某大臣の発言については、各所から批判が集中しています。彼は一応その発言を取り消し陳謝したということですが、誰に対し如何にして謝るかということがポイントです。こういうタイミングでああいう発言をしたのですから、当然その発言を受け非常に憤慨する人達に先ずは謝るのが筋でしょう。
その上で謝り方でありますが、「趣旨を十分に伝えられず反省しております」では全く駄目です。「自分が間違えていました。申し訳ございませんでした」と自分の浅慮と短慮をシンプルに謝るのがベストだと私は思います。
とは言っても、謝れば済む話ではありません。『論語』に、「過ちて改めざる、是(こ)れを過ちと謂(い)う」(衛霊公第十五の三十)とか、「過てば則(すなわ)ち改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ」(学而第一の八)とありますが、大臣である人間の発言ですから謝ったら全てが終わるというわけには行きません。
正に、「綸言(りんげん)汗の如し…皇帝が一旦発した言葉(綸言)は取り消したり訂正することができない」(『礼記』)であります。汗のように一度出たものは引っ込まないということです。
今回に限らず常々この大臣の発言を聞いていては、人物が未だ練れていないと思うことが多々ありました。昔から如何なる人物を良しとするかは、例えば中国明代の著名な思想家・呂新吾の書『呻吟語』に、「深沈厚重(しんちんこうじゅう)、是第一等資質」「磊落豪雄(らいらくごうゆう)、是第二等資質」「聡明才弁(そうめいさいべん)、是第三等資質」と順位付けられます。
つまりは、「磊落豪雄…明るく物事に動じない」「聡明才弁…非常に頭が良く弁が立つ」だけでは全く不十分で、「深沈厚重」な人でなければならないわけです。深く沈着で思慮深く、相手が温かい愛情に包まれるような厚みを有し、重みがあり安定感を持つ人物が第一等だということです。
某大臣に関して言えば、軽軽に喋り過ぎるという印象を私はずっと持っており、正に此の第三等に相当するよう思うことが幾度もありました。やはり大臣たる者、「君子、重からざれば則ち威あらず」(学而第一の八)といった形で重厚な雰囲気を常に持ち、余り軽軽な発言をしないということを心掛けるべきでしょう。
某大臣は灘高・東大ということで大変優秀な学歴を誇っておられる方でありますが、ここから後「人物を磨くため修養を重ねられたらどうかなぁ」と長く生きてきた者としてのアドバイスです。
編集部より:この記事は、北尾吉孝氏のブログ「北尾吉孝日記」2021年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。