「女性は得ばかりで不公平」と思う男性が知らないこと

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

現代ビジネスの記事「ゲイが女性のフリして出会い系をやったら地獄だった」が興味深い。「男から見ると女性ばかりが優遇される社会だ」と憤慨する男性は少なくないと感じる。レディースデイで女性が割引を受けたり、いざとなれば仕事をやめて専業主婦になれる、といった男性にはない特別待遇があるという具合だろう。実は筆者も遠い昔は少しだけそう思っていた時期もあった。だが、現在はその認識は完全に改めている。

Deagreez/iStock

こうした「女性は優遇ばかりされている」という考えは、実際に女性の立場にたったことがない「隣の芝生は青い現象」である。現在は筆者もビジネスや人生経験を経て「女性ばかりが得をしている」とは思わなくなった。お断りしておくが、筆者は特別に男女どちらかに大きく肩入れするスタンスをとっていない。あくまでニュートラルな視点で、起きている事象を冷静に考察する意図を持って本稿は書かれた。

女性を対等な人間と見ていない男性

現代ビジネスの記事によると、「女性のふりをして出会系アプリを試したところ、驚愕の結果となった」と紹介されている。セクハラは当たり前、マウンティングや説教をしてくる男性も多いという。性的な表現が苦手な方もいると思うので、本稿での詳述は控えるが男性として生きていれば一生経験しないであろう、屈辱的な態度のオンパレードである。著者のコメントする通り、これは件の男性たちが女性を対等な同じ人間同士でないと思っているからこそ、顕在化しているスタンスであろう。

脳科学者の中野信子氏は「身体的魅力を持つ女性を前にすると、男性は人間というよりモノとして見てしまう」という。つまり、こうした上から目線な態度の源泉は、男性の脳機能的な特性から来ているといえる。厳しい言い方をするなら、生殖本能を隠そうともしない、極めて原始的と言えるだろう。

だが、筆者はこの事実には驚かない。昔、友人がネカマ(ネットで男性が女性のふりをする意)で10代の女性になりすましてマッチングアプリに登録したところ、あっという間に10数件のメッセが送られてきたという話を聞いていたからだ。どれもこれも「今すぐ会いたい」というものばかりで、中には「そちらは北海道か! こっちは東京だけど、今すぐ飛行機で会いに行く!」という鼻息の荒さを感じさせるメッセも送られてきたという。

女性を対等な人間と見ていない男性は、決して例外的少数派とは言えないはずだ。

多くの女性は必死に生きている

「レディースデイなどで割引を受けていて女性はいいな」

「働くのが嫌なら、専業主婦に逃げられる女性はうらやましい」

という話があるが、筆者は女性を見ていてむしろ「大変だな」と感じることが少なくない。

経営しているフルーツギフトの会社では、女性の従業員に働いてもらっている。まず既婚のワーキングママの苛烈さは、彼女らから話を聞いていて驚かされるばかりである。弊社は残業時間は完全にゼロを維持しているが、育児や家事があるために睡眠時間は大抵4時間ほどしかない人もいる。子供の面倒や家事によって空き時間は皆無で、仕事が終わったらバタバタと急いで帰っていく。時短勤務者は同僚やお客様に迷惑をかけないようにと、勤務時間中はとにかく一生懸命働いてくれる。かつて、東京で働いていた日系、外資系企業でも家庭に、仕事に努力する女性ばかりを見てきたので、「女性は楽でうらやましい」とは思えないのだ。

「それでも専業主婦なら楽では?」と反論がありそうだ。だが、特に子持ちの専業主婦も、まったく楽ではない。筆者は保育園のお迎えや食事、お風呂などできうる限りの育児で2人の子供のお世話に参画している立場であり、その経験観から下記を展開したい。そもそも、「多くの男性は育児実態を知らない」というものである。仕事と異なり、育児には達成感や他者からの称賛はない。名前のなき無数の膨大なタスクを、突発的な不確定性に妨害されながらストレス下でこなさなくてはいけない。子供に意識を100%相手に向け続ける時間を過ごすタスクは、到底楽とは言えない。数時間おきに夜泣きなどで、毎日睡眠は妨害され続ける。

そして「育児より仕事が大変」という声もある。大変な仕事が世にあるのは理解しているが、本質的に仕事は自身の努力やスキルアップで改善できる余地があり、創意工夫やより良い未来への期待値が存在する点で育児とは異なる。すなわち、育児は仕事と違って効率性を高めたりIT活用などの余地は一切ない。故に忍耐的要素に溢れかえっている。筆者は土日が空け、月曜日が来るといつも心から解放された心持ちになる(それでも平日の育児タスクはかなりのものだが…)。

女性がやっているタスクを、引き受けること、それは多くの男性には大変だと感じるはずだ。

異性をうらやむのは止めた方がいい

結論的には、異性をやたらとうらやむのは得策ではないと感じる。女性から男性を見ても、「変化し続けるマーケットから高評価を得るために勝負し続けるのは大変だ」と感じるだろうし、本稿で述べた通り、女性のタスクを理解すれば、男性も女性の大変さが見えてくるはずである。

性別は生まれた瞬間から決まっている固定値である。隣の芝生は青く見えたところで、自分の人生にポジティブな影響をもたらすことはない。つまり、相手をうらやんだりあまつさえ、憎しみを覚えるのに使う時間とエネルギーは徹底的に無価値だ。だが、うらやむ代わりに、相手の立場を理解した上で感謝や尊重したり、労をねぎらう姿勢を持つことには価値がある。

「女性は得ばかり」という男性は、女性の置かれた立場から見る現実を知らないだけなのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。