東京に「新線」が必要なのだろうか?

ふと目に留まった日経の記事、タイトルは「東京メトロ『新線検討』山村社長、上場準備も進める」です。東京の地下鉄網整備はほぼ終了とされ、現在、有楽町線の延伸(東京メトロ豊住線の名称)が目先の具体的計画かと思います。

確かに構想だけ見れば半蔵門線の松戸方面への延伸、大江戸線の東所沢方面への延伸、品川ー高輪の新線で南北線に直結、(秋葉原ー)銀座-晴海ー国際展示場新線、押上-東京ー泉岳寺新線など目白押しであることは確かです。

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ただ、そもそも東京メトロは2004年当時、副都心線を最後に新線建設は行わない、と明言したのですが、役人特有の「それはその当時の背景、今は違う」という論理で少しずつ、方向性が変わってきているようです。

そもそもなぜ、上場を目指さねばならないのか、ですが、それをすることで政府はすでにその資金を震災復興債の償還に充てる「捕らぬ狸の皮算用」をしているためです。しかし、よく考えてみましょう。時代の変化に伴う与件の相違があるとしても「新線は作らない」と言わしめたほど、首都圏の鉄道網は完備しているということです。仮に10年に1本程度の延伸型の新線があったとしてもそれを理由に上場して民間資本を導入しなくてはいけない理由はないでしょう。つまり、株式上場のそもそも論からはズレが生じていて、財務省の国債償還の財源目当てのために本質的ではない株式上場をするということになります。

では東京メトロの経営はどうか、といえば正直、極めて優等生です。コロナ前の2019年の連結決算を見ると4349億円の売り上げに対して純利益は892億円です。利益率20.5%です。(営業利益なら22.7%)。配当は151億円、配当性向は25%と国と東京都が持っている資産としては立派な数字なのです。

私はこの手の会社は成長企業というより安定成熟企業として存在させればよいと思っています。高配当を維持できる企業です。そして更に配当を上げるために未来への挑戦をしていただくのが本望ではないでしょうか?

私は以前から思っているのはなぜ、地下鉄が無人運転化に踏み込まないのかと思っているのです。JRなどが無人運転の実験を行っていますが、本質的には地下鉄のほうが無人運転には向いています。そして飛び込み防止用のホームドアも82%まで設置されています。ならば当然その先に見えるのは無人運転であるべきです。バンクーバーのスカイトレインと称される鉄道システムは1985年に開業以来、ずっと無人のリニア式です。雪などで線路の凍結リスクがあるときなどは有人運転に切り替える方式になっています。事故はほとんどなく、システムトラブルも昔に比べぐっと減りました。

次にコロナの際、JRを含め、鉄道各社は減便をしました。私は東京の事情が分からないので外しているかもしれませんが、当地のスカイトレインは頻発時は2分30秒に一本出ています。理由は混雑によるコロナ感染を防ぐために減便させずにガラガラでも運行したのです。確かにコロナでひどいときには一両に数名という感じでしたが、逆に安全安心感があったのは事実です。

首都圏の鉄道網ですが、私はMass Transitの時代は終わったと思っています。そもそも人口が減り、コア就業者である20-50代は今後、激減していきます。高齢者は出歩くことは減っていくでしょう。リモートワークもあります。つまり、電車に乗るときのあの「押しくらまんじゅう」のような光景は「セピア色の思い出」でしかないのです。

10年か20年もすれば乗り物は自動化され、パーソナルビークルがいつでもどこでも目的地に向かって走ってくれる時代になると思います。また、バス便ももっときめ細やかな対応、例えば幹線路線は連結車両でより多くの乗客を運び、閑散な地区はミニバスをもっと投入する、またバス専用レーンを確実なものにし、路駐を完全に取り締まることでバス(できれば自動運転バス)が電車の代替となれば全体のバランスは非常によくなります。

東京メトロも都営地下鉄も役人が考えるプランなので枠から飛び出せない気がしています。首都圏の移動をもっと楽しく、たやすく、動きやすくするのが社命だと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年9月7日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。