孫子の兵法にいう「戦わずして勝つ」が最善な戦略なのは味方に被害を出さずに済むからだが、それを成就させる一般的な戦術は、敵の陣中の乱れを誘うことだといわれる。その初期の具体策は、スパイや敵中の離反者などを使って流言飛語を広めるプロパガンダ作戦ということになろう。
米国がパナマ運河を手中に収めるためにコロンビアに政変を起し、まんまとパナマを独立させた事例などが思い浮かぶ。が、突然のコロナ蔓延でここ1ヵ月で支持率が急落している蔡英文政権の台湾ほど危うい状況に晒されている国は、現下の国際社会を見渡してもそういくつもない。
シンクタンクが23日発表した世論調査の蔡政権支持率は43.2%で、44.5%の不支持率を再選した20年1月以来初めて下回った。昨年12月にパクトラミンを使用する米国産豚肉の輸入解禁で51%に下がったのを、共産中国が突然禁輸したパイン騒動を素早く収めて58%まで回復させたのはついこの間のことだ。
コロナ禍での支持率下落の悩みは共産中国を除く世界中の指導者に共通だが、どちらが政権をとっても内政に多少影響するだけの二大政党制の米英や、微々たる野党支持率の我が日本なら政治情勢に大変化は起きない。が、台湾は蔡政権が倒れた瞬間、国が滅び香港の二の舞になる。
そこで共産中国はここを先途と中国ワクチンを台湾に強要し、日本が提供したアストラゼネカ(AZ)ワクチンに、自国で使わないものを台湾に横流しすると難癖をつける。これに筆者は「承認済みなのだからAZを使え、進んで打つ」と書いた。偶々だがAZの接種に向けて動き出した。当然のこと共産中国のプロパガンダに利用されるような事態はあってはならない。
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そこへ先週、「今、この記事が話題」と台湾の友人が知られてきたのは、「台湾に激震!アストラゼネカ製ワクチン接種直後に36人死亡 開始わずか4日間で(甘粕代三)」なる19日のヤフーニュース記事。日刊ゲンダイの転載記事らしいが、読まずとも中身の想像はつく。
筆者はその友人に、日本では厚労省のサイトにはワクチン接種後に亡くなった方の年齢別・死因別の一覧表があるが、台湾ではどうかと尋ねると、台湾CDCや同FDAのサイトにあるが、「台湾人はそういうのは余り見ない」という。
別の知人からから毎日送られてくる感染状況を見ると、6月4-5日を339人-476人に上った新規感染者は24-25日には129人-76人に減り、死亡者も前者の21人-37人から後者の6人-5人へと減少している。油断はできないものの減る傾向にあるようだ。
そこでヤフーニュースが煽情的に伝えたワクチン接種に係る状況だが、台湾版FDAによればこうだ。
6月09日/累計753,843人/副反応例1,003人(非重篤902人、重篤101人)/死亡1人
6月16日/累計1,188,048人/副反応例1,154人(非重篤1,002人、重篤152人)/死亡19人
副反応(9日版)については以下のようだ。重篤事例も含め「現在のワクチン有害事象通知データの評価結果に基づくと、関連する措置を必要とする安全上の懸念は観察されていない」と書き添えている。
-ワクチン有害事象の通知のうち、ほとんどが「非重篤な有害事象」として報告された。報告されている主な症状は、発熱、筋肉痛、頭痛、悪寒、腫れや注射部位の痛み、倦怠感、手足の痛み、皮膚の発疹など。-
18日付の台湾CDC報告は、「17日現在で1,273,121ショットのアストラゼネカ投与がなされ、死亡報告は25件、そのうち20例は75歳以上の高齢者で、ほとんどに慢性疾患があった」としている。21~23日には同様に70~90歳の5名が亡くなり、全員に慢性疾患の病歴があったそうだ。
台湾の人口は約2400万人、平均寿命は80歳なので1歳当たりの人口はおよそ30万人。よって日々800人余りが亡くなる計算で、その多くが高齢者のはずだから、コロナやワクチンとの関りがなくとも寿命を迎えるということだ。
こういった公的発表を懇切丁寧にメディアが伝え、また国民が自らサイトを訪れて確認するなら、ヤフーニュース記事が話題になったり、蔡政権の支持率がここまで下がったりするような事態になるまいと思う。が、日本人の情報リテラシーも台湾をとやかくいえるレベルではなかろう。
念のため、厚労省サイトのワクチン接種後の死亡事例【別表2】を参考にまとめると以下のようになった。予想に違わず9割が65歳以上の高齢者だし、ファイザー製でもこのようだ。。
