人生を決める最大の要素は「生まれる国」

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

昨今、アフガン情勢が非常に厳しい展開にある。現地に取り残された日本人の救出を試みるため、自衛隊が派遣され注目を集めている。

Ivan Zhdanov/iStock

昨今、生まれる親の所得や学歴、健康などが人生に大きな影響を与えるということが、データと共に示されている。だが、アフガン情勢にまつわる、一連のニュースを見ていて感じるのは、生まれる国こそが人生を決める最大の要素であるということだ。そう考えると、日本に生まれた者は、強運の持ち主といっていいのではないだろうか。

お断りしておくと、自分はアフガンや新興国に生まれる人を下に見る意図はないし、手放しで日本を称賛するつもりもない。あくまで人生に与えるインパクト要素の是非を問う目的で本稿は書かれた。

健全な社会とは何か?

筆者は我が国を考えなしに、ひたすら称賛するというポジションを取るつもりはない。実際、日本は様々な社会や政治、ウイルスの感染危機への対応などの諸問題を抱えており、その解消に向けて日々議論が行われている。

ポジティブ、ネガティブなファクターを個別具体的に論じるとキリがないのが、概ね日本は世界的に見て健全な社会と言っていいと思っている。ここでいう健全な社会というのは、個人の人生は努力によって切り開かれ、人生を踏み外した人にもセーフティーネットが敷かれ、再起可能な社会ということだ。つまり、未来に希望を持ち自助努力で人生を高める気概が生まれる社会のことと定義したい。

日本は健全な国家

日本はバブル絶頂期と比べて、一人あたりの豊かさは相対的に後退した。だが、依然として世界200の国と地域を水平比較した場合においては、現時点で健全性は維持できていると思うのだ。

筆者は親は二人とも高学歴ではなく、名前を書けば全員合格する工業高校出身である。小学生の時に両親は離婚し、シングルマザーの子供4人の家庭だったので好ましい環境とは言えない状況だった。これにより、一時は腐りかけた時期もあったが、人生を自助努力で切り開くことの重要性に気づいてから必死に努力した。米国大学留学を経て東京で会社員になり、起業して今がある。このプロセスにおいて、日本社会や周囲の人間関係、日本の豊かな教育環境に助けられ、努力しようという気概育まれたという実感がある。だから自分は日本社会に心から感謝をしているし、今後はビジネスや納税を通じて我が国の社会に恩返しをしていくフェーズだと思っている。

日本の健全性を初めて感じたエピソードがある。筆者が米国大学留学中、紛争地域から国費留学生に出会って話をした。彼女に戻る場所はなく、生きる権利をかけて米国で挑戦するのだと言って勉強に励んでいた。こうした経験からも日本は多くの課題を抱えつつも、少なくとも現時点では健全な社会であると感じるのだ。

国によっては人生は運命づけられてしまう

新興国によっては、子供のうちから朝から夜まで単純肉体労働に従事することを運命づけられている人たちがいる。早朝から起き出し、遠方の工場まで徒歩で通勤し、帰宅してからも家事に忙殺される。彼らに学習機会が入り込む余地は寸分もない。よしんば特定分野において卓越した能力や才能があっても、それを発見したり発揮される機会ははじめから奪われている。

また、テンセントやアリババなど数多くの巨大ITテック抱える中国の躍進が取りざたされるが、同国においても都心部と農村部とでは大きな格差が問題になっている。中国ではビジネスで成功し、巨万の富を有するものと農村部ではインターネット接続すらままない地域の格差がある。戸籍がない者も相当数いると見られ、チャンスを求めて誰でも都会で勝負しに行ける可能性の扉が開かれているとは言い難い。

世界にはチャンスが奪われている国家も少なくない。他国を下に見る必要はないが、日本の恵まれた環境に感謝し、健全な精神で自助努力に励むことには価値があるだろう。

ユートピアな国家は世界に存在しない

「日本も格差が広がっている」「学歴や親の収入の多寡で決まる」といった意見を見ることがある。「日本は米国や欧州を見習うべきだ」という「海外こそが素晴らしい。それに引き換え日本は」という論調で、米国や欧州が開かれた理想的な社会であると引き合いに出されることもしばしばだ。

だが、他方の先進国でも日本以上の学歴社会であったり、格差の硬直性やその大きさは我が国以上のケースも散見される。地球上にユートピアな国家など存在せず、相対的にポジティブ・ネガティブ要素を冷静に水平比較することが必要だろう。

人生を決める要素は様々だ。優秀な遺伝子に恵まれることや、親の収入の多寡や社会的地位、教育の充実度なども大きなインパクトはある。だが、それらとは比較にならない決定的な因子こそが生まれる国なのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。