3度目の新型コロナ起源報告を米下院外交委員会が公表

米下院外交委員会の共和党マイケル・マコール議員(テキサス州選出)は2日、20年9月21日に公表した「中国共産党とWHOの役割を含むCOVID-19パンデミックの起源」の最終報告の「補遺報告」を公表した。

この補遺報告の位置付けは2つ、1つは、マコールによる同委員会3度目(20年6月の中間報告と前記最終報告)の報告であること。他は、5月26日にバイデンが、90日以内に複数の諜報機関による調査報告を出す、としたものとは別物ということ。

中間報告も最終報告も大きな話題にはならなかったのは、状況証拠主体の、それなりの内容でしかなかったからか。そこで、この補遺の中身に行く前に最終報告の内容を、プレスリリースなどからおさらいしてみる。

robybret/iStock

最終報告(90頁)は、中間報告用の調査に基づく武漢の医師や居住者のSNS投稿、WeChat、国内外のオープンソースのメディア報告、学術論文、査読付き科学研究、シンクタンクの論考、米仏の諜報機関からの公開資料などの情報源を利用して作成された。

具体的な記述は、CCPは初期段階でヒトヒト感染を知っていたが、蔓延が国外に拡がるに連れ、隠蔽工作を講じた(12-13頁)。工作は、真実を語ったジャーナリスト、科学者、医療専門家への、嫌がらせ、拘留、時には失踪を伴った(27頁)。

19年12月中旬、CCPは武漢での発生が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を構成する可能性がある」とのWHOへの通知が法的に義務付けられるに足る十分な情報を持っていたが、これに違反した(30頁)。

20年2月初旬、CCPは医療用品供給網を国有化し、在中米国企業の生産ラインを含め医療用品の生産停止を指示、個人用保護具を備蓄すべく海外からの輸出を劇的に増やした。これはCCPがこのウイルスが壊滅的である可能性を知っていた証拠(33頁)。

国務省の通信を含めて、武漢ウイルス研究所(WIV)の安全性と完全性に関する懸念が文書化されている。が、CCPはWIVがCOVID-19パンデミックの起源に役割を果たしたかどうかを評価するのに役立つWIVからのラボサンプルの共有を拒否している(42-43頁)。

WHOはヒトヒト感染に関する台湾と香港からの警告を無視した。テドロスは1月23日にPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)の宣言に十分な情報を持っていたがそうせず、WHOの義務に違反した(44-45頁)。証拠はこれが政治的である可能性が高いことを示している(46頁)。

WHOのガイダンスは、130日間以上マスクを推奨しないなど、専門家によって広く批判された(47-48頁)。WHOはCCPの宣伝と偽情報の普及と正常化に加担した。専門家はWHOの公式声明が「中国共産党の影響を強く受けた」と述べている(50– 51頁)。

テドロスは、COVID-19パンデミック対応への悪影響に対する責任を受け入れ、WHOのトップを辞任する必要がある(57頁)。台湾はオブザーバーとしてWHOに再加入する必要がある(58-59頁)。

我々は、WHOが主管庁によって概説された欠陥を修正し、内部行動を通じてこの報告書の勧告を採用して、改善と改革の準備をすることを推奨する。 変化の準備ができているWHOの一部であり続けることにより、米国は国際保健規則とWHOの必要な改革を推進することができる(59頁)。

COVID-19のパンデミックにより、国際保健規則にいくつかの欠陥が明らかになった。これらの欠陥は将来の緊急事態の拡大を緩和するために改革される必要がある(60頁)。

以上だが、多くはそれまでに国際社会で共有されていた事象で、状況証拠が主体であるため、CCPを徹底的に追い込むための迫力に欠けていたことは否めない。

では今回の補遺報告はどうだろうか。邦訳で2千字余りの8月1日付プレスリリースの概要は以下のようだ。

まず補遺は、武漢ウイルス研究所(WIV)が発生源であることを示す証拠の概要を示していると述べ、エコヘルス・アライアンスのピーター・ダザックと一緒にWIVの研究者がそこで行われている研究を隠蔽するために取った多くのステップのいくつかを概説している。

ダザックは、21年初め武漢を調査したWHOと中国の合同チームの米人学者で、6月初めに公になった3,200通のファウチeメールでも名前が出た。補遺は、ダザックがWIVの研究者の要請に応じてWIVとの密接な関係を隠そうとしたが、科学界の誰もが実験室からの漏洩を調査する必要があると述べているとする。

続けて補遺は、「発生源としての生鮮市場を完全に却下する時が来た」とし、その代わり「証拠はすべての道がWIVに通じていることを証明している」と述べる。そして「我々は機能獲得研究がWIVで行われていたこと、それが危険な状況で行われていたことを知っている」とする。

また、中国CDCの責任者とWIVのBSL-4ラボのディレクターが19年夏、PRCラボの安全性について公に懸念を表明したことも判ったとし、ウイルスは19年8月下旬か9月上旬に漏洩したと考えられると述べている。

そして、何が起こったのかを理解したとき、WIVのCCPの役人と科学者らは、深夜にウイルスデータベースをオフラインにし、追加のセキュリティのために100万ドル以上を要求するなど、漏洩を必死に隠蔽し始めたと述べる。

また、WIVの研究者の科学論文が、WIVが安全でないバイオセーフティーレベルでコロナウイルスの危険な遺伝子組み換え研究を行っていることを証明するだけでなく、WIVの研究者が、変異の痕跡を残さずにコロナウイルスの遺伝子組み換えする能力を持っていたことを分析していると述べる。

筆者はこの辺りが補遺唯一のポイントと思う。すなわち「米国のラルフ・バリック博士が05年に遺伝子組み換えの痕跡を残さない方法の作成を支援した」と述べると共に、「17年にはWIVの科学者は同じことができた」としている点だ。

補遺は「これは、SARS-CoV-2には遺伝子組み換えマーカーがないため、人為的なものではないという科学界の主張が不誠実であることを明確にしている」と続ける。バリックは20年、イタリアTV局のインタビューに対し、「答えは武漢研究所のアーカイブでしか見つけることができない」と述べた。

共和党上院はランド・ポール議員を中心に、ファウチが、WIVの機能獲得研究用に資金を供与したと追及し、司法省にファウチの調査を要請した。が、諜報機関に調査を指示したバイデンが、トランプ時代から継続してファウチを重用していることから推して、その証拠はないのだろう推察される。

3,200通のeメールを分析しても新事実が出てきていないからだ。見当外れを長々やっても中国に舐められるだけではなかろうか。それよりも、ダザックとバリックを議会に呼んで、宣誓のうえ話を聞く方がよほど手っ取り早いだろう。

The HILLは2日、「補遺の著者は主張を明確に証明するための動かぬ証拠(smoke gun)を持っているとしていないが、パンデミックへの備えに対する立法上の対応を作成し、ウイルスの発生のために中国に費用を課すというより大きな義務を提起している」と書いている。

結局、この補遺も「オープンソース資料」を使った報告で「smoke gun」はないと述べる類のものなのか。とすれば、8月末に期限を迎えるバイデン指示の諜報機関による調査が待たれる。が、「状況証拠」は十分あるのだから、国際社会は事ある毎にこれを持ち出して、中国を責めるにしくはない。