家電の行動データ収集本格化へ

関谷 信之

コロナによる在宅時間増に伴い、家電の利用頻度が増加しています。

冷蔵庫の「開け閉め」や調理家電などの利用頻度が2倍に。また「ビザ」や「トースト」、「ゆで卵」など手間のかからない食材を調理することが増えている、とのこと。

アンケートを実施したのではありません。IoT搭載の冷蔵庫やレンジから、データを収集しているのです(※1)。

自分が何を食べたのか。送信されてる。見られてる。

Tumisu/Pixabay

「気持ち悪い」

そう感じる方も多いのではないでしょうか。この「不快感・不安感」を払拭できるかが、個人データ収集成否の鍵となります。

今回は、拡大しつつある個人データの収集・活用について考えてみたいと思います。

外干しをすすめる乾燥機能付き洗濯機

冒頭のIoT搭載家電の開発メーカーは、シャープです。

シャープは、2017年以降、IoT機能付き白物家電分野を強化。AIとIoTを合わせ「AIoT」と呼び、これに対応したレンジや冷蔵庫、洗濯機などを製造販売しています。

AIoT家電に実装されている機能の多くは、顧客への情報提供です。

開閉回数を確認し、電気代の節約法を教える冷蔵庫。家族の好みを学習し、おすすめメニューを提案するレンジ。さらには、気象情報を入手し、

「洗濯ものを外に干すと気持ちよく乾きます」

などと、アドバイスする洗濯機まで。日当たりの悪い我が家でそう言われても…とツッコミたくなりますが、この程度ならまだ可愛いもの。

「何を食べたか」などの情報が「収集」される。その情報が「分析」される。分析結果を踏まえた「(商品が)提案」される。こうなると、薄気味悪くなってきます。

メニューボタンは誰のため

「昼は軽くトーストで済ませよう」

シャープのAIoT対応レンジは、自動調理メニューが充実しているため、このような「いつ、何を食べたのか」といった細かなデータ収集が可能です。収集。分析。そして広告提案。当然、専門家が参入します。電通です。

シャープ製IoT家電の利用状況を分析、広告配信に活用 電通が新サービス

シャープ製IoT家電の利用状況を分析、広告配信に活用 電通が新サービス
電通は6月7日、シャープ製のIoT家電から得たデータを活用してスマートフォンやPCに広告を配信するサービス「domus optima」(ドムス・オプティマ)のβ版を発表した。ユーザーの家電利用データから潜在的なニーズを予測し、それに合わせて商品やサービスの広告を配信する。

電通は、IoT家電のデータを活用したマーケティングソリューション “domus optima(ドムス・オプティマ)”を、6月より提供開始しました。

これは、約40万台のIoT家電データ(エアコン・空気清浄機・オーブンレンジ・自動調理鍋・洗濯機)の、利用日時や利用機能を計測、分析。潜在ニーズを割り出し、それに合わせた商品広告を、利用者のスマートフォンに配信する、というもの。クリック数計測も可能とのこと。

「やたら、発酵バターやジャムの広告が表示されるな…」

そんなことが起こるかもしれません。

ネットの検索・選択ではなく、現実の行動が「見られている」。不快感・不安感が生じてくるのではないでしょうか。

見守るけど見張らない「象印のみまもりポット」

利用者データが送信されているにもかかわらず、多くの人に受け入れられている製品があります。象印の「みまもりポット(みまもりほっとライン)」です。

『離れて暮らす高齢の親の見守りサービス』
株式会社オヤノコトネットのプレスリリースより

サービス開始は2001年。最も古いIoT家電の一つと言って良いでしょう。2001年といえば、ADSLが開始された頃。Wi-FiやBluetoothはありません。そこで、湯沸かしポットの下部にモバイル機器を丸ごと埋め込むことで、データ通信を実現しています。

目的は、離れて住む高齢者の安否確認です。

給湯ボタンを押すと、「ポットを使った時間」が、離れた家族へメールで送信される。機能はこれだけです。しかし、利用している高齢者は「使っていると安心できる」といいます。サービス開始以来、累計契約者は1万3千件を突破(2020年10月13日時点)。なぜここまで受け入れられているのか。

「見られている」という不快感がないからです。

「人は、見られているというのが嫌なんです」
(みまもりポット開発協力者 佐藤医院 網野医師)

開発協力者インタビュー 医師 網野氏|iポット誕生秘話|象印マホービン株式会社

「給湯ボタンを押すと、『ポットを使った時間』が送信される」
「ポットを使った時間が家族に届くことにより、『無事を知らせることができる』」

送信するデータは何か。メリットは何か。どちらも明確です。その結果、給湯ボタンを押すことが、「見られている」という受け身の行為ではなく、「無事を知らせる」という自発的行為になっている。だから、「見られている」という不快感がないのです。

Apple新機能の不安

「見られている」という不安感が跳ね上がった製品があります。AppleのiPhoneです。

米Appleは8月5日、児童保護の目的で3つの機能追加を発表しました。

そのひとつが、児童虐待画像の検出・通報機能です。

iCloudに保存されている「写真」に児童虐待画像が含まれていないか「調査」し、含まれていた場合は、ユーザアカウントを無効にする。加えて、当局(全米行方不明・被搾取児童センター=NCMEC)に「通報」する、というもの。年内アップデート予定のiOS15以降(米国)で適用されます。

「iPhoneで撮った写真が『検閲』される」
「自分の子のお風呂写真でも『通報』されるのでは」

と、不安視されネット上で大変な話題となっています。

Appleは、

「誤ってユーザを当局に報告する確率は、1兆分の1未満」

Appleの児童虐待対策システムに懸念の声 監視システムへの転用を阻止できるのか?|Real Sound|リアルサウンド テック

などと火消しに躍起ですが、不安感の払拭は難しいものと思われます。

不快感・不安感を払拭させるには

みまもりポットの成功には2つの要因があります。

  1. どのようなデータが収集されるのか明確であること
  2. 利用者のメリットが大きいこと

Appleの新機能は目的が「児童保護」と、公益性は非常に高い。しかし、「検閲」「通報」リスクを相殺するほどのメリットがある、と考える人は少数派でしょう。また、シャープのAIoT家電は、複数の家電からどのようなデータが収集されるのか不明瞭(※2)です。

個人データ収集・活用を成功させるためには、これら2つの要素を満たし、不快感や不安感を払拭する必要があるでしょう。

【参考補足】
※1
「コロナ下で急増 調理家電の火災に注意」(みみより!くらし解説) | NHK 解説委員室
IoT家電のデータで見るコロナ禍の生活スタイルの変化とは? | NHK

※2

データはシャープがユーザーから包括許諾を得て集めたものを利用。現時点ではユーザーから許諾を得るときに電通やdomus optimaといった具体名を出していないものの、今後はサービス名の明記を検討するという

シャープ製IoT家電の利用状況を分析、広告配信に活用 電通が新サービス – ITmedia NEWS