バイデン大統領は4日、情報公開法によって昨年1月から6月までのメール3,200通が報じられて窮地にあるファウチ国立アレルギー感染症研究所所長を「信頼している」と擁護した。が、80歳と高齢なこともあり早晩身を引くのではなかろうか。
問題は彼が今後、何かの罪に問われるかどうかだが、メールに関する報道を読む限り、逮捕されるような事態には至らないように思える。指摘されている問題のいくつかには後で触れるとして、筆者がファウチを「シュールな人」と感じた5日のNew York Postの記事をまず紹介する。
記事の表題は「Fauci email dump includes ‘sick’ March Madness-style virus bracket(ファウチのeメールの山は「病気」のマーチ・マッドネス式のウイルスブラケットを含む)」。ブラケットとはトーナメントで対戦相手と階層を示す線。つまり、最強の感染症をトーナメント式に判定している。
メモの題名の「Dr. Fauci’s March Madness Bracketology Picks」や日付「3/11/20」はもちろん手書きで、「-Tony F.」とサインもある。ブロックは「East」、「West」、「South」、「Midwest」、出場は「Corona Virus」や「Zika」など16種の感染症だ。Zika熱と言えばリオ五輪の騒動を思い出す。
Eastは「Corona Virus」vs「Norwalk(ノーウォークウイルス)」と「SARS」vs「Mers」で、「Corona Virus」が「Mers」に勝ち、Southで「Smallpox(天然痘)」vs「Chickenpox(水疱瘡)」と「Herpes」vs「Measles(麻疹)」を勝ち抜いた「Measles」と対決、「Corona Virus」が勝利する。
Westは「Influenza H1N1」vs「Monkeypox(猿痘)」と「West Nile(西ナイルウイルス)」vs「Rabies(狂犬病)」で「Influenza」が「West Nile」に勝ち、Midwestの「Ebola」vs「Polio」と「Hepatitis B(B型肝炎)」vs「Zika」を制した「Zika」と対決、「Influenza」が決勝に進む。
決勝は「Corona Virus」vs「Influenza H1N1」の対決となり、「Corona Virus」が勝利する。「Corona Virus」に「Champion」と書き添えて点線で囲んである。NYPは、これがファウチと友人の間のユーモアか、雑誌漫画の転送か判らないとしているが、暴露されたメールの1通には違いない。
もう一つ紹介したい記事がある。6月3日にAXIOSに載ったファウチのインタビューでメールとは関係ないが、その中で彼は「To be honest with you, I still have post-traumatic stress about it…(正直に言うと、私は今もそれについて心的外傷後ストレス障害を抱えている)」と明かしている。
彼は「それ」について、「私は彼ら(*HIV患者)の命を救うための治療法を開発した。そして81年から 85年にかけて HIV(研究) に進んだが、恐ろしいことに全員が死んだ。みな若い男性だった。それが非常にトラウマになった」と述べる。
86年にAZT*が患者に一時的な助けを与える最初の治療法として発見され、「突然、雲が消えて太陽が輝き始めたようだった」が、ウイルスはすぐに耐性を獲得したとファウチは言う。
(*AZT:アジドチミジンは60年代に米国で癌を阻止する治療法として開発された)
96年にはプロテアーゼ阻害剤など血液中のウイルスレベルを劇的に減少させる組み合わせ薬により「大きなブレークスルー」があり、以来、複数の薬剤による治療が進んで1日1錠に減らすことができた。患者は早期治療により「通常の生活を取り戻すことができる」ようになっているそうだ。
さらに「PrEP」という感染リスクを99%減らせる予防薬も開発されている。が、ファウチはHIVのワクチンが未だにないことに「ホームランを打てるかもしれない…そこに到達できると信じているが、必ずしも効果の高いワクチンが要るとは限らない。何かを組み合わせれば良いのかも知れない」と述べてインタビューを終えている。
感染症トーナメントのメモをファウチが書いたとして、彼が心的外傷後ストレス障害を抱えていることと感染症の強さをNCAA(全米大学スポーツ協会)のバスケットボールトーナメントの「マーチ・マッドネス」に準えたことを関連付けはしない。が、少し変わった人物ではあるだろう。
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最後に3,200通のメールから、報じられているファウチのことを少し異なる角度から見てみたい。
焦点は、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所(WIV)で創られたものであるとして、果たしてファウチがそれを知っていたかどうか、またそれがそこから漏れたものであると知っていたかどうか、そして知っていて隠したのかどうか、などの確証がメールから見つかるかどうかになろう。
が、それらを明確に示すメールは見付かっていないようだ。最も怪しいものと言えば、国立衛生研究所(NIH)がWINに資金を提供した際、間に入った「Eco Health Alliance」の会長でWHOの武漢調査にも加わっていたピーター・ダザックとファウチとのやり取りだ。
ダザックは4月18日、ファウチが当時、「ウイルスが動物から人への感染を介して広がったという証拠が明らかになった」と述べたことを、「私の見解では、貴兄のコメントは勇敢で、信頼できる声からの話は、ウイルスの起源をめぐる神話を払拭するのに役立つ」とメールし、ファウチは「親切なご指摘ありがとう」と返信していた。
FOXニュースのタッカー・カールソンはダザックがWIVで「機能獲得」の研究に携わっていたとし、ファウチが公聴会でNIHによるWIVの「機能獲得」研究への資金提供を否定したことと関連付ける。NIHの金の使途までファウチが知る由もないから、否定するのは確かにおかしい。が、筆者にはファウチが何かを企んだ、とまでは言い切れまいと思える。
政治メディア「ヒル」は比較的公平にファウチのメールをハイライトする。例えば3月初め、ピッツバーグ大学免疫学部のシュロムチク教授がファウチに、公然と沈黙しているという噂を否定するよう促すメールを送った。が、ファウチは「私は口封じされたり、検閲されたりしていないことを公に明言してきた」、「科学的根拠に基づいて、言いたいことを正確に言う」と返信した。
また「ヒル」は、パンデミック初期の彼の期待、予測、助言が必ずしも現在の結果や推奨事項と一致するとは限らないことがメールからは明らかだ。が、これはファウチでさえ COVID-19 が出現するにつれて学んでいたことを示しているとする。未知のウイルスへの対策には朝令暮改が伴うということか。
例えば、ファウチのマスク着用の指針について、2月には「ドラッグストアで買う一般的なマスクは、ウイルスの侵入を防ぐのに実際には効果的ではない」としていたが、4月には人々が公共の場や家族以外の人々の周りでフェイスカバーを着用することを推奨したことを挙げている。
ファウチはまた、助言を求める者に分け隔てなく親切だったようだ。3月4日、ある女性が「貴兄の知恵への謙虚なお願い」と題して、肺炎の予防接種に COVID-19の予防効果があるか尋ねるメールをしたところ、 彼は1時間後、「ほとんどの肺炎は COVID-19 に対する保護を提供しません」と返信した。女性は「本当に貴兄が返事をくれるとは思っていませんでした。とても寛大で心から感謝しています」と返している。
ファウチは、有名人になったことを学者仲間に「彼の魅力はシュールなことだ」と冷やかされ気にしていた。新聞が3月31日、彼について「ファウチソックス、ファウチドーナツ、ファウチファンアート:コロナウイルス専門家はカルトの追っかけ」と報じたことをメールで知らせてきた同僚に、「実にシュール、これで(有名人で)なくなって欲しい」と返信したそうだ。やはり彼は「シュール」
ファウチが新型コロナを故意に過小評価したとの批判がある。が、