「ファスト映画」の熱心に見ていたのはどんな人達か?

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

YouTubeに大量にアップされていた、ファスト映画と呼ばれる映画の切り抜き動画で全国初の逮捕者が出た。ファスト映画は、明確な著作権法違反を犯す犯罪であり、断じて許される行為ではない。

NHKより

筆者がファスト映画の動画コメント欄に付けられたものを見て感じたのは、「このような動画を視聴する人たちは、お金を支払って、映画を見る層ではないのではないか?」ということだ。もちろん、「全員がそうだ」などと0-100の議論をするつもりはないし、明確な著作権法違反を肯定する意図はまったくない。映画業界には大きな被害は出ている。これは憎むべき犯罪である。あくまで視聴者を分析する意図で、本稿は書かれた。

ファスト映画の視聴者たちはどんな人達か?

ファスト映画を視聴する人たちは、どのような人物なのだろうか?

真っ先にその対象から外れるのは、「映画ファン」の人たちだ。彼らは映画という作品をリスペクトしており、視聴するなら映画館か、もしくは視聴に最適化された自宅だろう。映画を見る時は映画に集中、倍速再生も一切せず、スマホもいじらず、映画に集中して作品を通じて提供される製作者側の意図や哲学まで、全身で受け止めるが如き真剣さで挑む。間違っても、バラバラに裁断されたファスト映画などは絶対に見ないし、映画産業に打撃を与えるアップロード者に強い憤りを感じているはずだ。

ファスト映画をこぞって視聴するのは、「話題作をインスタントに理解したい」と望む層だ。友人間で話題の作品の話についていきたいが、本編を見るのは時間もお金がかかってしまう。そんな人達にとって数分間、無料の違法動画で素早く動画で、概要や結末まで理解できるファスト映画はありがたい存在に感じるはずだ。

また、映画というコンテンツに強い思い入れがない層も見ていると思われる。彼らは「映画はお金や時間をかけてまでは見たくない。けど、無料で10分間なら見る」という具合だ。コメント欄に「2時間を10分間に圧縮して面白さが損なわれないなら、残りの1時間50分は単なる引き伸ばし、冗長だ」と作品を冒涜するような発言をしていることからも、彼らの思考が透けて見える。

最後に「その作品を視聴済みのファン」である。過去に作品を視聴済みだが、ふと「あのシーンをもう一度見たい」と思って視聴するパターンだ。ファスト映画は見どころを映像として取り上げているため、そうしたインスタントにお目当てのシーンを見直したい層にも需要があるだろう。

著作権についての意識が希薄化しつつある

近年、著作権についての意識が希薄化しつつあると感じる。要因は様々あるだろうが、その1つにあまりにも情報コンテンツの無料化が進んだことだろう。今や、映画に限らず英語学習や料理、運動までありとあらゆるコンテンツが無料動画化が進んだ。これらはかつて、DVDやスクールなどで有料で提供されていたものだ。また、テレビ番組も話題のシーンなどは切り抜き動画になっているし、ゲームなどはプレー動画だけで満足する人もかなり存在する。YouTube上での動画の再生回数はすさまじいものとなっている。映画の切り抜き動画が登場したのは、こうした文脈の中では必然に近い流れだったのかもしれない。

しかし、繰り返しだが著作権法違反は犯罪行為である。映画産業は他産業に比べて、特に著作権に厳しい傾向で被害額請求もすさまじいものとなる。軽い気持ちで侵害するのは文字通り、命がけだ。

ファスト映画は製作者には腸が煮えくり返っている

以上のことから、ファスト映画のお世話になっていた層は、そもそも映画というコンテンツにお金を落とさない人たちが大半だと推測される。だからこそ一部の視聴者は「映画なんて元々10分間に圧縮されてしまう程度の価値しかない」といっているわけだ。おそらく、ファスト映画が世の中から完全に消えても、その視聴者たちを源泉とするマネーが、映画産業に大きく流入する公算は小さいと推測している。

もちろん、だからといって著作権法違反を擁護されるべきではない。ファスト映画の支持は視聴者側の論理でしかない。大きなリスクを取り、沢山のコストや労力をかけて映画を作り上げた供給者側にとっては、まさしく峻烈な怒りを覚えるだろう。自分たちが心血を注いだ作品を、無料で泥棒され公衆にさらされたのだから当然だ。

最後に…現代人はあまりに急ぎすぎている。「映画」というのは、そもそもが時間をかけて楽しむ前提のコンテンツである。倍速再生視聴まではアリでも、10分間はナシと感じてしまうのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。