中国共産党は1日、党創建100周年を祝うイベントを挙行したが、習近平国家主席の記念演説を読んで、改めて中国共産党の怖さを痛感した。歴史的記念日にあのような脅迫じみた発言をする国家元首を知らない。韓国中央日報の記者も多分驚いたのだろう。習近平主席の演説内容を詳しく報じていた。
習近平氏の発言の怖い部分を紹介する。「だれであれ中国を刺激する妄想をするならば14億中国人民が血と肉で築き上げた鋼鉄の長城の前に頭が割れ血を流すだろう」(中央日報電子版から)。
この発言はイタリアのマフィア・ボスの口から出たものならば納得できるが、14億人の国民を抱える国家元首の口から飛び出した台詞だ。海外訪問の際は赤じゅうたんの上を歩き、ホスト国の歓迎を受ける立場の国家元首が絶対に口にしない台詞だ。その発言を聞いた人は不愉快になるだけではない。国家元首としての習近平氏の品性を疑いたくなる。
その一方、習主席演説のこの部分ほど中国共産党の真顔を端的に描写しているものはない。習主席は「中国人民は他国の人民をだまし、圧迫し、奴隷として働かせなかった。過去にもしなかったし、現在もしておらず、将来にもない。同時に外部勢力がだまし、圧迫し、われわれを奴隷として働かせることを許さない」というのだ。習近平氏の発言は非常に戦闘的だ。中国を植民地化した過去の大国への恨み節を披露する一方、将来、世界の大国となっていくという決意表明となっている。
現地からの情報によれば、中国文化観光部の奨励のもと毛沢東や鄧小平、江沢民ら過去の党指導者を称えた革命ソングが中国全土でうたわれ、党創建100年を盛り上げようと腐心している。
忘れてならない点は、習近平主席の演説は中国共産党の記念イベントとしてなされたもので、国民や外国に向かって発せられたものではないことだ。だから、党内部の結束強化のために檄の一つや二つを飛ばす必要があったわけだ。党のイベントでは外交辞令は不必要だからだ。
同時に、「中国共産党」と「14億人の中国国民」を同一視し、党の勝利は国民の勝利であり、党の発展は国民の福祉向上につながるといういつもの論理が適応されていることだ。中国共産党が14億人の国民を奴隷のように酷使し、党幹部だけが特権を享受しているといった批判は絶対に許されないのだ(「習近平氏が恐れる『党と人民は別』論」2020年9月8日参考)。
旧ユーゴスラビア連邦時代のチトー大統領の側近だったミロヴァン・ジラスは1950年代に出版した著書『新しい階級』の中で、「共産党は赤い貴族だ」と喝破している。元副首相だったジラスは、「共産主義者は決して労働者の味方ではなく、貴族のような生活を享受し、富を貯蓄する者たちだ」と指摘した。同書は欧米諸国で話題を呼び、旧ソ連・東欧諸国の民主改革にも大きな影響を与えた。中国では習近平氏をトップに「赤の貴族たち」の特権階級が14億人の国民を統治しているのが現実の姿ではないか(「世界に浸透する“赤いカネ”」2018年3月8日参考)。
中国共産党政権は一党独裁政治であり、国民は党の指示に従う限りは生きていけるが、反対すれば粛正されるか、社会から追放される運命を余儀なくされている。中国共産党の過去100年の歴史はその意味で国民への弾圧・粛清の時代だった。歴史は中国共産党側の主張を裏付けてはいない。
「われわれは5000年の歴史を誇る。あなたがたイスラエルは3500年の歴史を持っている。それに比べると米国は200年余りの歴史しかない」
中国のビジネスマンがイスラエルを訪問し、商談する時、必ずと言っていいほど上記のセリフを吐くという。自国を誇り、商売相手のイスラエルを称賛する一方、米国を軽蔑する時の常套句だ。確かに、中国民族の歴史は長い。その文化は世界に誇ることが出来るものが少なくない。長い歴史の中で突然出現した中国共産党の歴史はまだ100年に過ぎない。その短い期間に中国共産党は多くの国民を粛正してきた。その犠牲者の数は数千万人にも及ぶ。正確な数字は歴史家に委ねるとしても、100年の中国共産党の歴史は国民の血で塗られているのだ。
ところで、海外中国メディア「大紀元」によると、中国語の「百年」は、100年という意味のほかに、「死去する」という意味も含まれているという。習近平主席は世界の指導国家となって世界の覇権を掌握する野望を抱いているが、中国共産党が次の100年を迎える前に、歴史の表舞台から消滅するというシナリオすら囁かれ出してきた。
中国共産党幹部養成学校の蔡霞元教授は米スタンフォード大学フーバー研究所に寄稿したが、その中で「中国共産党は見かけ上、強大そうに見えるが、習近平氏のリーダーシップの下で、矛盾と自己懐疑がより顕著になったため、飢えた龍の野心を持っているが、実際は張子の虎に過ぎない。ワシントンは共産党の突然の崩壊に備えておくべきだ」と発言したという(「大紀元」6月30日)。なお、蔡霞元教授は「共産党体制内の人物」だけに、その発言内容は大きな影響を与えている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。