コロナ禍において飲食業界が多大な影響を受けていると毎日報道がされていることも日常風景になってしまいました。
今回のコロナ禍を通して見えてきたことは、飲食業という産業の脆弱性と共に、日本政府や政治体制が思っていたよりも脆く、劣化をしていたという現状と、平等を重んじて一律の政策をすることが逆に様々な場所において格差と分断を加速させてしまったということだと思います。
飲食業は、労働集約型産業という手仕事の構造から製造数が低く、また食品という在庫を抱えることができないものを扱うことからどうしても自転車操業になりがちです。さらに日本の飲食店の価格は世界と比べるととても低価格で、インバウンドに日本が選ばれている理由は「安いから」というのも頷けます。その結果、内部留保もとても少なく、自由市場を止めると一気に経営が悪化をし、すぐに倒産の危機に陥ります。これは飲食業に限らず、どの産業においても内部留保の少ない所から順に影響が出始めます。また、飲食業を止めることは、生産者、流通業者、卸売業者などにもそのまま影響が出ていくことになります。
このことから自粛要請を行う場合は、補償をセットにしなくてはいけないのですが、日本には国際社会では常識といわれる緊急事態条項がないために、緊急時における国民の生命や財産を守るという内容は超法的処置に訴えることになります。私が、2020年春の自粛要請が出されたコロナ初期にすぐに政治への交渉に動いたのはこれらの構造がわかっていたためです。
3月29日に飲食業への補償制度を取り付けるために署名活動を行ない、3月31日から自民党本部、参議院会館、農水省、文化庁、参議院幹事長と4月6日まで駆け足で関係者に会いました。そこで感じたことは、財務省が財政出動を拒んでいること、現場の逼迫感とは程遠い政治家の生ぬるい温度感でした。そして、この国は、国民を守るという政府としての当たり前の精神がすでに崩壊を起こしていることを肌感覚で感じました。幾度の政治への交渉の度に「なぜ当たり前の正しいことを当たり前にできないのか?」という疑問がずっと付き纏っていました。この国は、国民を100%守らないということを前提に政策が進んでいる気さえしました。
また、政府は「経路不明の感染の原因の多くは、飲食が原因」と名指しで飲食業を悪者扱いしたのですが、参考資料を見たところでもその根拠は薄く、推測で判断されているものでした。このことについては、本当にどのような経路で感染が広がっていたのか、感染経路不明を科学的な根拠から丁寧に分析して、本当の真実がどこにあるのかを突き止めていただきたいと思います。例えば、食中毒の発生においては、きちんとした科学的な調査が行われ、その結果として営業停止の処分などが行われます。憶測で営業停止はできないのですが、現状は、「包丁を使った事件があるから日本中の家庭の包丁を回収する」という様な「刀狩り」と同じことが行われ、感染予防対策を十分にしているお店から全く感染予防をしていないお店まで飲食業が一律に規制をかけられることになりました。
この一律が業界内の格差を生みだし、さらに非科学的、論理的思考がなく、行き当たりばったりの政治判断は、単に世論の反発という問題だけではなく、法治国家としてのガナバンスと法の遵守が崩壊に繋がりました。「悪法もまた法なり」とはソクラテスの言葉ですが、整合がとれていなく、場当たり的な政策になると「悪法は悪法」という考えになり、誰も守らなくなり始めます。結果、あまりにも理不尽な要請内容と協力金の遅れから、廃業、倒産を避けるために緊急事態宣言下においても、まん延防止重点措置下においても、多くのお店が自粛要請に従わずにお酒を出すこと、時短をせずに通常営業をすることを始めてしまいました。また、街中にも人が溢れる様になりました。
「正直ものがバカをみる」という構造は、構造自体が破綻しているから起こっているということを政府や自治体の首長は自覚しなくてはいけません。その根本的な破綻の根源は、自由市場の停止と経済補償のバランスの悪さにあります。未だに「プライマリーバランス黒字化」「財政支出の均衡」といった誤った財政政策から、財政支出を小出しにしているために効力のない支援策になり、誰も言うことが聞けないのです。その結果、潔くやるよりも支出が増え、感染も押さえ込むことができていないのだと思います。海外はその点をきちんと押さえ、十分な補償をしています。アメリカでは飲食業への経済支援策は3兆円規模になります。ドイツなどを始めヨーロッパ各国でも補償の拡充が進んでいます。さらにこれは飲食業だけではなく、全ての産業に対して行われているという点があります。一度消えてしまったら取り返すことができない食文化を守るためにも、今一度政策の見直しをしていただきたいと思います。
ただ、他の国との政治力の差をつくってしまった原因は国民一人一人の政治への無関心にあったと思います。飲食業の窮状を通して色々な膿が顕になってくる中で、日本という土地に住む一人一人がどのような未来をつくって行きたいかということ今一度考えなくてはいけないと思っています。
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米田 肇
HAJIMEオーナーシェフ。大学卒業後、
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