独連邦議会選まで1カ月を切った

ドイツ連邦議会(下院)選挙の投票日まであと1カ月を切った。マラソンでいえば、いよいよゴールを視野に入れ最後の力を振り絞る時だ。独の世論調査も忙しい。毎週、新しい調査結果が報じられるが、第1党と予想される政党が頻繁に変わるのだ。好意的に表現すれば、激しい疾走ゲームを展開しているといえるが、穿った見方をみれば、政党も有権者も右に左に揺れ、その時々の出来事に振り回されているというべきかもしれない。

社会民主党の次期首相候補者シュルツ財務相(SPD公式サイドから)

議会選直前に社会民主党(SPD)がたとえ世論調査とはいえ、トップに躍り出ると予想した国民がいただろうか。その社民党が先日実施された世論調査で遂に与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)を抜いて第1党に躍り出たのだ。驚いたのは他の政党だけではない。SPD関係者自身も何が起きたのか暫くは理解できなかったのではないか。

独の世論調査会社INSAが「ビルド日曜版」(8月22日)のために実施した調査によると、CDU/CSUが先週比で3ポイント失い、支持率22%となった一方、社民党は2ポイント増で支持率は22%となり、SPDがCDU/CSUと世論調査で同列となったのだ。2017年4月以来のことだ。それだけでは終わらない。調査機関フォルサが24日発表した調査結果によると、SPDが15年ぶりにCDU/CSUを抜いてトップに躍り出たのだ。

ちなみに、INSA世論調査では野党「緑の党」は1ポイント減で17%。自由民主党(FDP)13%、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)12%で両党は1ポイント増だ。その他、「左翼党」7%だ。

ここでは世論調査の正確度、調査方法を比較するつもりはない。ドイツの政党支持率が安定さを失い、上がったり下がったりしているという現実があるのだ。もちろん、党への支持率のアップダウンにはそれなりの理由はある。

最近では、CDUの首相候補者アルミン・ラシェット党首(ノルトライン=ヴェストファーレン州首相)は7月17日、シュタインマイヤー大統領と大洪水の被害に遭った被災地を訪ねたが、大統領が話している時、その後ろで現地視察の付き添い関係者と話しながら面白可笑しく笑っている姿がカメラに撮られたことから、他政党から「不謹慎だ」と糾弾され、謝罪に追い込まれるという事態となった。悪気があったわけではなかったが、会話の際に笑顔がこぼれたわけだ。大洪水で家屋を失い、家人も失った犠牲者たちの前で笑顔を見せたのは政治家でなくてもアウトだ。ドイツ16州のうち人口で最大州の首相を務めるベテラン政治家としては大失策だといわざるを得ない。その直後の世論調査でCDUは支持率を落とした。

今年に入り、独メディアは次期連邦議会選では「緑の党」が第1党になって、アンアレーナ・ベアボック共同党首が次期首相候補となると予想していた。しかし、同党首が公表してきた自身の学歴で問題があったとしてメディアで大きく叩かれ、支持率を急速に落とした。ベアボック党首は今年5月段階で43%が「首相の資格がある」と評価されていたが、6月に入り28%に急落している。

CDU党首、「緑の党」党首は選挙戦の中で自身の失点から有権者の支持を失っていったが、SPDのオーラフ・ショルツ財務相は大きな得点こそないものの、先の両党首のような失点はなく、次期首相候補者の中では支持率は48%とトップ、ここにきてSPDがCDU/CSUと支持率で並び、追い抜く勢いを見せてきたのだ。

社民党は昨年8月10日、連邦議会選挙の党筆頭首相候補者にショルツ財務相を選出した。多くのドイツ国民は16年余り続いてきたメルケル政治に倦怠感を覚える一方、党内で路線争いを繰返すSPDに愛想を尽かしてきた。社会の多様化と次々と飛び出す地球レベルの諸問題(新型コロナ感染対策、地球温暖化対策、移民問題など)に対し、ビジョンを持って果敢に立ち向かう新しい世代の台頭が願われている中、SPDは政権奪回の夢をベテラン政治家、ショルツ財務相に託したのだ。シュルツ氏は華やかさには欠けるが、安定している。コロナ禍で苦悩してきたドイツ国民は失った安定を探し求めてきたのかもしれない。ショルツ氏は知名度と実務体験で有権者に知られている。

ショルツ氏が党次期首相候補者に選ばれた時のSPDの支持率はCDU/CSU、「緑の党」の後塵を拝し、15%だった。それがINSA世論調査では22%と1年間で7%の支持率をアップさせたことになる。

SPDは過去、CDUより深刻だった。SPDは2017年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のシュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、メルケル首相の4選阻止を目標に再出発したが、その後の3つの州議会選挙(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の2017年9月24日の連邦議会選ではSPD歴史上、最悪の得票率(20.5%)に終わった。

シュルツ党首に代わり、SPD初の女性党首としてアンドレア・ナーレス氏が昨年4月、就任したが、ナーレスSPDも前任者と同じように選挙の度に支持率を失った。SPDは2018年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝した。同年5月26日の欧州議会選ではSPDは15.8%と前回(2014年)比で11.5%減と大幅に得票率を失った。その結果、ナーレス党首は2019年6月2日、責任を取って党首と連邦議会(下院)の会派代表のポスト辞任を表明した。

そして19年11月末に実施されたSPDの党員選挙の結果、党内左派のサスキア・エスケン連邦議員とノルベルト・ワルターボルヤンス・ノルトライン=ヴェストファーレン州元財務相の2人組が共同党首に選出された。過去4年間で党首が3回変わったのだ。そのSPDが今日、CDU/CSU、「緑の党」を破り、第1党に躍り出る可能性が出てきたのだ。少なくとも独の世論調査によればだ。ただし、来週の世論調査でSPDの支持率が急落した、としても驚かない。

16年間の政権を運営してきたメルケル首相は引退する。次期連邦議会選はポスト・メルケル時代の幕開けだ。新型コロナウイルスの感染対策、環境問題、移民問題などが控えている。ドイツ有権者はどの政党にポスト・メルケル時代の舵取りを委ねるかで、依然、揺れ動いている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。