コロナ・ブルーという表現を知らなかったが、その意味するところは理解できる。中国武漢発の新型コロナウイルスの感染が広がり、パンデミックとなって以来、どの国も程度の差こそあれコロナ規制に乗り出し、国民の活動を制限してきた。コロナワクチンが開発され、接種が急速に進められていることで、コロナ禍の人々もポスト・コロナへの希望を感じ出しているが、その一方、コロナ禍で活動が制限されている人々や若者の中には、通称コロナ憂鬱(コロナ・ブルー)に悩む者が出てきている。韓国中央日報(7月7日)によると、過去3カ月で在外公館の2人の外交官が自殺している。
コロナ・ブルーも一種のロング・コビッド(Long Covid)症候群に入るのかもしれない。感染病専門家の中で、「コロナ回復者の中に後遺症と呼べる症状を抱える患者が増えてきた」という声が聞かれ出している。同時に、精神・心理療法の専門家からは、「コロナ感染者でもない者が長期のコロナ規制下で心理的圧迫感などからパニック症状を起こし、日常生活が出来なくなる人がいる」と警告している。これなどはコロナ・ブルーだ。
感染症専門家によると、コロナ回復者に見られる後遺症として、呼吸困難、倦怠感、胸痛、臭覚障害、味覚障害、痰嗽などだ。回復後、数カ月続き、長い人では半年以上、さまざまな症状に苦しめられ、職場に復帰できない人が出てくるだけではなく、日常生活にも支障があるという。調査によると、イタリアでは87%がそのような後遺症に悩まされているという。多くの人々は未来への見通し、方向性を失ってきている。問題は、回復者のそれらの症状を監視し、必要な治療を提供できる医療体制、専門家が少ないことだ。
中央日報によると、新型コロナ事態の長期化で「うつ」を経験したという韓国国内の成人が83・9%にのぼるという。在外公館の外交官の自殺問題については、「外交部は業務環境などの問題ではなかったと把握している。コロナ・ブルーが原因と推定されるが、こうした状況は初めてであり、外交部も危機感を抱いている」というのだ。
外交官の場合、特殊な面もある。「感染者が発生すれば公館の業務に大きな支障を生じるうえ、大韓民国を代表して行った公館で誰かが新型コロナに感染すれば大変なことになると考えて緊張し、心的圧迫感が強まるケースも多い」という。家族に会えず、単身で赴任している外交官の場合、ストレスは一般の国民より強いだろう、駐在国の医療事情にも大きく左右される問題だが、外交官のコロナ・ブルー傾向は看過できないわけだ。
コロナ・ブルーに悩む人には軽度な睡眠障害、倦怠感から、不安神経症、呼吸パニックなどまでさまざまな症状が観察されている。一方、コロナ回復者の中には個室やICU(集中治療室)に長期間隔離されていたことから、回復後、突然不安に襲われ、パニック症状を発する人もいる。集中治療後症候群(PICS)と呼ばれている症状だ。また、慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる倦怠感が長期継続する症状も報告されている。
英国発のウイルス変異株でもそうだったが、最近のインド由来のデルタ株の場合、感染力が強く、若い世代に感染者が急増してきた。長期化するコロナ禍で精神的、心理的ダメージを受ける若い世代では非社交的で閉鎖的な人より、社交的で人付き合いのいい人が、コロナ禍で大きな精神的ストレス下に置かれ、不安や失望感などの心理的症状を起こしている。社交的な人々が突然、対人関係、接触が制限されて隔離感、不安を覚え、新しい状況にどのように適応していいか分からなくなるわけだ(「コロナ禍で精神的落ち込む若い世代」2021年2月3日参考)。
コロナ禍が長期化することで、失業する人も増えてきた。家庭内問題や生活困窮などの状況下で自殺する人も出てきている。臓器・器官の違和感といった外的に観察可能な症状ではないだけに、精神的、心理的ストレス(コロナ・ブルー)で苦しむ人の事情は外からは判断しにくい。そのため、対応が遅れることにもなる。
欧州では夏季休暇シーズンに入り、多くの人々は海外に旅行するために急遽ワクチン接種を受けている。感染症専門家は、「旅行帰りの人々がウイルスを持ち帰るケースが増える危険がある」という。実際、スペイン、英国、オランダではここにきてデルタ株による新規感染者が急増してきた。オランダ政府はコロナ規制を再度施行して新規感染者の急増を回避するために乗り出してきたばかりだ。
感染症専門家は、「ワクチン接種で新型コロナは終わったと考えるのは危険だ」と指摘し、夏季休暇後、デルタ株が猛威を振るう第4波が到来すると予測している。同時に、コロナ・ブルーに悩む人々はこれからも増え続けるだろう。直径100ナノメートルのコロナウイルスは今、人間の肺器官を損なうだけではなく、心の世界にまでその牙を伸ばしてきているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。