中国共産党創建100周年
中国共産党は7月1日、創建100周年の記念日を迎え、北京の天安門広場で祝賀大会を開いた。習近平党総書記(国家主席)は、「経済総量で一躍世界2位を達成した。中国の特色ある社会主義によってのみ中国を発展させることができるのであり、貧困から脱出し経済的にゆとりのある小康社会を実現した。台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは中国共産党の歴史的責務であり、いかなる台湾独立のたくらみも粉砕する。」などと述べた。
習近平氏の自信の表れか
上記演説は習近平氏の中国及び中国共産党に対する自信の表れとも言えよう。確かに、毛沢東による自力更生、人民公社、大躍進政策の失敗や、文化大革命などの思想闘争の結果、経済が停滞していた毛沢東時代から一転して、鄧小平の「改革開放政策」以後の中国の経済的発展は目覚ましい。自力更生ではなく、改革開放による全面的な外国資本や技術の導入、株式市場の活用など、いわゆる「社会主義市場経済」の成果と言えよう。さらに、近年の中国は外国資本や技術の導入のみではなく、「中国製造業2025」に代表される独自の先端技術開発や軍事技術開発、宇宙開発等にも積極的に取り組み、今や、世界第1位の経済・軍事・技術大国である米国を震撼させるに至っている。
軍事力の拡大と覇権主義
しかしながら、習近平氏は、かねてより「中華民族の偉大な復興」のスローガンを掲げ、発展した経済力をもっぱら核戦力を含む軍事力の増強拡大に向け、米国に伍して世界の覇権獲得を狙っていると言えよう。国際法を無視した南シナ海における人工島・軍事基地建設、東シナ海尖閣諸島における力による現状変更の試みや、西太平洋への海洋進出、途上国への援助を手段として支配権を狙う「一帯一路」政策などがその一例である。
のみならず、「中華民族の偉大な復興」には当然「台湾解放」が含まれるのであり、それは同時に世界の覇権を求めるものである。しかし、台湾は、国際法上の主権国家の4要件である(1)国民、(2)領土、(3)主権政府、(4)外交権を備えている国際法上の独立した「主権国家」である。したがって、「台湾武力侵攻」は単なる内戦ではなく、国連憲章第2条第3・4項違反の国際法上の「侵略戦争」である。中国は「台湾解放」後は、尖閣諸島を含む東シナ海の制空権、制海権を確保し、台湾に核弾道ミサイル基地や海軍基地をはじめとする、総合的且つ強力な本格的軍事基地を建設し、米国のグアムや日本の沖縄の米軍基地、さらには日本本土に対する攻撃基地にするであろう。その意味では「台湾有事」は明らかに「日本有事」なのである。
「台湾解放」は中国共産党のプロパガンダ
しかし、このようにひたすら軍事力の増強拡大を図り、台湾解放、世界の覇権を狙う中国ではあるが、台湾の武力解放は現在及び将来にわたって不可能に近い。その理由は以下の通りである。
- 軍事力を重視し「武力解放路線」の毛沢東政権は、1958年に台湾領の金門島に対して数十万発の砲撃をしたが、台湾側の反撃と米軍の台湾支援で武力侵攻は失敗している。そのため、鄧小平政権以後の中国共産党政権はいずれも「平和統一路線」を重視せざるを得なくなった。しかし、習近平政権は「台湾武力解放」を決して諦めてはいない。
- 台湾は人口2354万人、兵員189万人、航空戦力837、戦闘機286、戦車1885、主要艦艇87、軍事予算107億2500万ドルの戦力を保有し、カナダに次ぐ世界22位の軍事力を保有している(世界軍事力ランキング2019年版ビジネス・インサイダー・ジャパン参照)。また、半導体など世界トップクラスのハイテク産業を持っている。さらに、香港や新疆ウイグル・チベットの人権問題などにより、台湾国民の中国共産党に対する警戒心や拒否反応は極めて強い。
- 台湾は近年中国の軍拡に対応して、「台湾関係法」に基づき米国から中国大陸や中国艦船を狙う弾道ミサイルや巡航ミサイル、地対艦ミサイルの導入を進めるなど、対中防衛力と抑止力の向上を図っている。
- 米国の「台湾関係法」は、台湾への武器供給や台湾有事の際の対抗措置を定め、台湾の独立と安全を保障している。したがって、中国による台湾への武力侵攻は対米戦争を覚悟しなければならない。
- 中国人民解放軍による台湾上陸作戦は困難を極めるであろう。なぜなら、これまで中国軍は陸上作戦の経験しかなく、海上上陸作戦の経験が全くないからである。特に台湾側からの上記地対艦ミサイル攻撃は上陸作戦の脅威となろう。また、上陸後の兵站・補給等も困難であろう。「台湾関係法」に基づく米海軍・空軍の来援は一層上陸作戦を困難にするであろう。
- 中国は台湾に対して核兵器を使用することはできない。なぜなら、核兵器大国である米国の核兵器による報復攻撃を受け、中国共産党指導部をはじめ、北京、上海、深センなどは壊滅状態となり、「中華民族の偉大な復興」は水泡に帰すからである。
- 以上により、「台湾解放」は中国共産党のプロパガンダ(政治的宣伝)に過ぎないから、恐れる必要はない。過度に恐れることは、孫子の兵法にある「戦わずして勝つ」中国共産党の思う壺に陥るからである。