各事例の評価には、α:「ワクチンと症状名との因果関係が否定できないもの」、β:「ワクチンと症状名との因果関係が認められないもの」、γ:「情報不足等によりワクチンと症状名との因果関係が評価できないもの」があり、評価中を除いて「α」はゼロ、「β」が3件で残りは「γ」だ。
【別表2】コロナワクチン(コミナティ筋注、ファイザー株式会社)接種後死亡事例 死因別集計表(令和3年2月17日から令和3年6月13日までの報告分)
死因 | 二桁件数の内訳 | 総計 | 40歳未満 | 40歳-64歳 | 65歳以上 | 65以上% |
363 | 8 | 28 | 327 | 90% | ||
胃腸障害 | 15 | 0 | 0 | 15 | 100% | |
一般・全身障害及び投与部位の状態 | 19 | 0 | 2 | 17 | 89% | |
感染症・寄生虫 | 計 | 24 | 0 | 0 | 24 | 100% |
肺炎 | [12] | [0] | [0] | [12] | ||
眼障害(結膜出血) | 1 | 0 | 0 | 1 | 100% | |
血液及びリンパ液系障害 | 4 | 0 | 0 | 4 | 100% | |
血管障害 | 16 | 0 | 1 | 15 | 94% | |
呼吸器、胸郭及び縦郭障害 | 36 | 1 | 1 | 34 | 94% | |
傷害、中毒及び処置合併症 | 3 | 0 | 0 | 3 | 100% | |
心臓障害 | 計 | 123 | 3 | 10 | 110 | 89% |
心肺停止 | [29] | [2] | [1] | [26] | ||
急性心不全 | [19] | [1] | [1] | [17] | ||
心不全 | [16] | [0] | [1] | [16] | ||
急性心筋梗塞 | [12] | [0] | [3] | [9] | ||
心筋梗塞 | [11] | [0] | [1] | [10] | ||
神経系障害 | 計 | 54 | 2 | 10 | 42 | 78% |
くも膜下出血 | [14] | [1] | [7] | [6] | ||
脳出血 | [12] | [1] | [0] | [11] | ||
脳梗塞 | [11] | [0] | [0] | [11] | ||
腎及び尿路障害 | 5 | 0 | 0 | 5 | 100% | |
精神障害及び自殺 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0% | |
代謝及び栄養障害 | 12 | 0 | 0 | 12 | 100% | |
不明 | 41 | 0 | 3 | 38 | 93% | |
アナフラキシー | 4 | 0 | 0 | 4 | 100% | |
臨床検査(血圧変化等) | 4 | 0 | 1 | 3 | 75% |
注1:2/17~6/13までに副反応疑い報告された内容に基づく。
注2:同一症例に複数の死因等の記載がある場合はいずれも計上しているため、件数の総数と症例数は一致しない。
注3:「死因等」の記載は副反応疑い報告書の記載(接種の状況、症状の概要、報告者意見)を総合的に考慮の上、記載。資料1-1-2や資料1-2-2の「症状名(PT)」とは異 なることがある。
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G7は「中国に対する人権尊重」を明記した。人権問題に絡んで欧州議会は対中国包括的投資協定を凍結、米国も新疆ウイグル製ソーラー発電材料を輸入禁止した。が、動じない共産中国の横暴は遂に香港紙アップルデイリーを廃刊に追い込んだ。
中国非難の決議すらできない日本の体たらくは目を覆うばかりだ。選挙で政権交代を起すには余りに頼りなさ過ぎる野党の責任は無論だが、それに胡坐をかく自民党も情けない。米国やEUは別格としても、豪州など様々なイジメにめげず共産中国の横車を押し返す。
小国ながら豪州は、目先の利益に囚われず長期の戦略眼と国家の誇りとをもって対処しているのだと思う。共産党一党独裁が倒れても、中国14億の民が消えてなくなる訳でないのだ。また、中国は必要なものは必ず買う。米国も豪州も20年の貿易額は減っていない。
だのに、台湾統治の端緒となった日清、そして日露、大東亜と大国に挑んだ大和魂は一体どこへ行ったか。戦争を奨励する訳ではないが、それをも辞さぬ勇気を失えば、この世の中から正義も失われる。台湾支援の先頭に立たねばならぬ責任が、日本にはある。