小池知事「希望の塾」が消えた今も続く、尾崎財団の「咢堂塾」
6月25日の告示を前に小池百合子・東京都知事が体調を崩され、先の読めないスタートとなった東京都議会議員選挙。4年前の同選挙では小池知事みずから率いる「希望の塾」の卒業生が都民ファーストの会公認で大量出馬し当選、議会第一党となる一大勢力を築きました。尾崎財団が主宰するリーダー育成塾「咢堂塾」(がくどうじゅく。咢堂は尾崎行雄の雅号)でも何名かの卒塾生がこのたびの選挙に挑んでいますが、一方は規模とうらはらに跡形もなくなり、もう一方は地道ながらも設立からもうじき四半世紀。民主主義という種まきの難しさを改めて感じます。
咢堂塾は23年前の1998年(平成10年)に尾崎行雄の三女・相馬雪香が設立。政治家や有権者、社会人に学生など対象に偏ることなく政治を学び、民主主義の発展に寄与する人材を育成することを目的に続いてきました。
さまざまな政治課題や社会問題のほか、演説の技法やネット選挙の最新事例などを広範囲に学ぶ咢堂塾では毎年、選挙公認や役得に惑わされない「本気で政治を学びたい人」が集います。告示翌日の6月26日にも政治の中心地・永田町1丁目1番地1号で第2回の講義が開催されました。
第2回講義は1890年(明治23年)の帝国議会開設から現在にいたるまでの、約130年の憲政史がメインテーマでした。国政政党や地域政党などの政党塾では恐らく学ぶことのないわが国の政治の源流を、大学の講義も顔負けの2時間ノンストップで集中して学ぶ。党派性もなく、様々な政党所属の議会人が切磋琢磨しています。
「ぶれない」卒塾生の健闘に期待する。中でも今回は、この二人
不偏不党の団体ゆえ、尾崎財団には党派を問わず様々な人材が集い、学んでいます。今回の都議選では八王子市の両角穣候補が草創期の第2期出身。
そしてアゴラでもおなじみの墨田区・川松真一朗候補が、短期集中で開催された「政治特別講座」の出身です。所属政党は両角候補が都民ファースト、川松候補が自民党と異なりますが、それでも共に尾崎行雄の理念や行動に学び、それぞれの信ずる政治を歩んでいる。そのことに、財団スタッフの一人として誇らしく思います。
両角候補といえば、小池都知事誕生の立役者となった音喜多駿都議(当時)、上田玲子都議とならぶ「ファーストペンギン」の一人ですが、現在は紆余曲折もあり、他のお二方は袂を分かち現在に至ります。最後まで残った両角さんはファーストペンギンから「ラストサムライ」になってしまったわけですが、さまざまな力学の一歩外から物事をとらえる姿勢はある意味で尾崎ゆずりであるともいえるでしょう。
そして川松候補といえば、テレビ朝日アナウンサーの職を辞して10年前の墨田区長選に挑むも僅差での惜敗。捲土重来を誓い、現在は政治評論家をつとめる田村重信氏が塾長を務める短期集中講座で学びました。尾崎行雄といえば東京市長を10年弱にわたり務め、小池百合子知事が掲げた「東京大改革」以上の圧倒的な行革を実現しています。都議会においては野党にある自民党においても、小池都政に臆することなく建設的な論戦を挑み続け、当時の学びは現在もまちがいなく血肉になっていると私は確信しています。
私自身も尾崎財団では12期以来学んでいますが、両角候補は10期先輩。川松候補はほぼ同時期に学び、また個人的には10年前の3.11、東日本大震災の発災時に同じ場所で揺られ、生死を共にした仲でもあります。当時の墨田区長選以降、その足跡を見守り続けていますが、その中で「あ、ここはいいな」と思うところが幾つかあります。
もともと川松さんといえばアナウンサー出身なので「喋る人」のイメージが強いですが、近年はブログで持論を展開することにも長けてきました。特に4年前の前回都議選に際しては、誰もが過去を無かったことにする中、全自民党候補の中でもただ一人、過去から逃げずにしっかりと向き合った。当時アゴラに転載された記事は、政治家として一皮むけた経験を十分に思わせるものでした。
選挙の世界では悲しいかな、翻意や前言撤回は日常茶飯事です。尾崎行雄も「国よりも 党を重んじ党よりも 身を重んじる人の群れかな」と嘆いていますが、前回の選挙では当選目当てに所属政党を捨て去り、何事もなかったかのごとく振る舞う候補を数多く目にしました。都合の悪いことに頬かむりをする因循姑息な候補にも幾度となく遭遇しました。
そうした風潮が当たり前の中、嫌なことからも逃げずにしっかりと向き合うことができる。こうした資質は政党を問わず備わっていてほしいものです。川松さんは都議会自民党最年少(当時)ながらも、それができる「ライトスタッフ」、すなわち正しい資質の持ち主であると私は認めています。
過去2回の都議選で、私が気に留めメモに残している言葉がふたつあります。
ひとつは8年前。こんな言葉を残しています。
“墨田に生まれ 墨田に育ち そして墨田で暮らし やがて墨田の土に還る“
自治体を背負って政治に邁進する候補は、こうあってほしいものだと思いました。
そして4年前の2期目は、次の言葉をみずからの信条に掲げています。
政治とは、決めること。そして決めるとは、自ら泥を被ること。
4年前のアゴラ記事ながら、その覚悟はいまも新鮮です。
3期目を賭けた挑戦は果たしてどのような言葉を有権者に投げかけるのか。そしてどのような結果に結びつくのか。ぶれることなく自身の信ずる政治に邁進する候補たちの健闘を期待するとともに、結果に結びつくことを願っています。