前年比 11.4倍のパソナ純利益を分解してみると…

パソナの、年度末決算値(2021年5月期)が発表されました。

Peggy und Marco Lachmann-Anke/Pixabay

これまで、パソナは純利益の予想を上方修正し続けてきました。1月の予想は47億円。これが、4月に62億円、6月には“67億円”へ。この頃、前期の純利益の“6億円”から大幅に増加していることから、

「純利益が10倍」「前年比 1000%増」

などと報道され、大変注目を集めてきました。

今回発表の純利益確定額は“68億円”。報道風に言うと

「純利益が11.4倍」「前年比 1040%増」

といったところでしょうか。予想通りの結果とはいえ、コロナ禍でこの伸び率は驚異的です。しかも、パソナは、6月30日に、特別損失として固定資産評価損を、19億円「駆け込み」追加しています。これが無ければ、さらに利益は増えていたのです。

今回は、利益を大幅に増加させたパソナについて、考察します。

純利益を分解すると

パソナの純利益増は以下の要素に分解できます。


(当期純利益)68億円=(前期純利益)6億円+(売上総利益増)63億円
+(販管費削減)31億円-(その他損失等増)32億円

純利益分析(筆者作成)

最も影響が大きいのは、売上総利益の増加です。

売上総利益は、売上から売上原価を引いたものです。商品販売の場合、売上から仕入価格を引いたもの。パソナのような派遣業の場合は、売上から派遣社員の人件費などを引いたものを指します。

第3四半期はコストゼロで売上50億円増

第3四半期(3Q)に、売上総利益の好調さが表れています。

3Qの売上総利益は、54億円増加(前年同期比較)しました。売上高もほぼ「同額」の53億円増加しています。これが意味するのは、

「売上原価を『全く』増やすことなく、売上だけを増やした」

ということです。

(提供するサービスは変わらないのに、顧客が「53億円」値上げに応じてくれたのか?)
(それとも、派遣社員が「53億円」相当の仕事をタダでやってくれたのか?)

疑問がわきますね。もちろんそんなことはなく、パソナの抱える複数の事業それぞれの利益が、増減した結果です。

利益を牽引するBPO事業

パソナは8つの事業を抱えています。好調なのは、「BPO事業」(後述)です。他事業が振るわない中、売上を143億円増加させています(BPO以外の合計は47億円の減少)。利益増を牽引したのも、このBPO事業です。

BPOはビジネスプロセスアウトソーシング(Business Process Outsourcing)の略です。通常のアウトソーシングと異なるのは、範囲の広さです。自社の業務の「一部」だけを外注するアウトソーシング。それに対し、事業を「丸ごと」委託する。悪く言うと「丸投げ」するのがBPOです。

この「丸投げ」はBPOの問題点として、しばしば指摘されます。発注価格が高くなりがちだからです。

BPOは料金が混然一体となっているため、単一業務の発注より利益が上乗せされやすくなります。ハンバーガチェーンの、「〇〇セット」と同様ですね。利益率の低いハンバーガーを、利益率の高いポテトやドリンクと抱き合わせ販売し、利益を高める。これと同様の効果があります。

パソナなど受注企業にとって、BPOは「利益を創出しやすい商品」と言えます。

また、BPOの市場は拡大傾向にあります。特に、自治体向けBPO市場の伸びは大きく、年平均3.5%拡大し、2023年には5.2兆円に達する、という予測もあります(※1)。

今期、パソナのBPO事業は、自治体など公的機関からの受注が急増しました。

オリンピック関連の人の手配。コロナ禍で増加した助成金・補助金の事務局業務。これらをパソナが受注した、というニュースをご覧になった方も多いことでしょう(※2)。公的機関との良好な関係は、パソナの強みの一つです。

利益を創出しやすい商品特性。拡大傾向の市場。良好な顧客関係。パソナの好調は、今後も継続するものと思われます。

課題があるとしたら、BPO事業への過度な依存でしょう。

今期末の売上は、BPO事業が143億円増加。にもかかわらず、全体での売上は、96億円増に留まっています。他の事業が足を引っ張った形です。BPO事業が衰退した場合、パソナの収益は大幅に減少することになります。

高い付加価値の提供を

BPOを中核事業とするパソナ。

顧客は公的機関だけではありません。公的機関のサービスを利用する私たちも顧客です。

円滑なオリンピックの人員配置や、スピーディーな補助金等の審査・支給など。受注額を超える付加価値を、提供していただきたいと思います。

 

【補足・参考】

パソナ2021年5月末期 決算短信(7月15日)

※ 純利益分析画像
売上総利益の影響分解は、パソナ第3四半期業績概況の営業利益分析と同様の手法を用いて作成

※1 自治体向けBPO市場
自治体向けBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場 に関する調査を実施(2018年) 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

※2
パソナグループ 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 オフィシャルサポーター契約を締結
経済産業省中小企業庁の「中小企業等事業再構築促進事業」の事務局業務の契約締結及び契約開始について