普通の国になったアメリカ

アメリカが偉大である理由は何でしょうか?国土、資源、3.3億の人口、経済と金融、先端企業、基軸通貨ドルの発行国、最強の武器ビジネス、文化/娯楽…。その中でやはり一番大きいのは世界への影響力だったと思います。しかし、アメリカは少しずつ疲弊してきました。いや、国家の高齢化が進んだといったほうがよいでしょう。20世紀初頭、英国からバトンを引き継いだアメリカは若く、大戦を有利な形で進め、1920年代の大戦間端境期には自動車産業の勃興、そして「華麗なるギャツビー」にみられる栄華を誇りました。大戦後も世界ににらみを利かせ、日本との貿易戦争では日本側が自主規制という珍妙な形で幕引きをしなくてはならないほどアメリカは強大でありました。

narvikk/iStock

アメリカは泥沼戦争に関しては弱い、これが私の実感です。アメリカは近代兵器を駆使し、自分と同じ土俵に立つ相手国へはことごとく強気勝負ができるのですが、土俵が違うと途端に恐怖心丸出しになります。ベトナム戦争の際はそれが際立っていました。いや、本質的には太平洋戦争も兵士の数と兵器と情報量の勝負で勝てたようなもののアジア人が何を考えているのか、その常識観の相違から恐れおののいたのもこれまた事実です。神風特攻隊は彼らにしてみればあり得ない戦い方でありました。

アフガニスタンの20年が終わり、アメリカは撤収しました。敗退ではないか、とも言われています。それに対してアメリカ世論が盛り上がる感じもありません。理由は無関心だからです。これが大国相手の勝負ならアメリカ人も血気盛んになるのでしょう。朝鮮戦争では北軍が一気に押し込めたはずですが、北にちょっとした油断があり今の結果になりました。正直、アメリカ/韓国は危ないところだったのです。ベトナム戦争は熱帯、密林という悪条件で共産主義との戦いをし恐るべき損害を残しました。イラク戦争でイラクは復興できたでしょうか?アフガンはテロリストをかくまうタリバン相手でしたが一向に明白な結果は見えませんでした。

アメリカが世界の警官業務に無関心になり始めたのはオバマ大統領の時代でトランプ、バイデン両氏に引き継がれました。それは民主主義という名のもと、「無駄な金、労力、戦費」よりアメリカは成熟したのだから、その役割は誰かに代わってもらい、もっと偉大な国家としての威厳を保つほうが良い、と考えているように見えます。

しかし、冒頭のアメリカが偉大だと思われる理由は崩されつつある点も見逃せないのです。国土は3位のアメリカ(983万㎢)と4位の中国と23万㎢の差しかありません。資源はシェールオイルで一時期は世界で最も原油を採掘する国だったのに今は環境問題で低落の一途です。

人口は人数というより移民国家としての変質化が気になります。もともとは欧州などの白人が移民し、そののち、ヒスパニックが増え、今はアジア人が増えています。では今後、イスラム系を受け入れるかといえば疑問符が残るのです。つまり移民国家アメリカの行方がよく見えないのです。

経済と金融はまだ世界の中心にあります。しかし、暗号通貨が何らかの形で普及するのに合わせてドルの威信が今のような形にならないことも予見できるのです。中米エルサルバドルは来週からビットコインを法定通貨にします。多くの新興国はその行方を見守るでしょう。予備軍としてベネズエラ、トルコ、キプロス、アルゼンチンなどの名前が上がります。中国は元のデジタル化と国際化を確実に進めます。

アメリカはなぜ変わってきたのか、その一つに移民層の変化とともに非白人系の声がより強くなったからでしょう。その分野についてはカナダのほうがはるかに進んでいます。そして白人が外に逃げる傾向が見て取れます。英国ロンドンの人口分布でも同様の傾向がみられました。白人層はより保守的に、そして非白人層がより民主的政治を求める、こんな対立構図が出来つつあるのです。

国際社会の枠組みは民主的でありますが、それゆえに決められない仕組みでもあります。国連はその最たるものでしょう。ゆえに世界で力をつけつつあるのは皮肉なことに独裁的国家や強い指導力をもった国家であります。今、バイデン大統領にそれを求めるのは無理。ハリス副大統領においてはその存在感すらなく、副大統領職務遂行にかなり苦戦しているとされます。

アメリカが普通の国になったら日本はどうすべきか、ここはよく考えておく必要があります。アメリカの傘の下という考えはいずれできなくなる、それは考えるべきでしょう。アメリカはドライな国です。彼らはこういうでしょう。戦後76年もアメリカは日本を守り続けてきた。だけど、そろそろ自立するべきだろう、と。引導を渡されたら、日本に立ち上がる筋力があるのか、ということもよく考えるべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月1日の記事より転載させていただきました。