年々増加傾向であったが、このコロナ禍の2020年突如減少に転じたことは記憶に新しいところであるが、今回の新型コロナウイルスの感染症もその死亡例の殆どは高齢者であり、死亡例における高齢者の割合はその他の死因と比して大きな差はない。

日本人全体の死亡数との比較ではこの様になるが、他の疾患との比較ではどうだろうか。

日本で最も死亡数の多い疾患は「悪性腫瘍(がん)」であるが、これと新型コロナを比較してもあまり意味はない。新型コロナと比較して意味がありそうな疾患で死亡統計がしっかりと出ているものは「感染症及び寄生虫症(結核・HIVなど)」、それに「肺炎」「インフルエンザ」などだろう(後者2つは呼吸器系疾患として感染症とは別にカウントされている)。これらのうち死亡数が最も多い疾患は「肺炎」である。

感染症は全体で(結核・肝炎ウイルス・HIVなどすべてを合わせて)毎年2万人強の死亡数なのだが、肺炎は毎年10万人程度が死亡しているのだ。(インフルエンザは毎年3千程度だったが、2020年はコロナの感染対策の影響か、ウイルス干渉の影響か、954人に激減した。)

肺炎についてもう少し詳述すると、実は肺炎死は2016年までは約12万人が死亡していたが、2017年に突如96,859人に減少した。殆どの日本人に気づかれないうちに肺炎死は2万人も減少していたのである。逆にいえば、2016年までは日本の医療はいまより2万人多く肺炎患者を看取っていたのである。重症患者はその何倍もいたであろう。

こうして考えてみると、日本の「医療逼迫」の意味がより鮮明になってくる。肺炎死を2万人多く看取っていた2016年に医療逼迫は全く問題にならなかったのだから。おそらく今回の医療逼迫の大きな要因は「2類感染症として一部の医療機関にのみ患者が集中したことによるもの」ということになるであろう。おそらく、日本の数十倍のコロナ死者が出た欧米で医療逼迫が日本ほど騒がれなかったのも日本ほどコロナ対応医療機関を限定しなかった(そんな余裕すらなかった)ことが要因だったのだろう。

こうしてみると、統計的に、大きな視点で物事を捉えることの重要性がより鮮明になってくる。単純に「新型コロナで1.4万人が死亡した」と言うのは全くの事実だが、その数にびっくりする前に、いやそのあとでもいい、その数字の裏にある「統計」に当たることがとても大事なのである。

幸い今はグーグル検索でほとんどの統計資料は検索が可能である。検索のコツは、「統計」「go.jp(政府系の情報)」と検索窓に入れることである。今回の場合「日本 死亡者数 統計 go.jp」と入れれば、情報は簡単に入手できる。

ニュースで諸々の数字を見聞きしたらまず「その裏の統計は?」と疑問を持ち、上記の方法で数字を確認することをおすすめする。そのように自ら動かないことには、私達は報道の印象操作から逃れられないのだから。