手術後初のローマ教皇インタビュー

ローマ教皇フランシスコは7月4日、ローマのアゴスチノ・ゲメリ・クリニックでセルジオ・アルフィエリ医師の執刀による結腸の憩室狭窄の手術を受けた。予定より長く10日間、病院に入院後、バチカンに戻った。同教皇は先日、スペイン語のネットワーク「COPE」のスパイン人ジャーナリスト、カルロス・エレーラ氏と手術後初の1時間半に及ぶ長時間のインタビューに応じた。

インタビューに答えるフランシスコ教皇(バチカンニュース9月1日から)

バチカンニュースは9月1日、その全容を公表した。インタビューの中で、教皇は手術後の状況、生前退位説の他、アフガニスタンの政変、中国との関係、安楽死問題、教皇庁改革などについて意見を述べている。バチカンニュースの記事の概要を報告する。

会見は和やかな雰囲気の中で行われ、教皇は自身の個人的な問題についてもさりげなく答えている。教皇が結腸の手術を受けたというニュースが伝わると、「フランシスコ教皇は辞任するのではないか」という噂が流れたが、教皇は、「辞任の思いは心の中にはない」と辞任説を否定した。

フランシスコ教皇は就任時から「ショートリリーフの教皇」と言われてきたが、来年3月に就任10年目を迎える。アルゼンチン出身の教皇は、「自分の辞任説のニュースについてはずっと後になって初めて知った」と説明している。教皇が病気になるたびに、辞任の噂が飛び交うのはバチカンでは決して驚くべきことではない。

教皇は、「わたしはまだ生きている。腸が33cm短くなっただけで、全て食べることが出来るようになった」と健康の回復を強調。9月12日から15日までのハンガリーとスロバキアへの司牧訪問を予定通り行うと明らかにした。

質問は世界情勢に移った。アフガニスタンのガニ政権崩壊、タリバンのアフガン全土の支配について、教皇は、「アフガン情勢は非常に困難だ。新しい統治者の国民への報復が行われないように、バチカンも外交を通じて努力しなければならない」と強調。米軍の20年後のアフガン撤退については「多分、正当な判断だろう」と述べるのに留めた。

中国との関係について教皇は、「中国は容易ではないが、私たちは対話を諦めてはならない」と述べ、「間違いを犯すことはあるが、それが前進の道だ。これまでのところ中国で達成されているのは、少なくとも対話だ。……新しい司教の任命のようないくつかの具体的なことはゆっくりと進められている。ある意味で、私たちは最も対立する状況下で対話の道を進めなければならない」と語った。

(バチカンは2018年9月、司教任命権問題で北京との間で暫定合意=ad experimentum=したが、昨年10月22日、バチカンのナンバー2のパロリン枢機卿は「2年間、暫定的に延長する」と述べた。同時期、中国共産党政権も公式に発表した。欧米諸国では中国の人権蹂躙、民主運動の弾圧などを挙げ、中国批判が高まっている時だけに、バチカンの中国共産党政権への対応の甘さを批判する声が聞かれた。バチカンは「司教の任命権はローマ教皇の権限」として、中国共産党政権の官製聖職者組織「愛国協会」任命の司教を拒否してきたが、中国側の強い要請を受けて、愛国協会出身の司教をバチカン側が追認する形で合意した。暫定合意は明らかにバチカン側の譲歩を意味している)

フランシスコ教皇は就任後、3つの課題に集中的に取り組んできた。「教皇庁の改革」、「バチカンの財政の透明性」、「教会での聖職者の未成年者への性的虐待事件の防止」だ。

フランシスコ教皇はインタビューの中で、「バチカンの財政の腐敗との戦いは依然として重要な問題だ」と述べている。バチカン裁判所は7月27日、バチカン前列聖省長官のジョヴァンニ・アンジェロ・ベッチウ枢機卿ら10人の不正財政活動に対する公判を開始した。べッチウ枢機卿らの主要容疑は、英ロンドンの高級繁華街スローン・アベニューの高級不動産購入問題での不正だ。同枢機卿自身は辞任後の記者会見で、「不正はしていない」と容疑を否認したが、同枢機卿の下で働いてきた5人の職員は既に辞職に追い込まれ、金融情報局のレーネ・ブルハルト局長は辞任した。ベッチウ枢機卿は2011年から7年間、バチカンの国務省総務局長を務めていた。問題の不動産の購入は、この総務局長時代に行われたものだ。

聖職者の未成年者への虐待事件については、「小児性愛の問題について私たちは行動を起こすべきだ」と述べ、「オマリー枢機卿が議長を務める児童保護委員会はこの点で重要な仕事をしている」と評価した。

安楽死問題にも言及し、「安楽死の合法化は、現代社会に浸透している『使い捨て文化』の印だ。役に立たない者は捨てられる。これは中絶にも当てはまる。問題を解決するために、人間の生命を破壊することは許されるだろうか。問題を解決するために契約殺人者を雇うのは正しいだろうか」と問いかけている。

なお、教皇は11月1日から12日にグラスゴーで開催される国連気候変動会議(COP26)に参加できることへの希望を表明した。教皇は、「私のスピーチはすでに準備中だ」と述べている。

フランシスコ教皇は、インタビューの最後に、望郷の思いを込め、「霧の深いアルゼンチンの秋にアストル・ピアソラ(アルゼンチンの作曲家、バンドネオン奏者)の音楽を聴くことができた日々を思い出す。通りに出たいが、自分はまだ10mも歩くことができないので我慢しなければならない」と語っている。

84歳の高齢のフランシスコ教皇にとって、世界13億人の信者の総責任者となって歩まなけれならないことは肉体的には非常に厳しいことだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。