米バイデンのCOVID-19起源調査指示を考察する

バイデン大統領は26日、COVID-19の起源調査に関して声明し、情報機関(Intelligence Community)に対して「決定的な結論に近づく可能性のある情報を収集し、分析するための取り組みを倍増し、90日以内に報告をするよう要請した」と述べた。

米バイデン大統領 ホワイトハウス公式HPより

声明は「私はCOVID-19が出始めた20年初め、中国への接触をCDCに呼び掛けた」とし、「初期の数ヵ月に検査官を行かせないと調査が妨げられる」と述べる。また今回の要請は「3月に指示し、今月初めに受け取った報告の追加調査を求めたもの」で、報告では「感染動物と人の接触および実験室の事故」の2つの起源説のうち「前者が2機関、後者が1機関だった」などとしている。

後講釈で、20年初めにCDCに中国との接触を呼び掛けたとか、初期に行かせないと妨害されるなどと言うのは、失敗はトランプ政権のせいで私のせいじゃない、とでも言いたいのか。が、3月に指示して5月初めに第一報が上がったのなら、なぜ2週間も経ってから声明を出したのだろうか。

その訳は24日の始まる世界保健総会(WHA)の前日に、ウォールストリートジャーナル(WSJ)が武漢ウイルス研究所(WIV)の複数の研究者が19年11月にCovid-19と一般的な季節性疾患の両方と一致する症状になったとした「トランプ政権最終日の国務省報告書を超える」未公開の報告書について報じたからだ。

記事は、報告書には症状を呈した研究者の数やタイミング、通院回数などの詳細情報が含まれ、WHOが新型コロナの発生源調査の次の段階について協議する直前に、ウイルスが武漢研究所から流出した可能性について、より完全な調査を求める声が高まる新情報が明らかになったなどとあり、情報が国際的なパートナーから提供されたことを示唆している。

WHAの前日に未公開情報をWSJがすっぱ抜き、トランプが脱退を宣言したWHOでの協議の俎上に上げようとして、バイデンがウイルスの発生源について90日以内の調査を情報機関に求める声明を出すとは鮮やかな段取りかも知れぬ。が、筆者は共和党上院に外堀を埋められてのことと思う。

人権問題が絡む対中国問題では概ね超党派での対応をする議会だが、トランプ支持で知られる共和党上院ランド・ポール議員がまず動いた。13日の公聴会でポールが、国立衛生研究所(NIH)は「蝙蝠からウイルスを人為的にjuice upした」WIVに資金提供した、とファウチCDC所長を追求したのだ。

ファウチは「NIHはWIVによる『人間が造ったスーパーウイルスの機能研究』(機能獲得型)に資金を提供したことはなく」、「蝙蝠のウイルスの遺伝子解析をWIVで実施するEco Health Allianceに助成金を授与した」と抗弁し、「私は中国人が何をしたか説明できないが、中国で何が起こったのか更なる調査に完全に賛成する」などと述べた。

中国人が何をしたか説明できないのなら、蝙蝠からコロナウイルスを「juice up」しなかったとも言い切れまいと思うのだが、これまでにもノーマスクのポールとマスク派のファウチは火花を散らしてきただけに、二人の7分ほどのやり取りは話題になった。

上院はまた25日、WIVへの助成金支給を禁止する修正条項を審議中の法案に盛り込むことを全会一致で承認した。また上院はランド・ポールが提出した別の修正案、すなわち中国が進める「機能獲得型」の研究に連邦政府の資金を投じることを禁止する法案も承認した。

さらに共和党上院のジョシュ・ホーリーとマイク・ブラウンによる、国家情報長官にCOVID-19の起源に関する情報解除を要求する法案も26日、可決した。要求する機密解除には「人民解放軍の活動を含むWIVの活動や発生前のコロナウイルス関連の活動」、そしてWSJが報じた19年秋に病気になった研究者の詳細も含まれるようだ。

これらが影響したか、ラスムセンが25~26日にかけて900人に電話とオンラインで行った世論調査では、「COVID-19の発生源」についてWIVであるの可能性が「高い」と考えるものが68%に上り(43%は「非常に高い」)、「高いと考えない」と「確信がない」は共に16%だった。

一方の中国は、党機関紙人民日報傘下の環球時報が24日に「WSJの報道は全く真実でない」と報じてから、26日の「米国がWHOに圧力」との記事まで、この関係の記事5本を立て続けに掲載し、声高に米国を非難して、必死に火消しに努めている。

24日分では、趙立堅報道官が「WIVは3月23日にこの問題に関する声明を発表し、新型コロナウイルスの感染でないことを明らかにした」とし、WIVや関連機関を訪問した中国とWHOの専門家も、ラボからの流出が「非常にありそうもない」と結論付けている、と報じた。

26日分では、「WHAが月曜日に始まる数時間前に」WSJが「非公開の米国諜報報告を引用した記事を掲載した」と報じた。記事は、環球時報の質問に対しWHOが26日、「ウイルス起源研究報告書からの推奨事項を技術レベルで検討していると述べ、技術チームは次の研究の提案を準備し、それを事務局長に提示して検討する」と回答したと述べる。

また合同チームの中国CDC副局長が3月、「WHO主導の起源追跡は世界規模での取り組みが必要、中国はその一部で、それは合同チームの全専門家のコンセンサスだと強調」し、米国や欧州、ブラジル、インドを含む他の国々で発生した初期の症例の証拠や「武漢の症例より早いものもあり、グローバルなフィールド調査を実施する」と書いている。

中国は懸命に反論するが、WHO調査団の武漢入りが1年遅れたこと、調査が必要性と説いた豪州を激しい圧力に晒していること、調査団が合同調査の名の下に中国の監視下に置かれたこと、周知の昨年早くに警告を発した医師らの拘禁などの多くの客観状況から、国際社会は中国による初期の隠蔽がパンデミックの原因と知悉している。

筆者は一年前、スティーブ・バノンが「中国共産党が12月の最後の週に(*新型コロナについて)責任を持って行動していたら、死者と苦痛と経済虐殺の95%が回避されただろう。・・このことは裁かれ、彼らは個人資産を、中国共産党はその資産を剥奪されるだろう」と述べたことを投稿した。

同じ頃、韓国大法院の慰安婦裁判で原告が日本を訴えて「主権免除」が話題に上っていたので、筆者は、中国は国家よりも共産党が上位、党は国ではないから「主権免除」は否定されるとし、「中国共産党と習近平は裁かれ破産する」との表題を付けた。

あれから1年経ち、慰安婦裁判では韓国が思わぬ腰砕けをした。共産中国も戦狼報道官こそ相変わらずだが、軍事面では英蘭仏独の軍艦までインド太平洋に出張られ、日米豪印のQUADと相携えて中国包囲網を形成され、経済面でも欧州議会に投資協定を凍結され、一帯一路も破綻寸前だ。

筆者は中東の不手際を見てもバイデン外交を未だ信用していないが、斯様にその協調路線を逆手に取られた以上、バイデンが文のように腰砕けになろうとしても、思うに任せない国際情勢と言えよう。もしもバイデンが狙ってわざとそうしているとすれば、さすが40年以上も米政界を泳いで来た強者だ。

が、中国のこのウイルス起源調査と人権問題、北朝鮮とイランの核問題、そして何より台湾問題など、バイデン政権が共産中国に対処すべき課題は山積みだ。放っておけばこれらすべてが既に仮死状態に陥った香港のようになってしまう。WIV問題を糸口に習の共産中国を締め上げてもらいたい。