役所と企業の阿吽の関係

「お上頼みより企業立国 東芝・みずほ、解は現場に」、日経の記事のタイトルです。「お上(おかみ)」とは昔は天皇のことを言ったのですが、戦後は主に役人、役所を指す言葉として使われます。「おかみさん」となれば女将だし、「おうえ」と読めば主人の奥方となります。日本語は難しいですが、今日は「おかみ」の役所と企業の特殊な関係について考えてみたいと思います。

y-studio/iStock

日経の記事のポイントは東芝もみずほ銀行も役所と一体関係にあり、「政府のご指導」を神のご加護ぐらいの意味合いともとれるような関係にあり、それも理由で企業体として十分な成長が出来ていないのではないか、という記事構成になっています。

そもそも戦後日本は政府と企業の一体関係が当たり前のように存在しています。アメリカなどとの貿易戦争では経産省が表となり、裏となり、企業側と一心同体となり闘ってくれました。他国でもないとは言いませんがこれほどもたれあいの関係が強いのは中国、韓国を含めた東アジアの特徴なのでしょうか?

護送船団方式というのもありました。日本では金融機関が潰れてもらっては困る、というのは国民の声を代弁した大蔵省(現財務省)であり、銀行が潰れないように金融機関が一体となり、競争原理を廃し、皆で足並みを揃えよう、という政策でした。ところがバブル崩壊後に護送についていけない銀行が次々と現れ、挙句の果てに大手行も公的資金投入や合併の手引きを受け、今の金融機関の体制があります。

厚労省の場合は感染予防の予防接種で弱腰になります。それはMMRワクチン訴訟や三種混合ワクチン、B型肝炎をめぐる訴訟など連発し、製薬会社と厚労省が防戦一方になったのです。個々のケースをもう少し子細に見ていけば責任所在と対応の仕方はあったと思うのですが、これで懲りた製薬会社がワクチンはタブー、という企業方針を打ち出してしまうのです。なので、今回のコロナワクチンも2周回ぐらい遅れているのは役所と企業のぴったり息の合った関係が引き出した事情であります。

お上はなぜ、企業経営に必要以上に関与するかと言えばそれが支配という旨みだからでしょう。つまり「お前のことを面倒見るからちゃんとお上のことを敬うのだぞよ」であります。金融庁の厳しい検査はドラマになるほどですが、それが論理的厳しさなのか、あめと鞭に忖度するのか、微妙なだけにドラマにも取り上げらえるとも言えそうです。

カナダでは役所と企業の関係が対等であり、ディールによってのみその関係が維持できると実感したのが役所との大規模開発事業の許認可を巡る交渉でした。日本では「許可を下す」と言います。役所が持っている権限をお前にも許そう、ということでありますが私が約3年交渉した許認可取得業務は激しいディールそのものでした。

土地の開発許認可でも幾種類かあり、用途変更の許可の場合はその土地の規制を一旦白紙にして、白いキャンバス上に企業側と役所が折り合える全く新しい諸条件を積み上げていきます。気が遠くなるほど長い作業ですが、これを克服すれば誰にも負けない開発ができるのです。

私は今、バンクーバー近郊で全く同様の用途変更許可作業をやっています。交渉開始からもうすぐ2年になり、ほぼ決着がつきそうなのですが、日本から見れば何を悠長なことを、と思われるでしょう。しかし、そのプロセスには事業の必要性やそのエリアに開発案件がどう溶け込んでいくのか、建築的見地だけではなく、その目的がコミュニティと調和し地域の繁栄につながるのか、という観点で議論が進みます。そういった都市開発の観点があるからこそこの街の不動産価格は1986年からほぼ右肩上がりを維持しているのです。35年間です。そして街の成長はいまだに止まらないのです。

私はお上は個別企業の個別案件に必要がない限り、口を出すべきではないと思うのです。あくまでも大枠を設定し、その枠に収まっているのかで判断していくべきだと思うのです。ところが日本の場合、厄介なのが政治家で、利権も絡むのか、役所と企業をつなぎます。そして無理な力をかけながら、企業側の思惑を貫いていき、役所側もつじつま合わせをしていきます。赤木ファイルが話題になっていますが、あれは辻褄すら合わないので書き換えという強引な手段に出ていますが、役所と企業の関係を見れば「それは詭弁だろう」ということはゴロゴロ存在するはずです。

役所の仕事は企業の開発や成長を促し、旗振りをし、税収を得、雇用を確保し、競争を促すことでしょう。また、不正やルール逸脱に目を光らせ、論理的な管理手法を取る、これが大事です。とすれば実は役人こそ、もっともクリエィティブ、かつ論理的思考の下に新しい分野開拓に勤めなくてはいけないわけで今の役所仕事の真逆が求められるとも言えそうです。

役所仕事は保守的に、というのは日本のこと。私が見る北米の役所は次々と新しいスタンダードやレイヤーを作っていき、民間がそれに引っ張られるというのが立ち位置です。私から見れば今必要なのは役所の体質改善と刺激の導入でしょう。役人にも成果主義は取り入れるべきで今後、重要なエレメントになると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。