相手の失点で漁夫の利の「独社民党」

2カ月前だったら話題に入らなかったテーマが独メディアでは今、報じられている。社会民主党(SPD)は連邦議会選挙(下院)後、どの政党と連立を組むか、ないしは組むことが出来るかだ。これまでは第1党、メルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)がどの政党と連立政権を確立するかが投票日前後の主な話題となってきたが、今回はCDU/CSUではなく、SPDがその主人公となってきたのだ。以下、説明する。

次期首相の有力候補に躍り出たショルツ氏(SPD公式サイトから)

先ず、「ビルト日曜版」の依頼で実施された世論調査機関「インサ」(Insa)の結果から見る。同調査は1427人を対象に先週月曜日から金曜日の間実施された。それによると、SPD支持率は25%で前週比で1ポイント増でトップ、CDU/CSUは1ポイントを失い20%だ。SPDとCDU/CSUの差が5ポイントと大差がついている。一方、「緑の党」は1ポイント減で16%、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が1ポイント増で12%、「自由民主党」(FDP)が13%のままで、「左翼党」は7%だ。

明らかな点は、SPDが第1党に躍進したとしても過半数からは程遠い。そこで「どの政党」との連立が可能となるかがテーマとなるわけだ。ドイツの複数メディアによると、SPDは「緑の党」と連立する可能性が高いという。SPDにとっては、「緑の党」との連立で過半数を獲得するのが理想的だが、両党だけで過半数に達するのは難しい。そこでSPD、「緑の党」、そしてFDPの3党連立政権も考えられるわけだ。

もちろん、CDU/CSUとSPDの現連立政権の再現はあり得るが、それでも過半数に届かないケースが非常に現実的となってきた。なお、SPDとCDU/CSUは「AfD」との連立は完全に排除している。

SPDのオーラフ・ショルツ党首相候補者(副首相兼財務相)は、「SPDは州レベルでも『緑の党』との連立は経験済みで、両党には大きな困難はない」と「緑の党」を未来の連立パートナーと見なしている。その一方、「SPDは左翼党とは連立しない」と明言している。ショルツ氏がわざわざ「左翼党との連立」を排除したのは、CDU/CSU側が「SPDは『緑の党』、そして左翼党の赤・赤・緑の連立を考えている」、さらに「ドイツで左翼連立政権が発足すれば政治も経済も大きなダメージを受ける」と批判していることへの返答だ。

ショルツ氏は、「CDU/CSUは国民に不安を与えている」と反論する。独日刊紙ターゲスシュピーゲルによると、ショルツ氏は、「左翼党は北大西洋条約機構(NATO)に対して明確な支持を表明していない。その上、健全な予算作成、大西洋横断パートナーシップに対しても同様だ。左翼党は連立を組む要件を満たしていない」とはっきり距離を置いている。SPDはその公式サイトでショルツ氏の写真と共に、「新しい出発と近代化」(Aufbruchund Modernisierung)を掲げて新生SPDをアピールしている。

一方、守勢に立たされたCDU/CSUもSPDの躍進を静観はしていない。「SPD・緑の党・左翼党」の3党連立政権が如何にドイツ国民、経済にとってダメージとなるかを有権者に訴える戦略に力を入れ出している。同時に、CDU/CSUの党首相候補者アルミン・ラシェット党首(ノルトライン=ヴェストファーレン州首相)は様々な分野から「同氏を支援するチーム」を創設し、巻き返しに全力投入してきた。

ドイツで過去16年間余り、メルケル首相のCDU/CSU主導の連立政権が続いてきたこともあって、国民には新しい顔を願う声が強い。その際、ラシェット氏では新鮮味がないことは事実だ。ベテラン政治家であり、メルケル首相と政策的には似ている。ポスト・メルケルではなく、リトル・メルケル政権の継続ということになるのだ。

CDU/CSUは世論調査では7月までトップを走ってきた。それが激変したのは、“あの出来事”を指摘する以外にないだろう。ラシェット氏は7月17日、シュタインマイヤー大統領と大洪水の被害に遭った被災地を訪ねたが、大統領が話している時、その後ろで現地視察の付き添い関係者と話しながら面白可笑しく笑っている姿がカメラに撮られたのだ。他政党から「不謹慎だ」と糾弾され、謝罪に追い込まれる事態となった。大洪水で家屋を失い、家人も失った犠牲者たちの前で笑ってしまったのだ。アンラッキーといえばそうだが、ラシェット氏の個人的人気はその後、急落し、CDU/CSUへの支持率も低下していったわけだ。

CSUの党首、バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相は「ヴェルト日曜版」とのインタビューの中で、「CDU/CSUが政権に入れないような状況になれば大変だ。SPDを逆転する可能性は残されているが、容易ではない」と指摘、「わが国は500万人の失業者を抱え、国民経済も厳しい。このような時に左翼政権が誕生すれば、国家財政の債務は膨らむ」と警告している。

政治家の一瞬の笑顔がCDU/CSUの支持率低下をもたらしたのだ。パーソナリティとしてはカリスマ性に乏しいうえ、大災害視察の際の不謹慎な笑いは致命的なダメージを与えてしまった。7月以後の世論調査結果を見る限り、そのように受け取らざる得ないのだ。

同じことが「緑の党」のアナレーナ・ベアボック共同党首にも言える。同氏は今年に入り世論調査ではいずれもトップを走り、ドイツで「緑の党」主導の政権が初めて生まれるのではないか、とメディアは騒いだ。しかし、同党首が公表してきた自身の学歴で問題があったとしてメディアで大きく叩かれ、支持率を急速に落とした。ベアボック党首は今年5月の段階で「首相の資格がある」と43%の支持を得ていたが、6月に入り28%に急落している。

7月の大洪水が生じて地球温暖化問題が再びメディアで大きく報道された時、「緑の党」はその機会を利用し、国民に環境問題を懸命に訴えたが、党首の負のイメージを回復するほどの成果は上がっていないのだ。

一方、SPDのショルツ氏は選挙戦でウルトラ戦略を展開したわけではないが、相手の失点という追い風を受け、支持率をジリジリと上げてきて、ついに第1党にまでなったのだ。少なくとも世論調査の結果によれば、だ。漁夫の利と言うべきかもしれない。ショルツ氏自身は典型的な社会民主党の左派活動家というより、実務派だ。与えられた職務を着実に黙々と果たすタイプだ。その同氏がポスト・メルケルの首相になる可能性が高まってきたわけだ。

投票日(9月26日)まであと3週間を切った。ポスト・メルケルを決める連邦議会選は予想外の展開となってきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。