朝鮮半島情勢、痩せた金正恩氏、尹錫悦氏の大統領選出馬宣言

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朝鮮半島からのニュースはやや落ち着いているように見えます。嵐の前の静けさなのでしょうか?

金正恩総書記が痩せたと報じらています。一部報道によれば10キロ以上痩せたのではないか、とされ、事実、むくんでいた感じがすっきりした感じに見えます。これを朝鮮中央テレビが「おやつれになった」と報じ、話題になりました。一方、朝鮮日報は「金正恩氏、側近に懇請されダイエットか」と報じ、真逆の解釈に戸惑うところですが、金総書記の立場は決して穏やかな状態ではないとみています。

一つは国内経済の疲弊と北朝鮮ウォンの急騰です。北朝鮮ウォンが急落なら話は分かりますが、急騰する理由はかの国の情勢を考えると一般的ではありません。上昇率はパンデミック以降、対米ドルで3割、対中国元で4割とされます。その背景を見るとどうやら闇貿易に対する規制とその貿易を介して得た外貨への罰則があるのではないか、とされ、貿易で外貨を取らない傾向が強く、その結果、北朝鮮ウォンが上昇したようです。

その為、中国元が安くなり、国内での中国元建ての価格は大きく跳ね上がり、インフレ傾向が強まっているというものです。北朝鮮内では国内通貨ウォンの信任性が低く、中国元や米ドルによる取引となっているようで、通常自国通貨の上昇は国内物価の下落になるのですが、その逆になっているということでしょう。

自国通貨の信任が低く米ドルなど国際通貨が一般流通する状態はごく普通であり、国際収支が悪い国はえげつない外貨獲得手段を取っているところが多いものです。かつてはソ連でもルーブルの信任がなく、主要都市のドルショップに行けばモノが豊富にそろっているものの、ローカルのスーパーは配給券を持って行ってもほとんど商品はないという世界でした。北朝鮮の現状はそれに近いのだろうとみています。

そんな中、外交に関してはバイデン政権からの「前提条件なしの交渉」の呼びかけに「無意味な接触はない」と回答しています。北朝鮮としては今、アメリカと取引しても北朝鮮が勝利するような画期的な結果が得られるとは考えにくく、中途半端な折衷を強要されるなら、交渉する意味はないと考えている節があります。

しかし、北朝鮮にとって来年の韓国大統領選挙の行方次第では大幅な政策転換を図らねばならないことになるかもしれません。韓国大統領選の投開票日は3月9日で就任が5月10日となります。文大統領は立候補できないので誰かに交代するわけですが、現時点で与党を中心に候補者乱立状態となっていることから、9月には候補者の一本化をする見込みです。与党候補では人気が高い李在明、李洛淵各氏のほか、前法相の秋美愛、前首相の丁世均各氏となかなかのラインアップですが、人気バロメーターからすると李在明氏の可能性が現時点では高いと思われます。

一方、人気が低迷する現政権に対して鋭い切り口で攻め入るのが尹錫悦、前検察総長で国民人気も高く、日本にとっても現与党に比べればくみしやすい相手とみられています。尹氏は大統領選出馬表明において日本との関係について「未来世代のために実用的に協力すべき」と述べる一方で親日でも嫌日でもない立場をとるとみられています。そこで持ち上がったのが「グランドバーゲン」方式です。

これは様々な案件を一つのパッケージディールとするものでその中には慰安婦問題や徴用工問題も内包されます。ただ、日本側がどのようなディールになるにせよ「譲歩した」と思われる内容では全く動かない公算が高くこれはまだ論評できる段階にはないと思います。

むしろ、尹氏の性格は一人で権力を使いながら割と驚きの展開をすることで知られており、読みにくいタイプです。ところが、韓国人は気質として新しいものに飛びつき、それが国民的熱狂を呼ぶことが多いため、私は現与党からの大統領候補は敗北し、保守系が支持する尹氏が有利ではないかとみています。

当然ながらその場合、中国と北朝鮮との関係は冷たくなる公算があり、特に経済的に疲弊度が高まる北朝鮮がどのような態度を示すのか、注目されます。

そこまで踏まえると朝鮮半島の今は静かですが、来年は賑やかになるのではないかとみています。また、北朝鮮という国家がまだ持続可能なのか、ほとんどハッキングマネーで成り立っているのではないか、と思われるほど国家の体をなしていない状態です。金総書記が2500万人の国民を支えられるのか、銃よりコメを、であれば国家の崩壊も視野に入れる必要はあるでしょう。その場合、中国がどう出るのか、韓国は同一民族としてどう救済していくのか、というあたりまでケースシナリオを拡大しておいた方がよいのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月2日の記事より転載させていただきました。