アルゼンチン出身のフランシスコ教皇は4日午後、ローマのアゴスチノ・ゲメリ・クリニックで Sergio Alfieri 医師の執刀による結腸の憩室狭窄の手術を受けた。数時間に及ぶ手術後のローマ教皇の症状は「順調だ」(クリニック関係者)という。84歳の教皇は21歳の時、肺関連手術を受けたことがあるが、手術はそれ以来だ。医師団によれば、「手術は予定されていたものだ。少なくとも5日間は入院が必要だ」という。ちなみに、教皇は座骨神経痛にも悩まされ、階段の上り下りには痛みを感じてきた。教皇の順調な回復を祈りたい。
フランシスコ教皇は同クリニックの最上階に入院しているが、同個室は故ヨハネ・パウロ2世(在位1978年10月~2005年4月)が入院していた時の個室だ。同2世はパーキンソン病を患い、晩年は教皇としての職務を行使するのも大変だったことを思い出す。
フランシスコ教皇の手術というニュースに接し、またヨハネ・パウロ2世の晩年の闘病生活を思い出す時、ローマ教皇の終身制はやはり廃止すべき時を迎えていると感じる。終身制はある意味で非常に非人道的な制度だ。会社勤務をしていた社員は停年を迎えると退職するが、終身制の場合「死ぬまでその地位にいて、職務を実施する」ことが願われているからだ。
その終身制の再考に一石を投じたのは前教皇ベネディクト16世(在位2005年4月~13年2月)だ。同16世は2013年2月に、719年ぶりに生前退位を表明して、教会内外に大きな波紋を呼んだことはまだ記憶に新しい。同16世は当時、生前退位について、「教皇の聖業を施行できる体力が、もはやなくなった」と理由を挙げ、体力の衰退が生前退位の原因であることを主張している。同16世の場合、健康問題が生前退位の最大の理由ではなかったが、健康問題も大きかったことは事実だろう。
バチカンのマテオ・ブルーニ報道官によると、フランシスコ教皇も就任当時、「自分も死ぬまで教皇の座に留まる考えはない」と述べ、健康が悪化し、ペテロの代身としての任務を果たせないと分かった時は生前退位する考えであることを吐露している。
蛇足だが、教皇とは違って、独裁者は常にそのポストにしがみつこうとするものだ。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席は憲法を改正してでも任期の延長に拘っている。北朝鮮の金正恩総書記は祖父、父からの世襲国家を継承しているが、初代も2代目も病で倒れるまではポストを離さなかったものだ。金正恩氏の場合も変わらないだろう。
ペテロの後継者ローマ教皇は独裁者の立場とは異なる。教皇の場合、80歳未満の枢機卿がコンクラーベ(教皇選出会)で投票して決める。だから、枢機卿の思惑や地域別も影響する。現在は80歳未満の枢機卿は122人だが、欧州出身枢機卿が最大勢力だ、といった“地の事情”もある。教会では「アフリカ出身のローマ教皇が誕生してもおかしくない」といった初代黒人教皇の誕生を期待する声も聞かれる。いずれにしても、コンクラーベでは最終的には「神のみ心」が働いて、後継者が選出されるという。その意味で、サプライズは常にあり得るわけだ。
当方は教皇の終身制を廃止すべきだと考える。高位聖職者の平均年齢が75歳から80歳ともいわれる超高齢社会のカトリック教会総本山バチカンが世界に13億人以上の信者を抱え、適時に牧会するということはぼぼ不可能だ。時代の流れに迅速に対応できる体力と精神力も不足する。すなわち、バチカン主導の中央集権体制は限界にきているのだ。今後は世界各国の司教会議を中心とした組織体制が必要となる。ある意味で世界正教会のような体制だ。各国教会にはそれぞれ独自の伝統や文化があるから、バチカンの上からの指令に即呼応する事が益々難しくなってきているのだ。
新聞社の例を挙げる。たとえ名編集局長だとしても10年以上、同じポストに座っていると紙面に次第に新鮮味がなくなっていくものだ。ローマ教皇でも同じだ。27年間と長期政権を誇ったヨハネ・パウロ2世の晩年を思い出せばいいだろう。長期政権に疲れたバチカンや高位聖職者の口からは、「次期教皇はショートリリーフでいこう」という暗黙の一致があったといわれている。その結果選出された教皇が当時バチカンナンバー2で教理省長官だったベネディクト16世だったわけだ。
フランシスコ教皇は手術を受ける直前、「今年9月、ハンガリーとスロバキア両国を訪問する予だ」と発表している。座骨神経痛に悩む教皇にとって、外遊は体力的に大変だ。ローマ・カトリック教会は聖職者の未成年者への性的虐待問題などを抱えている。聖職者の独身制の廃止も実施しなければならない。それらの課題に果敢に取り組むためにはバチカン指導体制の若返りがどうしても不可欠だ。教皇の終身制廃止は避けては通れない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。