「日本は安すぎる」は本当か?

ニューヨーク在住の大江千里氏が「日本は安すぎる」と述べて話題になったのが週刊ダイヤモンドの記事「安すぎ日本 沈む給料、買われる企業」。大江氏はその記事の中でラーメン一杯2200円、ビールでも飲めば5500円、それに対してワンコインランチの日本は常軌を逸していると述べたのです。内外価格差を指摘した記事は相当ありますし、私も折に触れて価格差はご紹介してきたと思いますが、大江氏のネームバリューと週刊ダイヤモンドという組み合わせで注目を浴びたのでしょう。

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上記の例を少し考えるとラーメンとビールと税金/チップの価格を分類しないと正しい答えは出てきません。ラーメンは20ドルと表記されています。ではなぜ、ビールを飲むと50ドルになるのでしょうか?本文には替え玉、トッピングをしてビールを飲むとあるのでここで膨らんでいるのですね。

ビールの飲み屋価格は北米と日本、どちらが安いでしょうか?答えはおおむね同じです。場所により変わりますが、物価の高いNYあたりのパブですと1パイント(=16oz=473ml)は8-9ドルでしょうか?つまり900-1000円です。一方、バンクーバーだと7カナダドル程度ですから600円です。日本は中ジョッキで500-600円はするでしょう。(日本の方が泡が多くビールの量はジョッキサイズ2割減程度の350MLぐらいです)とすればMLあたりで計算するとさして変わらないのです。

高いのはチップと税金ではないかと思います。アメリカのチップは高くなって最低15%、このところ20%が普通になってきていると思います。更にNY州の飲食の税金は8.875%がかかるのです。とすれば上記の大江氏の価格分析はラーメン20ドル、トッピングと替え玉10ドル(想像です)、ビール8ドル、チップ7.6ドル、税金4ドル、これで合計49.6ドル、つまり円で5500円の分析になります。

日本から来た人は欧米の物価は高いと異口同音に言います。ハワイまできてコンビニのABCストアで弁当を買う日本人観光客が多いのはレストランはメニューの価格を足し合わせただけでは支払いが足りないのです。飲食の税金が安いバンクーバーでもチップ15%と合わせて2割は価格に上乗せしなくてはいけません。これは30年前に私がここに来た時から変わりません。私も初めて赴任してきたとき、外食はできないと思ったし、最近赴任してきた方と話していたら外食が高くて、とこぼしていました。

では欧米の人はどうしてそんな高い外食費用を払えるのでしょうか?それは外食がイベント的であってレストランに行くのが日常ではないのです。普段はランチ持参だったり、フードトラックで買ったり、スーパーのイートインやフードコートを使います。日本では多くのサラリーマンが毎日のランチをレストランで食べます。つまりそもそものレストランへの需要と期待度が違うのです。北米は非日常だから多少高くても印象深い店に行きたいし、金払いもよくなるのです。私だって昼食は家に帰って食べています。だって外食は時間もかかるし払いきれないのです。

ただ明白なのは大江氏が指摘するように日本のレストラン価格は安い気はします。私が普段使いするごく普通のパブでハンバーガーを注文すれば17-8ドル(1600円)プラス税サ20%です。つまり約1800円。日本なら1000円ぐらいでしょうか?

今日は別にレストランの価格比較をするつもりではなく、内外価格差は表層の金額比較だけではなく、各国の消費者行動をベースに判断すべきということを言いたかったのです。アジアは外食文化です。例えば香港の集合住宅のキッチンで調理をすることは設計上、前提としていません。地元の人がコンロ2つぐらいの狭い台所で鍋を振ることはあまりなく、外食かテイクアウトをするのが当たり前です。安くてうまいから外食するのではなく、外食する文化だから安くてうまくなるのです。日本も同様。だけど、欧米はそういう文化がないのです。

では欧米の住宅はなぜ高いのか、といえば買えば住宅は家族の城だし、友人や知人を呼ぶ社交場でもあります。その為に大事に使い、価値を維持します。日本は木造住宅が22年で償却します。家にも狭いから人をあまり呼ばないでしょう。中国だって所有権がない一種の長期賃借権ですから先々価格は下がるでしょう。欧米では財産になります。日本は土地は償却しないけれどマンションの土地なんて分けられないのです。つまり、実質価値不明なのです。

アメリカの航空代金は安いですね。理由は真四角の国土でひとが縦横無尽に動き、需要が多いのです。日本は主要都市間の需要は極めて大きいけれど地方になると途端に落ちてしまいます。カナダも日本に近く、横横しか動かないので航空運賃は高いのです。

日本の価格が高いもう一つが高級輸入品。例えば自動車はバンクーバーと日本を比べると申し訳ないぐらいの差が出ます。2021年型ポルシェ マカンは日本が754万円に対してバンクーバーは520万円で買えます。高級腕時計なども価格差がありますが、各国向け価格設定は様々なファクターで決めていますが日本の舶来品は高い点はずっと前から変わっていません。

かつてビックマック指数というのがありました。同じビックマックが世界でいくらで売られているかで為替を占う材料にしたりしたものです。しかし、ハンバーガーを食べる文化とその価値観の置き方は違います。世の中の物価はそんなに単純に比較できないということではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月27日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。