変わらない「希望」を救え!!

カナダのTV番組シリーズ「Saving Hope」を最後まで観た。番組のタイトルが気に入っていた。「希望を探す」でも「希望を守る」でもなく、「希望を救う」だ。大げさに言えば、そのタイトルに何か啓示的な響きを感じたからだ。

カナダのTV番組「Saving Hope」のインタータイトル(ウィキぺディアから)

人は誕生し人生を歩み始めてから、何らかの希望をもつ。いい学校に入り、一流企業に就職したいといったものから、いつかは世界を見て回りたいといったものなど、人はさまざまな希望や夢を抱くものだ。どのような「希望」を持つかで、その人の人生が決まるといわれる。生まれた時から「自分は希望を持ったことがない」という人は少ないだろう。生まれた時に既にニヒリストだったという人を知らない。現実は、生きている中で希望を失ったり、人生の目的が分からなくなったという人が多いのではないか。

カナダのTV番組(2012~17年、5シーズン)の舞台はカナダ・トロントの「Hope Zion」病院だ。主人公は女外科医の Alex Reid と外科部長 Charles Harris だ。毎日、交通事故で急患が運び込まれる。脳外科医から心臓外科医まで専門医が勤務している、その病院の中で織りなされる医師たちの人生模様が描かれ、それに平行して患者の人生が重なっていく。病院はその意味で人生の縮図だ。死んでいく患者、救うことが出来なかったため苦しむ若い医師たち。回復して喜ぶ患者と医者たちのドラマが85話にわたって展開される。

ちなみに、現代のTV番組には「犯罪」と「医師」をテーマとした物語が多いことに気が付く。殺人が起き、事件を解決するためにFBIや警察官が活躍する刑事物語がある一方、患者の生命を救うために努力する医師たちの姿を描くドラマが多い。そして話をヒューマンタッチなものにするため、医師も特殊な性格の持ち主が登場する。例えば、大ヒットした「ドクター・ハウス」や自閉症でサヴァン症候群の若き医師の活躍を描いた「グッド・ドクター」(The Good Doctor)だ。犯罪物語では「モンク」や「コロンボ」などを思い出す。

「希望を救え」では病院で最高の外科医と言われていたチャーリーが交通事故後、コマ状況(昏睡)に陥り、体から霊が抜け出し、霊人と対話できるようになったことからドラマは始まる。ちょっと脱線するが、カナダのTV映画には霊人が出てくる番組が多い。カナダ騎馬警察官の活躍を描いた「Due South」や、劇団の世界を演出した「スリングス・アンド・アロウズ」もそうだ。それもホラーな怖い話ではなく、霊人が日常生活の中で自然に出てきて、生きている人間と会話を交わすストーリが多いことだ。カナダのTV番組では人間と霊人が共存しているのだ。

話に戻る。事故から回復し、再び勤務するチャーリーは手術中に意識を失った患者が霊人となって自分の前に現れ、話しかける体験をする。患者は自分の病歴などをチャーリーに話したり、家族問題を相談する。チャーリーは最初は驚いたが、霊の存在を次第に生きている人間のように感じ、コマ状況で霊が肉体から離れてしまった患者の人生相談に応じる。

チャーリーが手術前から患者の病気の原因を知っていることに同僚の医師たちが驚く。チャーリーは患者が教えてくれたからだ、とは言えない。婚約者の外科医アレックスはチャーリーの振舞いに不信をもつ。彼女は米TV犯罪捜査ドラマ「ボーンズ、骨は語る」の主人公、法人類学者のテンペランス・ブレナンのように、知性と理性で物事を判断するタイプだから、霊や神といっ不可視の存在に対しては信じることができない。

しかし、アレックスは次第にチャーリーが霊人との対話を通じて多くの患者を救ってきたことを知り、霊人の存在について理解を深めていく。そして最後のシーズンではチャーリーが再び交通事故にあい、亡くなる。アレックスはチャーリーが霊人として生き、自分を支えてくれているのを感じる。

当方の一方的な受け取り方かもしれないが。映画「希望を救う」は、医師が患者やその家族の希望(回復すること)に応えるために努力する姿を描く一方、人間が肉体だけの存在ではなく、肉体が朽ちた後も霊の存在として生きていることを外科医チャーリーを通じて描き、人間にある永遠の「救い」が何かを訴えているのではないか。

人間の肉体生活は長くても100年余りだ。肉体が朽ちた時、その人の人生が終わり、その人の「希望」も同時に消えていくとすれば、「希望」を救うことは出来ない。人間が永遠に生きていけるから「希望」も救われるわけだ。

問題は、私たちは永遠に失いたくない「希望」をもって生きているか、という点だ。多くは束の間の喜びや希望に振り回されて生きている。「希望を救う」前に、変わらない「希望」を生きている間に見つけ出さなければならないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。